2018年3月27日(火)21:00
Production I.G・石川光久✕ボンズ・南雅彦対談 Netflixとの提携で拓くアニメ業界の未来
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この3月、動画配信サービス「Netflix」で、2つのオリジナルアニメーションシリーズの配信がスタートした。「攻殻機動隊」シリーズで知られるProduction I.Gが手がける「B: The Beginning」と、「交響詩篇エウレカセブン」のボンズが制作する「A.I.C.O. Incarnation」だ。多年にわたり盟友の間柄でもあるProduction I.Gの石川光久氏とボンズの南雅彦氏の両代表取締役に、それぞれの作品の魅力と、Netflixとの提携がもたらすアニメーション業界の展望を聞いた。
――Production I.G(以下I.G)とボンズの2社が、Netflixと包括的業務提携を結び、「B: The Beginning(以下「B」)」と「A.I.C.O. Incarnation(以下「A.I.C.O.」)」を、それぞれ全世界に向けて配信する運びとなりました。具体的に、どのような形の提携が結ばれたのでしょうか。
石川:プロ野球選手に例えるとわかりやすいかもしれません。単年度契約ではなく、複数年にわたって契約するのが、今回の提携です。野球選手の活躍を1年だけで評価するのが難しいのと同じように、アニメも1本だけで結果を出すのは難しいので、何本か作って、その流れの中で判断してもらおうと。個人的見解ですが、ボンズとI.Gが選ばれた理由は、アメリカのアニメファンからの要望が大きかったためだと思っています。アンケートを取った結果、この2社のほかには、WIT STUDIO、A-1 Pictures、サンライズの人気が高かったようですから。
南:ボンズとしては、包括的業務提携ははじめての試みで、これまではいわゆる“製作委員会方式”で、作品ごとに、スポンサーに出資していただく形をとっていました。ですから、全世界同時配信を含め、今までにない形で、ユーザーのみなさまに作品をお届けできるのではないかという期待があります。石川さんがおっしゃるように、複数の作品をまとめてつくらせていただけるというのは、今の日本のアニメ制作形態ではなかなかないことですからね。
――今回の提携が、日本のアニメーション業界にもたらす影響について、どのようにお考えでしょうか。
石川:中長期にわたって、ということならば、とてもいい影響をもたらすと考えています。ただ、短期的に見ると、「俺たちが製作委員会方式で育ててやった恩を忘れて、海外と手を組むのか」という声が上がるかもしれません。でも、時代の流れが変わっていく中で、DVDやブルーレイの売り上げをビジネスの主体としたシステムである製作委員会方式だけでやっていくのは、どんどん難しくなっていくはずです。国内のアニメーション制作体制はちょうど岐路に立っていて、今回ボンズとI.Gの2社が、Netflixとの提携を発表したのは、それを見直すいい機会なのではないかと思っています。ですから、国内からの批判があるのは、ある程度覚悟のうえなんですよ。僕も南も、けっこういい歳なので、批判を受けても大丈夫。逆に、これからの若い会社にとっては大きなチャンスになるのではないでしょうか。
南:そうですね、いい歳ですから(笑)。ここ10年ほどで、日本のアニメーションを取り巻くビジネスの形は、どんどん変化していっています。5年ほど前に、制作本数が減るのではないかと懸念された時期があり、それは中国の資本によって回避されました。ところが、今度は中国との契約にさまざまな問題が出てきて、再び本数が減少する話もでる。そんな混乱した状況の中で、全世界をターゲットにした、Netflixのような配信ビジネスが現れてきた。これは、安定した作品作りができるうえに、新しいことにチャレンジできるチャンスなのではないかと。特に、オリジナル作品を軸のひとつにしている、うち(ボンズ)やI.Gさんのような制作会社にとっては、オリジナル作品が求められるNetflixさんとの提携は、とても魅力的です。同様に、多くの会社が参入し、チャレンジすることで、国内でのビジネスだけを考えて立てられた企画とは違う、まったく新しい作品づくりが見えてくるのではないかと思っています。その第1弾である「B: The Beginning」と「A.I.C.O.」が、国内外の視聴者のみなさまからどのような評価をいただけるのか、今後を占うにあたってとても大きな要素で、楽しみにしているところでもあります。
(C) Kazuto Nakazawa / Production I.G
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――制作について、Netflix側からの要望はあったのでしょうか。
石川:「第1話からトップギアで走ってもらいたい」と言われたことを、鮮明に覚えています。ネット配信の場合、視聴者に明確に“見たい”という意思をもっていただけないと見てもらえないのです。特に「B」の場合はサスペンスなので、ストーリーがわかりにくくなりやすい。ですから、とにかく“つかみ”を重要視することにしました。
南:「A.I.C.O.」の場合は、企画が先行していたので、ある程度完成していたシナリオをNetflixさんに見てもらってから、配信を決めていただいた形でした。なので、内容面の要望は特になかったです。
石川:「B」についても、第1~4話くらいの序盤については要望がありましたが、以降は全面的にこちらにお任せいただいた形です。全話完成してからの納品という取り決めで、3年ほど前から企画をはじめ、約1年間をまるまる絵づくりに費やし、その後、ダビング等の諸作業や、吹き替えなどのローカライズに半年ほどをかけています。テレビシリーズでありながら、劇場版のようなスタンスで作品を作ることができました。絵が完成した段階で、アフレコや音楽の選定ができるのは、昨今珍しい、とてもぜいたくなつくり方だと思います。「B」の展開は、当初4パターンほど想定されていたのですが、第10話のアフレコが終了したくらいの段階で、様子を見て結末を決定する離れ業も実現できました。実は「B」は、ほかのNetflixオリジナルドラマなどと同様に、「シーズン2」「シーズン3」と、長く続けられるようにつくっています。お客様の反響によって続きをつくることができるのも、Netflixの特色だと思っているので。
――Netflixでの配信では、日本と同時に海外のアニメファンも作品を視聴できますね。
南:僕も石川さんも、ビデオでのアニメのパッケージのない時代からアニメをつくっていますので、海外での番組販売が1話3~5万円程度で、まったくビジネスにならなかった時代も知っています。では、当時は何をビジネスにしていたかというと、それは玩具を売るための映像でした。そういう時代から比べると、映像として評価していただけるようになりました。僕は20年ほど前に「カウボーイビバップ」(1998)で、初めて海外のアニメファンと触れ合う機会を得て、その熱量に気圧された記憶があるのですが、その延長線上というか、広がりのうえにある未来が現在なのだなと感じています。
石川:南が手がけた「カウボーイビバップ」は、今でも世界各地に根強いファンがたくさんいます。「AKIRA」(88)や「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(95)、川尻善昭監督の諸作品が売れているという土壌があった中、海外市場に切り込んでいった作品で、海外の第一線で活躍しているアーティストに与えた影響は計り知れず、著名な映画監督は必ずといっていいほど見ているんじゃないでしょうか。かつてはアンダーグラウンドの隅っこにあったアニメーションが、ここまで影響力を持つようになったというのは、すごいことですよ。「B」の中澤一登監督も、実写映画「キル・ビル」(2003)のアニメパートを担当していますが、 僕がクエンティン・タランティーノ監督に対して「(スタッフの選定は)任せてほしい」と言えたのは、彼自身の実力はもちろん、そう言えるだけの広がりを、日本のアニメーションが持つようになってきたからだと思っています。
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