2024年11月16日(土)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第43回 細田守監督の新作が公開されなかった24年夏
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※本コラムは、7月下旬に執筆した原稿の再録です。
2006年公開の「時をかける少女」以降、3年おきに劇場公開されてきた細田守監督の新作映画が今年は公開されない。昨年12月に行われた24年の東宝配給作品ラインナップ発表会で告知がなかった時点であれっと思い、24年に入ってしばらく経っても音沙汰がなかった時点で、3年おきのペースが途切れてしまうのだなと確信するようになった。
夏アニメ映画の3年周期
新海誠監督も「君の名は。」以降、東宝で「天気の子」「すずめの戸締まり」と3年おきに長編新作を発表している。国内最大手である東宝ではここ10年近く、細田監督、新海監督、ジブリなどそれ以外のアニメ映画と、夏の大作アニメ映画が被らないよう3年周期でそれぞれの新作が公開されてきた。直近を振り返ると、「竜とそばかすの姫」(21)、「すずめの戸締まり」(22)、宮﨑駿監督の新作「君たちはどう生きるか」(23)という具合で、今年は細田監督のターンだと思っていた。
細田監督の新作がない今年の東宝は、夏のアニメ映画として8月に、テレビアニメ発の「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト」「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記」のほか、「けいおん!」などで知られる山田尚子監督によるオリジナル作品「きみの色」が公開される。ただ、「サマーウォーズ」以外は7月に公開されていた細田監督の新作と違い、いずれも8月中の公開で、夏休み映画としては7月12日に封切られて大ヒットしている実写映画「キングダム 大将軍の帰還」が細田監督の新作の代わりになっている印象だ。
例年に比べると夏のアニメ映画が手薄であることを狙ってか、東映では8月13日から「THE FIRST SLAM DUNK」が“復活上映”される。22年12月に公開され興行収入150億円超えの大ヒットを記録した同作は、封切り時を上回る全国380館以上の映画館で上映予定で、ラージフォーマットのIMAX、ドルビーシネマでの上映も実施。バスケの試合を一試合まるまる描く構成のため、スポーツ観戦をする感覚でリピート鑑賞がしやすく、その面白さと破格の映像は折り紙つき。リバイバル上映の域を超えた興行を目指していることがうかがえ、夏映画の台風の目になることは間違いないだろう。
手描きの作画の限界?
21年公開の最新作「竜とそばかすの姫」のとき筆者は細田監督にインタビューし、3年おきに新作を作り続けることについて聞いたことがある。細田監督は「作品をつくり続けてこられたのは見てくださった皆さんのおかげだと思っています」と感謝しながら、「3年に1本つくっていくことは大事にしています」と答えてくれた。3年ペースで映画を企画していく苦労を聞くと、世の中の変化に目をむけていれば自然と企画のヒントは見つかり、「3年に1本はむしろゆっくりなペース」で、「ほんとは2年に1本できたらいいんですけど、それはスケジュール的に限界ですから」とも話してくれた(編注)。
「時をかける少女」は、スタジオジブリで監督予定だった「ハウルの動く城」の制作が中止され、一度はアニメの仕事を辞めようとしていた細田監督が、当時マッドハウス社長だった丸山正雄プロデューサーによる企画で、起死回生のチャンスとしてわずか9カ月あまりで制作された映画だった。小規模公開ながらロングヒットとなった同作から、「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」と興行収入は右肩あがりに伸び、国民的アニメ監督のひとりになった。
夏の入道雲が印象的に描かれることの多い細田作品は“夏の映画”のイメージが強く、数年おきに見られる夏の風物詩として毎回楽しみにしていただけに、今年の公開がないのは残念だが、細田監督の新たな挑戦のための雌伏の1年ではないかと期待している。
18年公開の「未来のミライ」は、興行収入が初めて前作を下回り、細田監督の2人の子どもの振る舞いから着想したという物語は、筆者のみたかぎり一部で現実の子育てとはかけ離れた浮世話だというような不評の声が一部でみられた。しかし、作り手のパーソナルな経験を作品にすることが当たり前の海外では高く評価され、アカデミー賞長編アニメ映画賞、ゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネートされるなどした。
最新作の「竜とそばかすの姫」は、「未来のミライ」での海外の手ごたえをきっかけに、作品世界を大きく広げてエンタメ度を高めながら、よりグローバルな方向に舵を切った。「美女と野獣」をモチーフ、ミュージカルのような音楽推しの構成、多くの海外クリエイターの参加など、細田監督が定期的に手がけてきたインターネットの世界を描く作品でありつつも、世界の観客を意識した作品づくりをしているように感じられた。同作は第74回カンヌ国際映画祭で新設の「カンヌ・プルミエール」部門に選出され、細田監督は国内の初日舞台挨拶にフランスから中継で参加したことからも、そのことがうかがえよう。
「竜とそばかすの姫」は、制作面でも大きな変化がみられた。これまでこだわってきた手描きの背景美術をコロナ禍の影響もあってデジタルに切り替え、アニメーションについても本編の半分近くを手描きの作画ではなく3DCGにしている。主人公の少女が高知県の田舎町で暮らす現実世界は手描き、歌姫として活躍するコンピューター<U>の世界は3DCGと明確に分け、CG特有の硬さが感じられることが多い3DCGでキャラクターの芝居を見事に表現していた。筆者は、このシーンは手描きか3DCGかと意識してアニメを見ているほうだが、それでも<U>の世界の一部は手描きだろうと思っていたので、細田監督の口からすべてCGだと聞いて驚いた記憶がある。
前述のインタビューのなかで細田監督は同作の制作中、「手描きの作画の限界みたいなことをちょっと感じました」とも語っていた。筆者の理解で平たくまとめると、若手のアニメーターにはチームで作品をつくる意識が希薄な人が多い傾向にあり、自分の担当パートさえ目立てばいいと考えているような仕事の仕方をする人もいる。それでは作品はつくれないという背景があるそうだ。
そんなことから筆者は、細田監督の次回作は全編3DCGで制作しているのではないかと勝手に予想している。手描きアニメより予算も制作期間もかかる傾向にある3DCGだからこそ、3年サイクルではつくれなかったのではないか。今年5月の求人情報で、制作元のスタジオ地図は制作進行職を2025年10月末までの業務委託として募集している。そこから考えると来年25年夏~秋には次回作が公開されるのではないかと思う。「竜とそばかすの姫」の素晴らしい3DCG表現を考えると、さらにすごい作品が見られるのではないかと作品内容とあわせて今から楽しみにしている。(「大阪保険医雑誌」24年8・9月合併号掲載/一部改稿)
編注:「竜とそばかすの姫」細田守監督のインターネット的なつくり方と作画の未来
https://anime.eiga.com/news/113954/
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
作品情報
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高知の自然豊かな村に住む17歳の女子高生・すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずはその死をきっかけに歌うことができなくなっていた。いつの間に...
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