2018年1月1日(月)12:00
新春アニメプロデューサー放談(1)KADOKAWA田中翔氏 「パッケージが売れる作品を作りたい」 (2)
―― 率直なお話をありがとうございます。そんななか、田中さんが手がけられている作品で、新しい試みをされていることはありますか?
田中:うーん。今お話したように、ビジネススキームが変わりつつある状況ではありますが、映像にお金をだしていただく、いちばん分かりやすい結果は、結局「パッケージが売れる」ことなんですよね。自分は、パッケージが売れないタイトルは、あまりやる意味ないと思っています――心の底では、ですけど(笑)。
一同:(笑)。
―― たしかにそうですよね。私自身、本当に作品が気に入ったらパッケージを買いますし、「少女終末旅行」も、パッケージに1話の絵コンテがついてくると知って、久しぶりにほしいなと思わされました。
田中:日本のいわゆる深夜アニメは、ファンになってくださった方がメモリアルとして最終的にパッケージを買うという文化があります。そしてそれがビジネスの柱でもありました。だからこそ自分たちが作った作品に対するファンの“答え”として、ビジネススキームが多様化している現在であってもパッケージの本数は気になりますし、他の売り上げでビジネス的には成功しているけれど、「パッケージをもう少し売りたかったな」という気持ちは、つねに皆さんもっていらっしゃるんじゃないかと思います。もちろん、パッケージ以外の切り口でめちゃめちゃ売れましたというのも、ひとつの正解だと思います。ただ、自分がアニメーションを作っていくなかでは、「パッケージを売る」ことをベースに考えていきたい。そして、そこに何かプラスアルファを加えていくことを重要視しています。
―― 田中さんのお答えを聞いて、今の質問はバイアスが入っていたのだなと反省しました。「パッケージが売れない状況だから何か他の方法は」という風にお話されるのかと思っていたら、こういう状況だからこそ、パッケージを売ることがコアになるとの話には、ハッとさせられました。
田中:いえいえ。ただ、やっぱり、「パッケージが売れないから、それ以外で儲けよう」という考え方だと、テレビシリーズを作っていけなくなる気がするんですよね。現状の深夜アニメのビジネススキームは、パッケージの売り上げありきで形づくられていますから。その根本のところから変わってしまえば、また違ってくるかもしれませんが、あくまでパッケージビジネス主体で興されてきたのが今の深夜アニメビジネスの基本的な仕組みです。この土俵を守り続けるのならばパッケージを売り続けなければダメだと、個人的には考えている、ということです。深夜アニメ業界は、パッケージメーカーが主導になって、やっているところがありますから、「そこでメーカーがパッケージを売らなくてどうする」と思ってしまうんですよね。結局パッケージが売れたタイトルって、他の窓口(の商品)もきちんと売れるんです。なので、パッケージが売れていないと軸がブレてしまったような気がする。そう思ってしまうのは、自分が古いタイプの人間だからかもしれませんが……。
―― 今お話されたようなことを、企画立案のさいに意識されているのですね。
田中:ええ。なので、部下がだした企画がパッケージメインのものでなかった場合、「その企画ではパッケージが売れないから駄目だ」とまで言うつもりはありませんが、今お話したような考えがきちんとあったうえで、「それでも、この企画は海外や配信で勝負する」という結論にいたっていない場合は、問答無用でNGにすることが多いです。とにかく企画を行うときは考え抜いて欲しいと思っています。
―― お話を聞いて、田中さんはアニメ業界を物凄く客観的に見られているなと感じました。他では通らなさそうな企画も実現されるのも、そうしたところがあるからのような気がしました。
田中:どうなんでしょうか。僕はアニメーション業界の経験が浅いんです。映像業界にはいましたが、ずっと洋画関連の仕事をしていて、アニメのキャリアは6年ほどです。深夜アニメはもちろん、ラノベなんかもアニメ業界に入ってからでして、例えば「ファーストガンダム(機動戦士ガンダム)」や「(新世紀)エヴァンゲリオン」なんかもまともに見たことがなくて。これからもあえて見ないって決めているんですけど(笑)。
―― そこまでキッパリ言えるのは潔いですね。普通だったら、「やっぱり見ておかないと」というふうになると思います。
田中:勉強したので知識としては知っていますよ(笑)。ただ見るほどのモチベーションは沸かないといいますか、たぶん、あんまりアニメーションが好きではないのかもしれません。こんな風に言うと誤解を生んでしまいますが、アニメだけが特別に好きなわけではないので、映画やら海外ドラマのほうに時間をさいてしまうという……。とにかく面白いものが好きなので、それがアニメであるかどうかはさておきだったりします。面白ければ好きだし、面白くなければ興味がないし、そういう点ではアニメユーザーの視点からはかけ離れているかもしれません。その視点が目新しく映れば御の字ですが、的外れと言われてしまう可能性も高いと思っています。
―― そう言われますが、「少女終末旅行」では、ディストピアのハードな世界観で、ほっこりした日常ものもありなんだという新鮮な驚きがありましたし、2話でお風呂回を投入するなど、ある意味、萌えアニメのど真ん中をいっているようにも思いました。
田中:今言ってくださったように感じていただければ、計算どおりというか、「こうすれば、おそらく皆さんが楽しんでくれるのでは」という自分の意図とマッチして作っていけるのかなとは思っています。基本的に、自分は作品に入り込んでつくるタイプではなく、俯瞰して見て、「面白いか、面白くないか」をじっくり考えることが多いです。
―― 徹底的なマーケターとして見ている部分があるということですね。
田中:まあ、たぶんそうだと思います。アニメ好きを自称するには少しライトに寄りすぎているので、おそらく判断に自信がないせいだと思います(笑)。
―― 最後に、今年の抱負を聞かせてください。
田中:18年は、自分がこれまで蓄積したものを生かしたオリジナルアニメーションが放送される年です。1月2日からはじまる「宇宙よりも遠い場所」、4月番の「多田くんは恋をしない」とオリジナル作品が続きます。今まで手がけてきた作品をとおして肌で感じてきたものや、これまで培ってきたノウハウを詰めこんで作っています。この2作が受け入れられるかどうかで、僕の今後が決まるような気がしていて、場合によっては引退せざるをえないというか……(笑)。
―― いやいやいや(笑)。でも、それぐらい2作のオリジナルに懸けていらっしゃるということですね。
田中:本当に、自分の今後が決まる1年になるだろうなと思っています。「宇宙よりも遠い場所」は、「ノーゲーム・ノーライフ」「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」を一緒にやったマッドハウスといしづかあつこ監督、「多田くんは恋をしない」は、「月刊少女野崎くん」の動画工房と山崎みつえ監督、ともに一緒に育ってきたスタジオと監督と組んでのオリジナルです。ぜひご期待いただければと思います。
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