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インタビュー 2021年7月21日(水)19:00

「竜とそばかすの姫」細田守監督のインターネット的なつくり方と作画の未来

細田守監督

細田守監督

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アニメーション映画「竜とそばかすの姫」では圧倒的な物量でインターネット世界が描かれ、自作に積極的にCGをとりいれてきた細田守監督が“本丸”と語る3DCGのキャラクターに芝居をさせることに挑戦した。また、現実世界は手描きの作画、仮想世界は3DCGとコンセプトで制作スタイルを分けている。<U>の世界をつくったプロダクションデザインのエリック・ウォン、CG作画監督の山下高明、美術監督の池信孝らとの仕事をひも解きながら、作品のメイキングを中心に話をうかがった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

■世の中の変化に目をむけて映画をつくる

――細田監督は「時をかける少女」から3年おきに映画をつくっています。毎回勝負の結果としての足跡だとは思うのですが、このペースでつくっていくのは大変なご苦労があるのではないでしょうか。

細田:サイクルとしてはたしかにそうで、3年に1本つくっていくことは大事にしています。といっても、これは会社のランニングコストのためとかでは全然ないんです。地図という会社は3年に一度映画をつくる以外の仕事をほぼしていなくて、普通の会社だったら毎年売り上げがたつような作品をつくったりしますよね。3年に1回しか売り上げがたたない会社って法人税上もっとも不利なそうなんですけど、それをおしてでも映画をつくる以外の他のことはやらないっていう。僕自身が3年サイクルでつくる大変さ以上に、このやり方で会社を続けていくのは大変なことだなという気はしています。
 映画というのは公開してある程度の人に見ていただかないと次の作品をつくることができないわけで、地図設立から10年、「時をかける少女」公開から15年、作品をつくり続けてこられたのは見てくださった皆さんのおかげだと思っています。

――3年ペースでつくっていく際、企画についてはどんなふうに考えられているのでしょうか。

細田:3年ごとに映画のネタがあるのかみたいなことを思う方もいるかもかもしれませんが、世の中が変化していますからね。そこに目をむけていれば自然と描くべきものとか、これからどんなものが人々の関心を集めていくのか分かるんじゃないかなと思っているんです。
 社会的な情勢とはまったく関係のないものをつくろうというなら話は別ですけど、僕の場合はそういうものが映画だとはあまり思えなくて、やっぱり見ている側も現代のなかに生きているわけじゃないですか。そこに問題意識のようなものがあるとして、喜びや不安、こんなふうに考え方が変わったというようなことが、見ている映画やエンタテインメント全般に密接にリンクしていると思うんです。
 そういうことを取りいれてつくっていこうと考えると3年に1本はむしろゆっくりなペースで、ほんとは2年に1本できたらいんですけど、それはスケジュール的に限界ですから。以前、押井(守)監督が「企画というのは5年以上経ったら、もうやらないほうがいい」みたいなことを話されていて。

――あまり時間をかけすぎるのもよくないと。

細田:そうそう。少なくとも企画から5年以内につくるべきだと言われていて、僕はそれはすごく正しいなと思うわけです。「これは面白い」と発想したものって多分に時代性と関わっているはずですからね。もちろんアニメーションなので時間をかけてつくることも大事なんですけど、もし5年以上かけてじっくりつくるんだったら時代に左右されない企画にすべきだよね……って僕が言うのもなんですけど(笑)。そんなふうに時代の流れのなかでつくっていきながら、でも結局映画が残っていくのは時代に左右されない部分でもあるんですよね。例えば、今も「時をかける少女」のことを思い出してもらえるのは、みんなの心のなかに生きているからで、あの作品は9カ月ぐらいでつくっていますけど、時代の風雪にたえている部分があるのかなと思っています。

(C)2021 スタジオ地図

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■インターネットならではの出会いと仕事の進め方

――「竜とそばかすの姫」を見て驚いたのは物量の多さでした。

細田:それは、12年前につくった「サマーウォーズ」から比べてインターネットの世界が大きく広がっている結果だと思います。そのスケール感みたいなものを絵で表現しようと思ったとき、あのぐらいの物量がやっぱり必要でした。
 あと今回の映画はインターネットのなかを舞台にして、そこで無名の才能が花開くという話じゃないですか。そうすると内容に引きずられて、その世界をデザインする人もインターネットのなかで探してみようとなったんです。例えば、エマニュエルというテキサス州の大学生がいるんですけど、彼はインターネットで探しあてて声をかけて作品に参加してもらいました。

――エマニュエルさんは、どんなお仕事をされた方なのでしょう。

細田:最初はコンセプトアートを手伝ってもらって、最終的には現実世界の日本人以外のキャラクターのデザインを担当しています。世界の各地でスマホを見ている人たちとかですね。彼はアフリカ系のアメリカ人で、彼のセンスでキャラクターを描いてもらいました。<U>の世界のデザインも、インターネットで探しあてたエリック・ウォンに頼んでいます。どんな人かを知らないまま頼んで、あとからロンドンに住む20代の建築家だと知ったんですけどね。

