2015年8月28日(金)20:00
「攻殻機動隊」25周年企画 「攻殻機動隊」が背負った時代性 後編 寄稿・氷川竜介 (3)
■サイバーパンクの大衆化「攻殻機動隊 S.A.C.」
しかし「攻殻」がこれだけ長く愛されたのには、それだけでは説明のつかない不思議な部分、奇跡的な事象もたくさんあります。通常ならこうした先進のテーマを深め、その果てに何らか先端の真実を言い当て、しかも現実化までしたら、作品の使命は終わりそうなものです。でも、そうはならなかった。そこに2002年のTVシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(以下「S.A.C.」)の果たした役割は大きいと思います。
もともとは「イノセンス」への導入も兼ね、「攻殻ワールド」をより一般的な観客層、大衆に分かりやすく伝えるTVシリーズという制作意図が、筆者なりの理解です。あんなにもマニアックで複雑かつ専門性、さらには大衆の理解との溝(キャズム)を含む性質を濃くもつ「攻殻」の大衆化、カジュアル化というのは逆張りもいいところですが、しかしそれに成功したことが、予想を超える大きな成果をもたらしたのです。
神山健治監督のシリーズ初監督作品でもありますが、放送前に監督に取材ができたのは運が良かったです。「“お茶の間の攻殻”をめざそうとした」という鮮烈なキーワードを聞けたからです。「お茶の間」「サイバーパンク」と、一番遠そうな2つのキーワードをリンクさせ、溝をジャンプして橋渡しをすれば、大きな革新的エネルギーが生まれる。興奮したのは、筆者が元電子系エンジニアでトランジスタの原理が脳内に染みついているからですが、発想それ自体がSF的だと感服したのです。
お茶の間にサイバー的概念を視覚化して伝えるのは言うほど簡単ではなかったはずですが、神山監督は次々に妙手を打って「攻殻の大衆化」を具現化していきます。登場人物の若返り、熱血でユーモラスな方向性、行動により事件が転がる軽妙な展開、そして大衆の代弁となる正義感などなど。かつて70年代、80年代、刑事ドラマや時代劇などで当たり前にあった犯罪アクション感覚も連想されます。
決定的なのは、「昭和の怪事件」を「サイバー犯罪」へ投影した手法です。つまり人が機械化されても本質が変わらないとしたら、似たような事件が繰り返される、という発想です。そこに「未来技術」が加わることで新しいものにできるし、見せ方や味つけはいくらでも新規にできる。この「知ってるような気がするけど新しい」という感覚は、「攻殻ワールド」の可能性を大きく拡大したものです。
巧妙なのは、原作マンガとも押井守版とも決して隔絶していないこと。それぞれにリスペクト、オマージュもあるし、咀嚼した上で神山流の発展を考えている、そんなアプローチで主題を変奏しながら、互いに響き合う関係性がある。つまり「3作目の攻殻」が出来たことで関係性が線形から平面化し、また新たなものを生みだし得るネットワークの萌芽を形成したということが一番大きいのです。
実際、「S.A.C.」は第2シーズン「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」(04)と長編第3作「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」(06)を生みだしました。ことに後者は2011年に3D立体視映画としてリメイクされ、観客は公安捜査官の視界をサイバー的に体感する機会を得ることもできました。また北米ではケーブルテレビでシリーズのリピートが繰り返され続けているとも聞きます。
映像表現では「TVシリーズ向けCG表現」も開拓しています。街並みを走る自動車、遠景を歩くモブ(群衆)をCGで表現し、主観的な接近・後退の演出では「カメラマップ」というツイタテ状の3Dに背景を貼り込む技法で奥行き変化を簡易に出す。20世紀までは「CGはゴージャスな表現」という認識が一般的でしたが、「ツールとしての簡便用法」という発想で、むしろ「至るところCGなのに目立たない」という方向性をめざしたのです。多くは後に業界スタンダード的になっていきますし、デジタル技法の不可視的な拡充は、これもまた「サイバーパンク的」と言うことができると思います。
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