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インタビュー 2019年10月8日(火)19:00

山本寛監督が「薄暮」で駆使した演出術 「福島はきれいだな」と思ってもらえれば十分です (2)

(C)Yutaka Yamamoto/Project Twilight

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――クラウドファンディングが成功したあと、具体的にどんな作業からはじめていったのでしょうか。

山本:まず文庫版の小説を書き上げました。最初は「尺を見たいから」と脚本を書いてほしいと言われたんですけど、あんたら絶対に脚本を読んでも尺が分からないだろうから「無駄です」と言って、小説を書いたあとはそのまま直で絵コンテに入りました。「小説を読めば尺は分かるでしょう」と。
 小説から絵コンテに繋げても問題なかったですからね。それに時間を食えば食うほどお金も食う、その発想がどうして分からないのだろうと(苦笑)。2017年いっぱいかけて絵コンテを描きあげて、そこから作画インしようとしたんですけど、なかなか人が集まらず……。そこからまた嫌な流れだなとは思ったんですよ。

――「薄暮」のために立ち上げたトワイライトスタジオは、いつ頃から稼動しはじめたのでしょうか。

山本:スタジオの創業を、伊藤の誕生日と同じにしたんですよ。だから2017年7月から制作をはじめていたはずです。実際は、その前からフライング気味でやっていましたけどね。

――「トワイライトスタジオ」と名づけたのは山本監督ですか。

山本:僕には特に主張もなく、みんなで話してつけた感じですね。「『薄暮』をやるんだからトワイライトスタジオでいいんじゃない?」と適当につけただけです(笑)。

――スタッフィングは、どのように進めていったのでしょう。キャラクターデザイン・総作画監督の近岡直さんは、これまで一緒にやられてきた方ですよね。

山本:柔軟に考えましたよ。やっぱり予算ありきなので、実は近岡さんには最初にお願いしていなくて、別の人に頼んだけれど難しいとなってから、東北三部作すべてに関わっている近岡さんにお願いしようとなったんです。近岡さんの絵には全幅の信頼がおけますから。

――音楽は鹿野草平さんが担当されていて、イメージアルバムもつくられています。

山本:鹿野君もそうですけど、あまり無茶を言わない人を中心にお願いしたつもりです。「薄暮」はプロデュース兼任ですから、お金も時間もかかったらまずいんですよ。音響面もそうで、今回僕が音響監督を兼任しているのはそういう事情があってのことです。これまでお願いしていた音響会社には、「ごめん!」と仁義を切りにいって、(サウンドチーム・)ドンファンという山田(陽)さんの会社にお願いしました。ぶっちゃけて言うと、最低限以上のスタッフは今回入れてません。

――作品を成立させるために現実的に考えられて、抑えられるところは抑えてということですね。

山本:そうです、そうです。

――「薄暮」の見どころのひとつは、福島県の風景を描いた美術だと思います。美術監督はメリルさん(Merrill Macnaut)という方で、はじめ外国の方かなと思ったら日本の方ですよね。

山本:〇〇(伏字)さんですね(笑)。

――ご本人のサイトを見ると、自主アニメをつくられてもいて、本作がはじめての美術監督だったそうですね。

山本:〇〇(伏字)さんは、ネットで見つけて一本釣りでお声がけしたかたちですね。今回はやっぱり、背景だけは譲れないと思っていたんですよ。「薄暮」というタイトルですから、薄暮の情景が描けなければもうこれは終わりだと考えていました。また、今までのアニメ美術をくつがえすぐらいの新しい絵柄もほしいなと。他のスタッフと同様、既成のというか僕の知り合いの美術監督何人かにあたったんですけどなかなか難しくて、ここで変に妥協するのはよくないと思って、ずっとネットを検索していたら彼の絵がでてきて。それで早速紹介してもらったら、仙台出身でちょうどこれから上京してくるということで、渡りに船だ! とお願いしました。アニメ美術の経験はないけれど、「君の絵なら大丈夫だから」と。

Merrill Macnautさんによる自主制作アニメ「東北東、十七の空」

――そんな経緯があったのですか。

山本:仙台出身ですから、東北の作品だというところで、ぜひやらせてほしいと言ってくれました。なので、美術に関しては非常にスムーズにいって、上がってきた絵もバッチリでした。
 美術については、あまりリアルにはしすぎず、絵画のように描いてほしいという話をしました。特に空はカットごとに繋ぐ必要もないから、もうワンカットずつ全部違う色でいいぐらい優美に描いてほしいとオーダーをして。北欧バロックから印象派あたりの、色遣いなどが大胆になっていく過程の絵画などを参考に見せて、「こういう感じでいきたいんです」と言ったら見事に吸収してくれました。

――「薄暮」では、編集を山本監督が共同でやられていますよね。モノローグで進んでいく物語で美術も見せていくつくりだと、ダレてしまうおそれもあると思うのですが、ものすごくテンポがいいなと思いました。これまで3回見ていますが、毎回スルッと見れてしまうといいますか。

山本:もう編集にだけは自信があるんで(笑)。僕が共同で名前がでているのはクレジット上の都合で、坪根(健太郎)さんにちゃんと本編集をやってもらっているんですよ。そうしたら監督が事前にやったものが下敷きであるから、自分は助手でいいみたいなことを言ってくれて、それならば連名にしようということになったんです。