――そうなんですか。

細田:そんなふうに新しい才能を見つけて参加してもらうつくり方と今回の映画はシンクロしているところがあって、結果的に作品のスケール感にもつながっているんじゃないかと思います。ベルのデザインはジン・キムさんで、ディズニーのレジェンドアニメーターですからね。これもジンさんが有名だからというわけではなくて映画に必要だから頼んでいるわけで、有名無名問わずこの映画にとってピッタリな人にお願いしているつもりです。

――エリックさんのお仕事について、もう少し聞かせてください。<U>のグラフィカルでフレッシュな世界には驚かされました。メイキング動画も拝見しましたが、エリックさんとどういうやりとりをされたのでしょうか。

細田:<U>の世界は僕が何かしたというのではなく、エリックがもっているフラットでグラフィカルな世界あってこそなんですよね。彼は建築家といっても実際に建物をたてるわけではない「架空建築家」みたいな人なので、そういうセンスが上手く作品と結びついたんだと思います。
 <U>の世界はユニットの組み合わせでできているんですけど、同じユニットの組み合わせでまったく違うものができあがるというのも新しい建築のやり方なんです。単なるデザインや世界観というだけではなく、実際に<U>という世界がインターネット上に存在したらどんな仕組みになるのかということを踏まえながらつくっていて、そんなところにも現実感がでている気がします。

――エリックさんのデザインで<U>の世界のプランができあがり、それを3DCGで丸ごとつくっているわけですよね。そう考えると映画2本分ぐらいの物量がある気がします。

細田:大変ですよねえ(笑)

(C)2021 スタジオ地図

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――<U>の世界の<As(アズ)>(アバター)も膨大な数がでています。試写で2回見せていただきましたが、それでもすべてを把握できないぐらいでした。

細田:<As>もインターネットに接続して<U>に集う人たちのスケールの幅みたいなものを表現するのにはあれだけの物量が必要で、「サマーウォーズ」の比じゃないですよねえ……本当に。「サマーウォーズ」はまた別の物語としてあの世界がよかったと思っていますけれど。
 インターネットの世界を舞台にしているから、今回の映画は「サマーウォーズ」の焼き直しなんじゃないかと思っている方がいるかもしれませんが、多少連続性があるとすれば、インターネット世界がグラフィカルだということぐらいで、まったく違う映画になっています。そういう点でもエリックと一緒に<U>の世界をつくっていけたのは面白かったですよね。まだ彼とは直接会えていないんですけれど。

――そうなんですか。

細田:コロナ禍で日本にきてもらうわけにも、僕らがいくわけにもいかないですから。リモートだけでこれだけものができるっていうのも、今のインターネットの世界ならではですよね。

――非常にインターネット的ですね。

細田:最近のインターネットにはマイナスのイメージもありますが、ジンさん、エリック、エマニュエルのような海外の人たちとつながることができて、志を同じくして直接会わずに仕事を進められる。これって今までの現場にはないことで、こういう幅の広がり方は今のインターネットならではですよね。

■現実世界を手描き、仮想世界をCGでつくる

――細田監督は作品にCGを積極的に取りいれられてきて、本作ではもっとも3DCGを使っているのではないかと思います。これまでの蓄積があったからこそ、今回ここまでできると思われたのでしょうか。

細田:まさにそのとおりで、物量ふくめて、やっぱりこれまでの積み上げがあったからこそできたことです。CGを使ってアニメーション映画をどのように表現できるか、自然物や群衆を動かしてみたり、さまざまな試みをしてきましたが、今回ついに本丸とも言うべきキャラクターにお芝居をさせて感情表現をするという、もっともハードルの高いことにチャレンジしました。
 ただしエクスキューズとして、3DCGのキャラクターが存在するのは<U>の世界でコンピューターの世界だから、現実世界は手描きの作画でやろうと。コンサートをやるようなアイドルアニメだと、素の部分は手描き、コンサート部分はCGと使いわけることが多いじゃないですか。この映画はそういう使いわけではなくて、<U>の世界はCG、それ以外の世界は手描きとコンセプトで分けているんです。

――<U>の世界でベルがお城に行ったところなどもキャラクターはすべて3DCGなんでしょうか。手描きの作画っぽく見えるところもあるように感じたのですが。

細田:もちろん、すべて3DCGです。

――そうなんですか!

細田:手描きの作画っぽく見えるのは2Dのシェーディングの技術と、CG部分の作画監督が山下(高明)さんだからなんですよね。作監というか事実上はレイアウトで、山下さんが絵コンテからほぼ全カットのレイアウトをおこしています。山下さんのもっている画力が<U>の世界を表現するのに必要不可欠で、それもあって全体として一種の美意識がたもたれているんだと思います。そしてそれは、山下さんの絵をちゃんと引き受けて3D化したデジタルフロンティアの皆さんもすごいってことなんですけれど。

――てっきり<U>の世界も一部手描きの作画がまじっているのかと思ってました。

細田:人によってはベルの歌を聴いている<As>の群衆が手描きっぽく見えるかもしれませんが、あれも実は手描きではなくてLive2Dという技術を使っています。キャラの造形を3Dにはできないけれど、でも手描きではない方法で表現するっていう。もしかしたらその部分でニュアンスが違って見える方がいるかもしれませんが、それ以外は全部3Dです。

作品情報

竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫 4

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