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イベント 2016年10月20日(木)20:00

【TIFF2016 特別寄稿】成長する夏の作家・細田守 (3)

●東映アニメーション時代の各作品

さて特集では「作家性の萌芽 1999-2003 (細田守監督短編集)」というタイトルでまとめられた東映アニメ時代の作品上映が、特に貴重な機会と位置づけられる。

選定段階ではさまざまな候補を挙げたが、関係各所との調整の上で最終的な作品が決まった。意図というより結果的にではあったが、まさに「作家性の萌芽」に過不足ないブロックに仕上がった。特にスクリーンへと投影したとき、作品の長短やPV、TVアニメ本編、オープニングなどの種別によらず、細田守監督が「映画」をつよく志向し続けてきたことが、浮き彫りになると確信している。

東映アニメーション時代の細田守の歩みについても、ここで簡単に記しておこう。1991年に入社した細田守は、当初数年、アニメーターとしてキャリアを重ねている。1995年に東映アニメ初の演出家採用試験が開催された結果、作画部門から演出部門への移籍が見事に実現。1997年にTVシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎(第4期)』で演出デビューをはたす。

今回上映となる『劇場版デジモンアドベンチャー』は1999年、東映アニメフェア用につくられた20分の短編である。TVシリーズで活躍するキャラクターたちの前日譚として企画されたが、団地の生活感描写や出現したデジモンの建物との対比による表現など、細田的リアリズムが初手から満載だ。そして年齢や感性のわずかな差で「信じられないものを見た原体験」が異なるというマルチな視点は、実に卓越したものだった。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

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続く『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(00)は、その斬新さで本格的な衝撃を各界にあたえた40分の東映アニメフェア作品。精緻でスタイリッシュなレイアウトで描かれたお台場地域の現代建築、生活の点描と世界に拡がるネット世界など、細田守監督の視点が堪能できる作品だ。インターネットが日常化した環境と人の関係は『サマーウォーズ』へ継承されるが、子どもとデジモンの心のつながりが「ふたつの世界の交錯」となって奇跡を起こす構造は、キッズアニメならではの格別なものである。

(C) ABC・東映アニメーション

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加えてTVシリーズ『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』で各話演出を担当した第40話「どれみと魔女をやめた魔女」は必見中の必見作品。進路を見失ったどれみが元魔女の未来(声:原田知世)と出逢うエピソードだ。長時間かけてゆっくり動くガラス細工に「時の移ろい」を象徴させ、老化しないことの視点で恐るべき人生の真実を突きつける異色作である。内容的にも作品成立的にも『時をかける少女』と多層的に接点を持っていて、作家性を考えるときには、多くのヒントが得られるに違いない。

TVシリーズでは、演出を担当した『明日のナージャ』のオープニングとエンディングも上映される。前者は広い世界へと旅立つ高揚感を3D的なカメラワークとスクロールで強調。後者は細田演出の特徴である同ポジ(カメラをFIXにして被写体を入れ替える技法)の極致で、鋭い演出テクニックが堪能できる短編である。

現代アーティスト村上隆とのコラボレーションとしては、ファッションブランドのルイ・ヴィトン店頭プロモーション用短編『SUPERFLAT MONOGRAM』と複合施設・六本木ヒルズ開業記念の短編『The Creatures From Planet 66 ~Roppongi Hills Story~』の2本が上映される。前者は『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』にインスパイアされた村上隆からの依頼によるもので、細田監督にとってはリメイク的要素もある作品。大学で専攻した美術に対する造詣をうかがい知れる掌編である。後者は今回、「聖地」にあたる六本木ヒルズで上映されるため、特に価値の高いプログラムとなっている。

東映アニメは、クライアントとエンドユーザーのために完璧な製品を作る「工場」に近い性質をもっている。その中で細田守がオーダーに応えつつ、何をどう表現して、「映画」にどんなアプローチと希望をもっていたか……。トータル2時間強の上映時間から、その志は克明な「像」を浮かびあがらせるだろう。

なお細田守が演出に転じた1997年から、東映アニメはペイント・撮影・音響・編集をデジタル化し、同時に3DCGを本格的に投入し始めた。『劇場版デジモン』の1作目のみセルとフィルムで、他は手描き2Dと3DCGのハイブリッド、『66』のみフル3DCGの制作である。現場の変化、表現スタイルとしてもデジタル時代の最先端を走り続けてきた細田守の20年弱――その大きな変化にもぜひ注目してほしい。

●まだ見ぬ新たな《地図》を描くために

(C) 2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

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常にどこか懐かしく、同時にかつてなかった新鮮な感動を呼びさますビジュアルと作風と、その背後にある確固たる世界観。アニメーションという「動く絵」だけが可能とする表現を駆使して、感情重視の物語をつむぎ出す意欲的な姿勢をもつ映画監督・細田守は、常に高みをめざし、前人未踏、新天地の《地図》を芸術の世界で描き続けようと進化し続けている。

おおかみこどもの雨と雪』では、「ほぼ全人類が母親から生まれてきた」という真実を改めて浮き彫りにし、生命の継承と連鎖を明らかにした。『バケモノの子』は、現実世界と二重化されたバケモノと人間の子が師弟関係を結ぶことで、違うもの同士が互いの欠落を補いあって成長できる可能性を示した。いずれも根幹中の根幹であり、驚きのともなう新鮮な提唱であった。

恋愛・結婚・子育て・家族・師弟と、これらのモチーフは世界の観客すべてに届く、究極の普遍性をそなえている。そんな希有な作家性は、どこから来てどこへ向かうのか。アニメーションと映画の、いまだ誰も見ない可能性とはどこにあるのか。

時代とともに成長しつつ、探求をし続ける作家である細田守、そのチャレンジ精神の行く末を見届けるために、これまでの軌跡を一挙にたどってほしい。

氷川竜介
アニメ・特撮研究家。1958年、兵庫県生まれ。1977年に黎明期のアニメ・特撮マスコミに参加、音楽アルバム、ムックの編集を担当。2001年から著述専業に。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。2014年4月より明治大学 大学院客員教授。『時をかける少女』以後、細田守監督作品のパンフレット、ビデオソフト解説書などに寄稿、『バケモノの子』ではオーディオコメンタリーに出演。近著:『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)など。

作品情報

時をかける少女

時をかける少女 3

あるきっかけから「今」から過去に遡ってやり直せる力、タイムリープ能力を持ってしまった紺野真琴は、ひとたびその使い方を覚えると、何の躊躇も無く日常の些細な不満や欲望に費やしてしまいます。大好きなも...

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