2015年8月28日(金)20:00
「攻殻機動隊」25周年企画 「攻殻機動隊」が背負った時代性 後編 寄稿・氷川竜介 (2)
■デジタル技術で圧巻の情報量の「イノセンス」
1作目から10年弱で急速進化したデジタル映像技術、そしてネットワーク環境。2004年公開の続編「イノセンス」(「攻殻機動隊2」として制作スタート)は、そうした時代性の激変に寄りそい、人のアイデンティティをより深く掘り下げた作品でした。
よく「難解」とされる作品ですが、衒学的な用語やトリッキーな映像のトラップに惑わされているのだと思います。バトーとトグサの小難しい会話も、電脳でネット検索して「らしい表現」を援用しているだけ。犯罪捜査に分岐はなく、バトーの本心は「この捜査で素子に再会できるかもしれない」という未練で、ストレートにコトが運ぶシンプルなストーリーです。ビジュアルもセリフも情報量の特盛りで、その目的は「シンプルな本質」を隠すこと。そこから「サイボーグ社会に生きる者の実感」を伝える作戦です。
本格的デジタル時代を迎えた映像技術の導入で、ガイノイドの肌には「玉虫色」のテクスチャを見えない程度に薄く乗せ、背景美術の上にも入射光や反射光を何重にも重ね、大量の情報が無意識のうちに脳へ届くよう設計されています。意図は「映像のサイバーパンク」に他ならない。機械化された脳には、前人未踏の膨大な情報量が流入してくる。これは21世紀、日々拡大していくネットのフロンティア感覚とリンクするものです。
その果てには、意識の範囲のどこまでが自分か他人か判然とせず、生と死も感覚的に分かちづらくなるかもしれない。それは他ならぬバトーの悩みでもあるのですが、サイバーレベルの共感を獲得するため、フルデジタルでなく手描き作画・美術に大量のデジタル情報を混入させた方法論が秀逸だと思いました。これは先の「アニメのサイボーグ化」という筆者なりの概念の発展形だと確信したのです。
なので、公開時に押井守監督インタビューのチャンスがあったとき、ズバリ最初の質問としてぶつけてみました。すると、「それはあるね」と明言の回答があったのです。演出意図として自覚的だったかは明らかにされませんでしたが、現代人は携帯電話やインターネットで常時接続することで、すでに自分の意識を拡張している。体内に機械を埋めこむかどうかはもはや本質的な差ではない。そんな発展的な回答が得られて、さらなる衝撃を受けました。
つまり「現代人はすでにサイボーグになってしまっている。まだ気づいていないだけ」ということ。だからこそ大衆の無意識が「攻殻」を求め、その結果としてヒットした。これで「なぜ難渋かもしれない『攻殻』というタイトルが、世界的に大きな影響力をもち得たか」という謎の真相が、かなり腑に落ちました。
さらに10年余が過ぎた現在、その得心はより濃厚に現実化して、間違ってなかったと感慨深く思います。スマフォ依存でメカが手から離せなくなり、事実上腕にくっついてるのと同じになったサイボーグが主流になった現在、サイバーパンクは現実化したのです。
作品情報
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2029年3月、総理大臣暗殺事件という戦後最大の事件が発生した。被害者の中には草薙素子のかつての上司、501機関のクルツもいた。バトーやトグサたち寄せ集めメンバーと捜査を開始する草薙。「お前たち...
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