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インタビュー 2019年10月8日(火)19:00

山本寛監督が「薄暮」で駆使した演出術 「福島はきれいだな」と思ってもらえれば十分です (3)

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――ここからは見ていて気になったところを聞かせてください。作品の冒頭、微妙に雲が動いている薄暮の背景にタイトルをだして、そのままスタッフ名をだしていくじゃないですか。昔の邦画のようで、あの入り方がこの作品のトーンを決めているのではないかと思いました。

山本:小津安二郎っぽいってよく言われて、たしかにそうかも知れないなって。最初空で、そこにタイトルをだして、そこからパンダウンしていくっていう。まあタイトルが「薄暮」だから、最初は薄暮でしょって話ですよね(笑)。この作品に奇をてらった描写はほとんどないので、最初もそうしたっていう、ただそれだけです。

――さきほど声はつくらずナチュラルでとの話がありましたが、佐智については後半うがいをしてタンを吐くなど、深夜アニメなどではあまり見ない描写がちょこちょこありましたよね。実在感のあるキャラクターにしようという狙いがあったのでしょうか。

山本:実在感というより、ひとつひとつの所作をきれいにしすぎないほうがいいなと思ったんですよ。「少年と少女が出会って告白しました。うまくいきました」だけの話ですから、きれいにしすぎると見ているほうもつまらないだろうし、つくっているほうもつまらなくて。タンを吐くところは、スタッフの女の子に聞いたら、そんなことは絶対しないと言われたんですけど、「実際にしなくてもやるんだ!」と言って入れました(笑)。

――(笑)。

山本:だから、リアルじゃないんですよね。リアルっぽく見える、一種のノイズのようなものです。佐智の描写でいうと、今までは一切やってこなかったのですが、「薄暮」では彼女の下半身がやたら映っているんですよ。これはもうノイズとしていれました。でないとやっぱりきれいすぎると引いてしまうというか、薄味に見えてしまうんですよね。

――たしかに、佐智は教室でひざをかいたりもしていますね。

山本:ああいう描写をあえて入れていて、生っぽいというのかなあ……。「どうだエロいだろう」「リアルだろう」と言いたいというよりも、作品全体に対するフックというか刺激を与えていかないと、あっさりしすぎて具なしのお吸い物みたいな感じになるとヤバイなと思ったんですよね。じゃあ具にはアサリを入れておくか、出汁をちゃんととるか、みたいな。そういうことですね。

――シンプルな物語だからこそ、見ている人を飽きさせないようにいろいろなかたちで演出的なサービスをしているわけですね。

山本:ええ。さっき話したひぃちゃんの存在もそうですね。ああいうリアルのかけらもないキャラがひとりいるのはそういうことで、絶対入れとかないとダレるだろうなあと。これはもう演出上の要求でした。

――佐智のお母さんとお姉さんも、書き割りっぽい能天気なキャラと思わせて、実は佐智がいないところで密かに彼女を気遣っている短いやりとりがありましたよね。あのやりとりだけで立体感がでていていいなと思いました。

山本:「薄暮」は笑える作品にしようと思っていたんです。福島を暗く描くのは簡単ですが、そんなこと誰も望んでいませんから。福島を撮るドキュメンタリーとか、どうしてもおどろおどろしくなる傾向があるらしく、そういう話は地元の方からも聞いていて。「薄暮」で福島を描くにあたって、やっぱり印象として明るく描かなければというのはありました。
 もちろん現実には暗い影の部分もあるとは思いますが、そこだけにスポットを当てたものを前面にだしたらえらいことになりますし、何より福島の人に嫌がられたら終わりですからね。基本的には、佐智と祐介のふたりは背負っているものがかなりあるけれど、他の6人はとにかくにぎやかしでいてくれっていうふうに配置しました。

――作中に、佐智がテレビの天気予報で県内の線量分布を見ている描写がありましたよね。

山本:嘘はつけないですからねえ。それでも、「これ(舞台が)福島じゃなくてもいいんじゃない?」と言われたことがありました。いやいや、福島以外には線量の天気予報ないから! と思いましたけど。

――あの描写を見て、震災直後に自分も線量を気にしてテレビを見ていたことを思い出しました。

山本:今も福島の天気予報では、各地の線量分布がでています。そういうのが「日常のなかにある」ってことですよね。これみよがしにだすのではなくて、それもふくめて日常だっていう。それを見た佐智は何も感じず、ぼーっと見ているだけです。実際、地元の人はもう全然線量計を見ないらしいんですよ。百葉箱と同じような存在になっているらしくて。
 でも、何回目の取材かは忘れましたが、ある夜、福島の宿でテレビを見ていたら天気予報で「今日の線量は――」とやっているのを見て、「そうか線量か……」と発見したんです。これは事実として出しておこうと思いました。

