2017年8月24日(木)19:03
「きみの声をとどけたい」伊藤尚往監督に聞く、新人声優6人全員の見せ場を作るための工夫 (2)
(C) 2017「きみの声をとどけたい」製作委員会
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――本作は、伊藤監督にとって初めてのオリジナル劇場アニメです。どんな思いがあったのでしょうか。
伊藤:こうした作品は、名前の売れた方がやられることが多いですよね。そんななかで、自分がやらせていただけるのは非常にレアな機会だと思っています。実はけっこう気負っていますし(笑)、いい感じの映画になればと思いながらやっていました。
――いつか映画を作りたいという気持ちはあったのでしょうか。
伊藤:映画は好きでずっと見ていましたから、自分が作ったものが映画館でかかるのは、ちょっとテンションがあがりますね。作り方としては、シナリオをしっかりと固めると、見ている人にいい感じに伝わるなという手ごたえがありました。これはテレビシリーズをやっていて最近感じたことなんですけれど。
――一昨年に放送された「オーバーロード」のことですか。
伊藤:はい。そこで感じた手ごたえを、さらに推し進めたいと思っていました。ただ、ある程度ターゲットの決まった深夜アニメとは違って、本作は映画館で不特定多数の方に見ていただくことになりますから、どんなリアクションがあるのか今からドキドキしています。映画はもう完成していますし、僕個人としては、こうして取材を受けるぐらいしか協力できることがないんですよね。あとはもう宣伝を担当されている方や、これから見ていただく方にゆだねるしかありませんので。
――「気負っている」と言われましたが、作品を拝見すると、とてもクールな印象を受けました。いちから作るオリジナル作品の場合、ドラマを盛りすぎてしまうこともあると思いますが、そうした印象をまったく受けませんでした。
伊藤:どうなんでしょう(笑)。その辺りは自分では分かりませんが、見る側として映画のフォーマットにはなじんでいますので、そのフォーマットを崩さず、要素を増やしすぎたり減らしすぎたりしないように意識はしました。本作は最終的に登場するキャラクターの人数が多いので、上手くやらないと、見ている人がキャラを認知できなくて、結局誰が誰だか分からなくなってしまう恐れがありました。僕はそういうのが駄目なタイプで、海外の戦争映画などを見ると、僕がくわしくないせいもあるのですが、誰がどの役をやっているのか分からなくなり、それが気になってドラマに入り込めないときもあって(苦笑)。
――たしかに、そういうことありますね。
伊藤:なので、キャラクターをどういった順番で登場させるか、どんな状況を与えておけば見ている人の印象に残るのか、そうした配置はすごく考えました。この映画でも、最初に登場させるのは3人にとどめて、そのトライアングルで話をしばらく進め、話が落ち着いたところで4人目がやってくる。その後も、新たな要素を入れるときは印象づけて投入するなど、とにかく見ている人にストレスを与えず、見やすくなるような工夫は、かなり意識してやっています。
――お話の交通整理が非常にたくみで、最後まで見ると、冒頭のエピソードで描かれたコトダマと、かえでと夕の話に綺麗に集約されていることが分かります。
伊藤:そうですね。この物語は、ふたりの確執とコトダマの話に集約されていると思います。それらを、最後の歌のシーンで全て解決する作りにできたらという考えはありました。そういう作りが、自分も好きですので。かなり難しいかもしれないと思いながらも、そこはもう楽曲のよさに頼って乗り切ろうと(笑)。
――アニメーションとしては、どんな方向性にしたいと思われたのでしょうか。
伊藤:青木さんの絵の印象を生かした、シンプルな感じにできればと思いました。青木さんの作品集のなかに、青木さんが描く人物と実写の背景を合成した絵が載っていて、この方向性でいければなと考えていたんです。美術監督の橋本(和幸)さんが、雰囲気をいかした風景を描くのが得意な方でもありましたので、背景にシンプルなキャラを載せる方向性で画面は成立するのかなと。ただ、通常のアニメーションのように影をつけると立体感がですぎて、シンプルなニュアンスがでない気がしたんです。なので、影は光源につけるのではなく、段差につけるなど最小限にしました。その代わり、ハイライト的なものを輪郭線のまわりにグルッとつけることで背景となじませています。
――立体的に描きすぎないということですか。
伊藤:ペタッとしたところがあるのが青木さんの絵のよさなので、その印象はなるたけ残したいと思いつつ、かといってある程度の立体感はないとアニメーションとしてはなじまない。その辺りのバランスを考えながら、アニメーション用のキャラクターをおこしてもらいました。
――丁寧な日常芝居や、キャラクターの豊かな表情も印象的でした。
伊藤:アクションの見せ場があるような作品ではありませんから、ある程度の日常芝居は必要だろうと思っていました。ただ、それをすべてのカットでやっていくと収拾がつかなくなりそうでしたので、上手いアニメーターさんに入っていただけるところに関しては、ピンポイントで丁寧な芝居をつけていただくようお願いしています。
――原画に、元アニメーターでもある伊藤監督のお名前もありますね。
伊藤:そこは制作的な都合ですね(苦笑)。僕のやり方だと、作業の後半でやることがなくなってしまうんですよ。他の方々が物凄く忙しくやっているのに、何もしないわけにはいきませんから、こぼれたカットのヘルプに入っています。そのなかでいちばん大きかったのは、CGのガイドにあわせて動かす作業でした。CGのガイドは立体感はきちんとしていますが、ガイドのままだとキャラクターのニュアンスがでにくいんですよね。(CGガイドを)そのままなぞってはいけないし、パースも違ってはいけないし……ということを要求すると、なかなかお願いできる方が少なくて。
――大変なカットを担当されているのですね。ちなみに、どの部分でしょう。
伊藤:最後に6人が歌うところで、空からカメラがぐっと下に移動してくるところです。
――すごく良いところを描かれているのですね。あのカットがあるのとないのとでは、だいぶ印象が違ってくると思います。
伊藤:そうですか(笑)。あのカットは、もともと想定していなくて、僕のわがままで追加しました。歌にあわせてコンテを描いて編集してみたら、前後のカットが意外と絵的にもたないなと思ったんです。それで何か入れなければとなったときに、最初にこういうことをやろうと考えていたけど、やっていなかったなと。1カットだから、自分でもなんとかなりました(笑)。
作品情報
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舞台は湘南。高校生たちの友情、葛藤、そして夢。届けたい“声(想い)”――。海辺の町、日ノ坂町に暮らす行合なぎさは将来の夢が見つからず少し焦っている16才の少女。「言葉にはタマシイが宿っているんだ...
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