――「事前にやったもの」とはどういうことですか。

山本:「薄暮」は、事前にコンテ撮に仮アフレコと仮音をのせた「Vコンテ」をつくったんですよ。スタッフ共有のためもありますが、主に営業用ですね。こういうテイストの作品になりますから乗ってくれませんかと、いろいろなところに配ったんです。
 仮アフレコは、タダ同然で養成所レベルの人に集まってもらって一通りセリフを入れて、仮音は「テンプトラック」と呼ばれますが、巷にある楽曲を劇伴として入れました。そこにちょっとSEも入れて、自分でバーっと編集したんですよ。それをもとに本編集をしてもらっていて、もちろんきちんと微調整していただいています。でも、編集の坪根さんは最初「自分はもうクレジットなしでもいいです」と言うから、いやいやいやいやと(笑)。坪根さんとは「かんなぎ」以来の長い付き合いですからね。それで連名にしましょうということになったんです。
 とにかく、できることはすべてやりました。音響にしても編集にしても、できる範囲で最大限のことができるようにしつつお金が浮く方向に……少しでも節約していかないとと思っていましたから。

――主人公たちが集う喫茶店や駅まわりなどもふくめ、許諾をとりつつ実際の場所を登場させていると思います。美術監督の方などとロケハンには行かれたのでしょうか。

山本:結局、美術監督と撮影監督は行けなくて、福島には僕ひとりか、制作の人間とだけでずっと通っていました。僕は何作品もやっていますからこの手の取材には慣れているんですけど、車で行くには微妙に遠いんですよね。都内から3時間ちょいかかるのかな。3時間を超えると、ちょっとしんどいんですよね。ときには日帰りもありつつ、ほぼ車で行っていました。
 東北三部作は、聖地巡礼効果で東北にお金を落としてもらうことが前提の企画です。ただ作品をつくって感動してもらうだけでは絶対に駄目だと思っていて、舞台になった町に足を運んでもらい、そこで飲み食いをして泊まる。もちろん交通費もかかりますよね。「薄暮」はそうした経済効果を最初から考えてつくっていて、今回もフィルム・コミッションや地元の自治体、商工会議所、商店会など、いろいろな方々に徹底的に説明しました。「薄暮」を思いっきり利用して、ビジネスチャンスにしてくださいと。

――地元の方々にも、Vコンテは見せたのですか。

山本:お見せしました。やっぱり一般人はコンテだけでは分からないですから、時系列順に並べて音をつけたら「なるほど」という感じになったと思います。たしか、モデルになった学校にもお見せしました。それで皆さんにおおいに納得していただいて、舞台にしたいわき(福島県いわき市)周りは、今も順調に進んでいます。

(C)Yutaka Yamamoto/Project Twilight

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――キャスティングの話も聞かせてください。メインの桜田ひよりさん、加藤清史郎さんはどのような経緯で決まったのでしょうか。

山本:全部指名で、決めうちでお願いしました。これはもう今の劇場アニメの流れにそっていて、宣伝の一環として実写の俳優さんにでていただこうと。今年の作品も、みんなそうじゃないですか。特にオリジナルものだと周知してもらえないですからね。これはプロデューサー感覚としてマストだと思っていて、実際、桜田さんや加藤君を目当てに来てくれたお客さんがいっぱいいます。もちろん誰でもいいわけではなくて、プロデューサーとしての自分と監督としての自分が相談して、厳正な審査のうえ決めさせていただいて……だいたい僕は顔で選ぶんですよ。これまでの作品でも、だいたいキャラクターに似ている子を選んでいて。

――舞台挨拶で、佐智はあとから桜田さんの身長にあわせたと話されていましたよね。

山本:そうしたら不思議と大体うまくいくんですよね。僕は声よりも、パッと見た瞬間に「あ、この子だ」と思えるほうが大事なことが多いんです。

「薄暮」主題歌「とおく」MV(歌:AZUMA HITOMI、出演:桜田ひより)

――祐介役の加藤さんの、ちょっとぎこちない感じも役にぴったりだと思いました。

山本:自分で言うのもなんですが、僕はこういう用兵術が上手いなと思っています(笑)。キャスティングに関しては絶対的な自信をもっていますから。主役の周りは、もう誰もが安心して見られる方たちで固めて、メインはふたりで勝負するっていう。
 加藤君は普段まったくアニメを見ないそうで、漫画も「ONE PIECE」ぐらいなら読んでるという感じだったのですけど、すごく真面目な子で収録では何度もトライして必死にかじりつくように演じてくれました。一方、桜田さんはアニメ好きで、アテレコの仕方も大体知っていると、家で特訓していたらしいです。それが作中の祐介と佐智の関係のように、祐介がしゃにむに攻めて、それを佐智がなんとなく受け止めるような雰囲気が自然とできてきたんですよ。上手くいったなあと思いました。

――コメディリリーフ的な役どころの佐倉綾音さん演じるひぃちゃんのテンションも面白くて、物語のなかでいいアクセントになっていると思いました。

山本:いやあ、上手かったですね。「昔の友達と外せない約束ができたあ!?」と早口で言うところ、噛まずに一発OKでしたから。「薄暮」は実写っぽくやろうと、全体的にナチュラルにあまりつくらない演技でとお願いしていたのですが、あやねる(※佐倉綾音の愛称)だけは、もうこんなキャラだからクソアニメで――クソアニメって言うとあれですけど(笑)――もうどこにでもいるようなアニメキャラの感じでとお願いして、他の方には抑えてやってもらいました。
 メインをお願いしていないからといってプロの声優の方を軽視しているつもりはまったくなくて、売れっ子だからこそ抑えた演技もきちんとできるんですよね。(島本)須美さんなんかもそうですけど、セリフ数が少なくても絶対に存在感をだしていただけるという確信のもとお願いしています。

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薄暮

薄暮 Check-in4

福島の女子高生―ヴァイオリンだけが取り柄の、どこにでもいる少女。 福島の男子高校生―絵を描くだけ、それで生きてきた。震災の影も彼に宿っているのだろう。とある田園風景の中で、そんな二人は出会った。...

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