2016年7月14日(木)20:00
第1回 宇野朴人(原作)インタビュー 「戦記物とキャラクター物の魅力が両立した作品になっています」 (3)
■「SHIROBAKO」に考えさせられた「原作者のあるべき姿」
―― それでは、ここからはより深くアニメについてお話を伺っていければと思います。まず、アニメ化実現の第一報を聞かれていかがでしたか?
宇野 いや、びっくりしました。「アルデラミン」は1巻からどっと売れた作品ではなく、それなりに段々伸びていったのですが「このまま知る人ぞ知る作品として完結までいけたらいいな」というのがささやかな望みでした。それがまさか、こんなことになるとは……。
―― ワクワク感があった?
(C) 2016 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/天鏡のアルデラミン製作委員会
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宇野 もちろんです。ただ、それ以上に「よくこれをアニメ化しようと思ったな」というのも正直なところでした。人が大勢出てきますし、軍隊を描写するのが大変だろうというのは、素人目にも分かりますからね。世界観自体にも独自性があるので、他から流用しづらいでしょうし……。しかも、イクタが怒涛(どとう)の説明キャラクターですので、アニメでは表現しづらい部分も多々あるかと。それらを全部踏まえた上で、それでもアニメ化しようとしてくれた。そこにチャレンジ精神を感じました。
―― 確かに、アニメにするのに難しい作品だとは思います。そのあたりは、アニメ版ではどのように昇華されているのでしょうか。
宇野 尺の縛りという面はあるのですが、一方で原作になかった魅力もたくさん付加されています。1巻エピソード終盤の、サリハスラグ兄様の表情なんかは、アニメですごくいい感じに表現されていると思います。どうしても端折られてしまう部分は、アニメならではの魅力が補ってくれていると思います。
―― キャラの表情や芝居は楽しみな部分ですね。
宇野 イクタ役の岡本信彦さんが、かなり個性的な芝居をしてくださっています。イクタは熟女をとっかえひっかえしたりはするのですが、嫌味のあるキャラクターとして描いているつもりはないんです。どちらかというと癖のある部分に重きを置いていて、それが魅力に繋がっていると思っています。そういう意味で、岡本さんは本当にバッチリでした。イクタというキャラクターがくっきり輪郭を持って、アニメでは表現されていますよ。
―― アフレコには立ち会われているのですか?
宇野 はい。毎回参加しています。「アルデラミン」はややこしい名前が多いですから(笑)。チェックしないと、名前を間違えてしまうことがあるので、これは外せないんですよ。それから、1~3巻でそれぞれここが見せ場というシーンがあって、それなりにセリフ回しはなるべく原作のテイストを残した演出にしてもらいたいと思っているんです。そこは脚本の段階から意見させてもらっているのですが、アフレコでも気にしているところです。
―― 脚本チェックもかなりしっかりされているのですね。
宇野 はい。ただ、小説だと文章で全部伝えようとしているので、どうしてもそれを脚本で引き継ぎたいと思ってしまうんです。とはいえ、私は映像と音楽がついたビジョンが浮かんでいるかというと、怪しいところもあるので、直す時にも自信が持てない場合はありましたね。「本当にこの直しの指示でいいのか」というのが常にあります。
―― 原作側がそれだけ苦心しながらやられているのであれば、ファンは安心できそうですね。
宇野 そういう部分で原作ファンを裏切るというのは、今回ないと思いますよ。やっぱり原作者はちゃんと見ていなきゃダメだと思います(笑)。実は、監督から「SHIROBAKO」という作品を見て欲しいと薦められたんですよ。「原作者とアニメ現場との関係性の参考に」と言われて、見てみたんです。本当に面白かったです。あの中での原作者のポジションを見ていると、結構考えることが……(苦笑)
—— 確かにそうですね(笑)
宇野 こうなっちゃいけないなと思えました。でも最後の原作者の気持ちはよく分かるなとも思うんです。
―― 「SHIROBAKO」を薦めるというのは驚きですね。この連載では監督にもお話を聞く機会があると思いますので、いずれ真意を伺いたいと思います。
■戦記物の本質から逃げない作品にしたい
―― アフレコをご覧になって、絵の面についてはいかがですか?
宇野 戦記ものが本質的に持つ難しさが、だいぶ緩和されているような気がしますね。絵が入る分、分かりやすくなる部分もあるんです。川を挟んだ戦場なんかは、絵になったからこそ、分かりやすくなった典型ですね。
―― 確かに、戦場の描写については文字では難しいですよね。
宇野 原作も戦場そのものの構図はなるべくシンプルに置いているつもりなんです。あるいは、ある程度複雑になっても、目を向けるべきはここの部分というのを切り取って提示しているつもりです。
―― 視聴者としてもそれほど混乱せずに済むようにされている。
宇野 はい。戦場がシンプルであるというのは、軍勢同士の争いの面白さにも繋がるんですよ。派手な戦場は、構造的にはいくらでも考えられるのですが、あえて状況を読者に理解できる範囲でシンプルに置いて、これまた説明されたらシンプルなのですが、そこに至らないという発想で打開する。ここに面白さがあると思っています。
―― なるほど。では最後に、まだ制作は途中だと思うのですが、あえて見所をと言うとどのあたりになりそうでしょうか。
(C) 2016 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/天鏡のアルデラミン製作委員会
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宇野 序盤から前半部分は、ある程度、戦記ものならではの厳しさを匂わせつつ、基本的に楽しんで見ていただける内容だと思います。騎士団メンバーそれぞれがどういう風に活躍してくるのか。期待を持っていただければと思います。
―― 後半は、さらに戦況が厳しくなるのでしょうか?
宇野 はい。いきなり難易度が、ベリーハードになるんですよ。このあたりで自分が大切にしていたのは、敵も味方も、兵が死んでいくシーンを端折らないようにするということでした。ギリギリの状況下で、主人公側が最善の手を尽くしても生まれてしまう犠牲が、戦記物の本質にあると思います。そういう「ままならなさ」からは逃げないように描いたつもりなので、後半はそこもご覧いただきたいです。
―― では、そのあたりにも期待しつつ、まずは前半、イクタたち騎士団メンバーを見守っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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精霊が実体として存在し人間のパートナーとして共に生きる世界。「カトヴァーナ帝国」の少年イクタ・ソロークは、昼寝と徒食と女漁りに精を出し、日々を怠けながら過ごしていた。イクタは、軍部の名門イグセム...
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