――佐智の夢のなかで、ふたりが自転車にのって駆けていき、浮かんだところで白い建物が映りますよね。

山本:イチエフ(福島第一原子力発電所)ですね。

――あの見せ方も、すごくいいなと思いました。

山本:出すかどうか相当迷いましたけれど、あれを出さなければテーマに沿わないですから。作画中も迷いました。レイアウトを机のうえに置いて、福島出身のスタッフに「これ出すべきかなあ……」と訊いたりしましたが、最終的には「山本さんが決めてくださいよ」となって、「うーん、じゃあ出そう」と。

――パッと一瞬映る感じですよね。

山本:イチエフが映るのは1秒だけですが、まあ誰もが気づきますよね。非常に象徴的なものですから。あのカットは、水素爆発した瞬間がテレビで流れたときのアングルで撮っているんですよ。だから、東京の人間が見ても「あっ」となるはずで、もし別のアングルだったらたぶん気がつかないと思います。
 ……まあでも、だすのは夢の中にしました。現実では、ふたりが走っている(国道)6号線(の原発付近)は車のみ通行が許されていて、自転車や徒歩は禁止なんです。これは夢としてしか出せないし、強引に物語にからめるわけにはいかないなと。
 あと、これは分かる人には克明に分かるはずなんですけど、あそこで祐介の心の闇みたいなものを描ければなとも考えていました。ただ、それを明白に描いてしまったら傷つく人もでてきてしまうかもしれないから、夢オチとして消化したということですね。

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――「薄暮」は福島で先行公開されました。そこでいろいろな感想が寄せられたり、交流もあったりしたのではないかと思います。印象的な感想などありましたか。

山本:福島のなかでも温度差はあったみたいですね。福島は広いですし、地域によって受け止められ方も違うだろうなと、つくっているときから予想はしていたのですが、「なるほどな」と思いましたね。いわきの人は自分たちの町がでていると盛り上がってくれました。
 思い出深いのは、大熊町(※福島県双葉郡大熊町)での反応ですね。6月に大熊町の役場で無料上映会をしたんですよ。大熊町は、一部帰還困難区域が解除されていますが、もともと住んでいる人はほんの一握りしか戻っていなくて、集まってくれたのも今は住んでいない人ばかりでした。祐介が大熊町の出身という設定だから、そこを広く宣伝をしてくれた結果だと思うんですけども。そこでの反応が、自分としてはたまらんものがありましたね。

――どんな反応だったのでしょう。

山本:意外と子どもや若い子はきょとんとしているんですよ。ちょっと受け止めきれないというか、まあ嫌な思い出でしょうからね。ところが年配の人たちがみんなボロボロ泣いていて。祐介を見て、「自分の子どもや孫もそうだった」という話を上映後にたくさん聞きました。ここの部分は、おそらくいわきの人には肌感覚として分からないようで、いわきと大熊町だけでもこれだけの温度差が如実にあるのだなと。だから、東京や大阪になると、さっぱり分かってもらえないんですよね。「なんだか祐介って謎が多い男だな」と思われるかもしれませんが、「いやいや謎じゃないんだ。ギリギリのところで止めて、描いていないんだ」と言いたいんですけどね。

(C)Yutaka Yamamoto/Project Twilight

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――当時、埼玉にいた私も、ほんとに想像しかできないなと思います。

山本:いやあ、描けないですよ、やっぱり。舞台挨拶で必ず言っていたことですが、「薄暮」で福島県内の人を傷つけてはいけないと思ったんですね。実は祐介には裏設定がちゃんとあって、今日はちょっと言えないですけど、いわきや大熊町で話したら、みんなおおいに納得してくれたんです。そこでいろいろ聞いたら、やっぱりそこは描けなかったなとあらためて思いました。なので、申し訳ないですけど、そこが分かりにくいと言われるのであれば、もうそれでけっこうと思った部分ではあります。

――下北沢トリウッドの舞台挨拶で、「薄暮」にはセルフパロディが多いと話されていましたよね。佐智の学生カバンにつけているマスコットは東北三部作の「blossom」の冒頭にでてくるキャラクターだったりして。

山本:そうです(笑)。あれは「WUG」にでも出ていますし皆勤賞ですね。あのモデルになったぬいぐるみ、実際、家にあるんですよ。

――他にもいろいろとセルフパロディの要素が入っていて、これもダレさせないためのサービスの一環だったのでしょうか。

山本:原点回帰と言ったほうがいいですかね。20歳のときに浮かんだ企画ですからそのままやっちゃうと、ほんとに若手が書いた、さっきも言った薄い具なしのお吸い物みたいになる可能性があるなと。本当に事実上の処女作なので、逆に自分の集大成にしようかなと考えたんです。だから、佐智の下半身の描写など、これまで絶対にやらないでおこうと思ったところも今回はいいだろうと。それぐらい作品の枠組みがシンプルで強くて、これは何を入れても大丈夫だろうと、今回は久しぶりにセルフパロディをたっぷりと入れましたね。
 自分の足跡をたどるじゃないですけど、自分で自分のレトロスペクティブ(回顧展)のようなことをしながら原点に戻っていく。そうした作業をしたほうが面白いんじゃないかと思ったし、まあ後悔もしないだろうと。自分でも数え切れないほど無数のセルフパロディをやっています。

