「ヤング ブラック・ジャック」加瀬充子監督インタビュー　前編

『ヤング・ブラック・ジャック』第1話場面カット

(C)ヤング ブラック・ジャック製作委員会

イメージを拡大

　若き日のブラック・ジャックを描くために　

2015年10月新番となるアニメ「ヤング ブラック・ジャック」は、いわずとしれた手塚治虫の名作「ブラック・ジャック」の主人公・間黒男の若き日を描いた漫画作品を原作としている。「ブラック・ジャック」譲りの医療に対する深い造詣だけでなく、1970年代前半の社会情勢も色濃く反映されており、骨太な作りとなっている。今回はそんな本作を手掛ける加瀬充子監督にインタビューを敢行。気になる制作法を聞いた。

「ヤング ブラック・ジャック」は手塚氏の底本を基調としながらも、キャラクターデザインは、より現代的な方向にリファインされている。その再現に苦労はなかったのだろうか。

「正直、かなり繊細ですので、再現が難しいです。キャラクターデザインの片山（みゆき）さん、三浦（菜奈）さんは原作に合わせるということで、相当苦労していたと思います。ポイントはまつげともみあげですね。手塚さんの底本はまつげがあまりないですし、もみあげも普通なんですよ。でも、今回は少し長い。特に下まつげはキャラクターとしての性格付けに関わっていると感じます。あとはギラギラしている赤い目がポイントですね。ただ、原作では真っ赤ですが、本編の方では少し抑え気味の赤にしています。それで鋭く見据える際などに、表現としてより赤くするということをやっています」

(C)ヤング ブラック・ジャック製作委員会

イメージを拡大

あわせて作画をする際のこだわりも聞いた。

「デジタルになってから、今まで描けていた細い線が潰れるようになったんですよ。どんなに寄っていこうが結局ドットになってしまう。でも、下まつげにしてもにしてまつげにしても、外側に向かって細くなる三角形にしないと繊細さがでない。だからこの部分だけは拡大して作画をしたりしているんです。それで、まつげを綺麗に作り直したりもしていました」

底本となる「ブラック・ジャック」と変わったのは外見だけではない。若き日の間黒男は、後のブラック・ジャックとは若干異なった考え方を持っているようだ。加瀬監督が意識したのはどんなことだったのか。

「学生だというところを意識するようにしています。今作では、彼が医大の4年生だった頃がスタートです。学生ってまだ子供のうちに入っている。ですから、大人とは考え方もしゃべり方も全部変わってくるんです。ただ、それはそれで魅力もありまして……。のちのブラック・ジャックは医者としてある程度技術も経験も出来ていますが、この頃は才能を生かすために努力をしている時なんです。第1話でも見せたように、毎日執刀のシミュレーションをしている。才能と努力を兼ね備えた人間像にするということを大事にしたいと思っていました」

第1話 手術シーン

(C)ヤング ブラック・ジャック製作委員会

イメージを拡大

のちのブラック・ジャックとは違い、間は第1話の段階では手術もしたことがなかった。

「失敗もあります。手術をしたことがない第1話の状態ですと、“ここを切ると血が出る”というのは知っていても、どれくらいの量が吹き出てくるかは切ってみないとわからないわけです。ですから、そういったところはアクシデントになり得る。第１話の時にそれに近い状態になりましたが、グラフト、要するに人工血管がないからということで、足の大腿部にある太い血管を取ってそれを代わりに使うんです。彼は諦めない男なんですよ。そもそも本当は、医学生は診てはいけないわけです。でも、自分の目の前には患者がいる。そうなると“これはオレの患者だ”と思う。医学生だから、のちの彼にとって面倒なことになるかもしれない。でも、そこで諦めず助けようとする。それは医者のあるべき姿ですよね。……医者じゃないけど（笑）。だから第1話の段階で、もうブラック・ジャックの片鱗はあるということなんです」

「もちろん、学生の身ですから正式な病院で手術はできません。実際、藪さんのところも病院ではなくて、診療所なんですよ。ベッドがないんです。ある程度ベッドがないところだと、名医が何人そろっていても診療所というかたちになる。さらに、藪さんのところは看護婦さんがいない。看護婦さんがいないと入院設備が用意できないんです。だから第1話の拓くんはきっと近くの病院に最終的に搬送されたんだと思います。アニメ内で描写はないですが、そういう制約も色々あって、間くんはこれから大変ですよ。まあ、それでも彼は諦めないと思いますが（笑）」