――佐智たちが「くさいね」と言い合っているのもそうですよね。

山本:そうです。構図も、これまで自分が演出してきた作品からパクってきているところがたくさんあって、自分の若い頃から手がけてきた作品への思いをいっぱい盛り込みました。

――今の話を聞いて、手塚治虫が「ブラック・ジャック」の連載をはじめた頃のエピソードを思い出しました。当時苦境にたたされていた手塚治虫に最後の連載をさせようぐらいのかたちで「ブラック・ジャック」は始まったそうで、ご本人がどう考えていたかは分かりませんが、初期の話数には手塚作品のセルフパロディがたくさん入っているという話を読んだことがあります。

山本:ははは(笑)。そういう意味ですか。

――今の話を聞いて、そんなことを思い出しました。

山本:それに近いかなあ。ほんとに最後の1本、おまけの1本みたいな意識はどこかにあったので、やり残したことはないようにしようとは思っていました。「これでもう自分はあがってもいいんだ」と、そうした思いはずっと心のなかにあったと思います。

――「薄暮」は下北沢トリウッドで今も上映されていて(※11月1日まで上映)、徳島のufotable CINEMA、兵庫の塚口サンサン劇場など地方での上映もはじまりつつあります。これから見てみようかなという方に一言お願いします。

山本:「薄暮」をとおしてまずは「福島はきれいだな」と感じてもらいたい。そして福島には今がある――僕らと同じ今の日常があるんだよということを分かってもらえれば、この作品としては十分なんです。まずはそこを見てもらって、そのあと作品が面白いかつまらないかは、もうお好きにしてくださいと。そこだけですね。とにかく福島に興味をもってもらうことが最大の目的で、そこだけは持ち帰ってくださいとトリウッドの舞台挨拶でも繰り返し話しています。

――山本監督ご自身の心境はいかがですか。一度はアニメをやめて実家に帰ろうかとまで考えていたところで「薄暮」をつくり、いろいろな人に見てもらうことで、アニメに対する考えが変わったりは……。

山本:いえ、あんまりないですね。

――そうですか。

山本:やっぱり、やめたいなあとは思いますね。しんどいですよ。制作の最後の1カ月は本当にきつくて、ずっと怒鳴ってばかりいましたから。作品が完成しても「やってやったぜ」みたいな気持ちにはなかなかならないですね。そういう思いをこれからも背負い続けていくんだろうなあと。
 東北三部作を終わらせることができたのはラッキーだったなとは思っています。初志貫徹というか自分に対する約束を守れて、ちょっと男にはなれたかなとは思いますけど(笑)、それ以外は「アニメってしんどいなあ」とつくづく思っただけです。これからもしんどいんだろうなと。まあでも、望んでくれる人がいるのだったらやるか、というぐらいの感じですよ。他にやることもないですし、今から他の職業につけって言われても難しいでしょうから。

――ここまでお話をうかがってきて、「薄暮」をつくるにあたって、山本監督がとても現実的に考えられてきたことが分かりました。

山本:アニメは、絵に描いた餅ですからね。絵に描いた餅で生きていくなんてことは大変なことで、実際これまでの21年間も大変でした。これからも大変なんでしょう。「アニメなんてやるもんじゃないぞ」と、あらためて皆さんには言いたいです。

――今日はお時間とっていただきありがとうございました。最後に、クラウドファンディングがはじまった次回作の「魔法少女たち(仮)」(https://camp-fire.jp/projects/view/196006 )について、現時点でお話できることを聞かせてください。

山本:いろいろな意味で「薄暮」とは180度違う作品ですね。優しい世界なんて一切存在しない世界観でやろうと思っています。僕が今感じていることや考えていることを綺麗事や嘘偽りなく、ファンタジーとしてつくろうと思っていて、本来ファンタジーって現実と対峙するものですよね。SFもそうですけれど。
 現実から一歩離れることで批判的精神をもち、現実を上書きしていくのは、ミヒャエル・エンデの作品も「ナウシカ」(※「風の谷のナウシカ」)もそうですよね。今のファンタジーは現実逃避をして遊ぶだけの手段になっていると僕は思っているので、そこにあえて魔法少女というモチーフで描くファンタジーをぶつけようと。今こそ本来ファンタジーがもっている機能を回復させなければと思っていて、自分のなかでの作品の強度はバッチリなので、「薄暮」以上に見る人に刺さる作品に絶対なるはずです。

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薄暮 Check-in4

福島の女子高生―ヴァイオリンだけが取り柄の、どこにでもいる少女。 福島の男子高校生―絵を描くだけ、それで生きてきた。震災の影も彼に宿っているのだろう。とある田園風景の中で、そんな二人は出会った。...

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