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インタビュー 2020年1月1日(水)12:00

【新春アニメP放談】KADOKAWA田中翔氏×AbemaTV椛嶋麻菜美氏 日本のアニメ、テレビで見るか?配信で見るか? (2)

――田中さんが言われたことは、椛嶋さんが立ち上げ当初、アニメ業界ならではの慣習にとまどわれたところではないかと思います。

椛嶋:立ち上げ時、キー局系は門前払いで逆風は強いなと思っていました。やっと偉い人に会えても、「ごめん、出せない」というふうに言われて。テレビ局は局同士で視聴率を争ってきた歴史がありますから、他局が関係するサービスに協力するのはちょっと、という背景もあったと思います。特にヒットタイトルはその傾向が強く、さらに新作は局が出資をしているとハードルが高くなり……。こちらとしては作品をより広げたいという思いなのですけれど。

田中:作品のことをいちばんに考えるなら、間口は広ければ広いほど良い。本当は全国放送したいですが、波代が高過ぎて現実的ではない。でも配信ならわずかなコストで全国のユーザーに届けることができる。放送と配信の同時スタートはもちろん、先行配信も全然ありだと個人的には思っています。ネットやスマホの普及率を見れば一目瞭然ですよね。
 テレビはスイッチひとつで映像が流れてくる受動的なメディアですから、最小限の手間で視聴ができるという側面において、テレビに勝るものはありません。そういったテレビの利便性を兼ね備えたAbemaTVさんは、配信サービスでありながら根本の設計思想が違う。これから5G(ファイブジー)が開始され、ネットワークのインフラが強化されていくことで、配信サービスの立ち位置はどんどん変わっていくと思います。今後AbemaTVさんのような“テレビのような配信サービス”が当たり前になる世界がやってきたら……なんてことを考えると興味は尽きません。

――なるほど。

田中:そうなると周辺でいろいろなサービスを手がけながら革新をおこし続けているAbemaTVさんがトップを走っていくのではないかと想像しているので、ぜひ今後もいろいろな作品を預けたいなと……こんなこと言ったら癒着みたいですかね(笑)。

一同:(笑)。

――大丈夫だと思います。

椛嶋:ありがとうございます! 絶対に作品を広めます。

――それぞれのお仕事を振り返って、19年はどんな1年だったか聞かせてください。

田中:19年は気がついたら終わっていた感じで、振り返ると何もできなかったなという反省の年でした。

――昨年の新春インタビュー(https://anime.eiga.com/news/107708/ )では、抱えている作品数が多かったとお話されていましたが。

田中:一緒に働いているチームのみんなが頑張ってくれて、かなり楽をさせてもらいました。みんなありがとう! みんなが頑張ってるときにぐーすか寝ててごめん! と感謝ばかりです。

「彼方のアストラ」

彼方のアストラ

(C)篠原健太/集英社・彼方のアストラ製作委員会

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――同じく新春インタビューの最後では、「『KADOKAWAがそれをやるんだ』というものを仕込んでいる」と話されていましたよね(https://anime.eiga.com/news/107709/2/ )。どんな取り組みのことだったのでしょうか。

田中:傍からみるとそうでもないことなんですが、実はKADOKAWAがいわゆる三大出版社さんの原作をアニメ化することって、今までなかったんですよ。それが「彼方のアストラ」で集英社さん、「ダンベル何キロ持てる?」で小学館さんと、立て続けにご一緒させていただくことができました。これは自分がKADOKAWAに入ったときからやろうと思っていたことのひとつだったので、19年はそれが実現できた年でもありました。

――どちらも7月クールの作品ですね。

田中:「アストラ」は自分でプロデューサーをやらせてもらい、「ダンベル」は企画と制作現場の立ち上げを行ったあと、筋トレ大好きな細マッチョ、菊島(憲文)といううちのチームの人間にプロデューサーを任せました。どちらもいい意味で話題になって、チームとしても助けられた作品になりました。

――田中さんとしては、会社的にこれまでやってこなかったことを突破した思いがあるのですね。

田中:これまでずっと、いろいろな出版社さんや原作者さんとお付き合いをしていきましょうという話を社内でしていました。KADOKAWA自体が原作ホルダーでもありますから、社内の原作をやっていればそれでいいという風潮があって……。そんななか、自分たちがメディアファクトリーからKADOKAWAに入ってきて、そこがいちばん改革できるところかなと。集英社さん、小学館さんとは引き続き仲良くさせていただきつつ、今後もいろいろな会社様とお付き合いしながら、「KADOKAWAという会社は、こんなアニメもつくれるんですよ」というアピールをしていきたいと考えています。

――10月クールの「神田川JET GIRLS」は、KADOKAWAさん、マーベラスさん、バンダイナムコアーツさんと複数のメーカーが製作委員会に入っていて、ゲーム化も同時に進んでいるメディアミックスプロジェクトですよね。去年、田中さんが言っていたのは、このことかなと思っていました。

田中:あの作品は、自分のチームにいる菊島とはまた別のプロデューサーが手がけているんですよ。僕はほぼ応援しているだけで、彼には今後の“紳士枠”を担っていってもらいたいと思っています。

――田中さんは深く関わられていないのですね。どなたが担当されているのでしょう。

田中:元長(聡)と言って、「艦これ」(※「艦隊これくしょん -艦これ-」)、「新妹魔王の契約者」「慎重勇者」などを手がけている人間です。彼、ドイツでは「エロP」として非常に名を馳せていまして。

――そうなんですか。なぜドイツでなんでしょう。

田中:「新妹魔王」がドイツですごく人気で、プロデューサーとしてアニマジック(※AnimagiC)というイベントにいったら観客から大声援をうけたんです(笑)。

「異種族レビュアーズ」

「異種族レビュアーズ」

(C) 天原・masha/株式会社KADOKAWA/異種族レビュアーズ製作委員会

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――以前、同じKADOKAWAのプロデューサーである田村(淳一郎)さんにお話をうかがったとき、KADOKAWAではお色気アニメを定期的にやっていこうという流れがあると聞きました(https://anime.eiga.com/news/105639/ )。

田中:紳士枠という言葉が生まれるきっかけになったであろう作品を手がけていた人物が、田中信作という自分の元上司なんですよ。「一騎当千」「クイーンズブレイド」「百花繚乱」(※「百花繚乱 サムライガールズ」シリーズ)、「ハイスクールD×D」シリーズなどの作品をジェンコさんと組んでやっていた頃におそらくできた言葉で、受け継いだ魂を今後も絶やさぬようにやっていければと思っています。
 紳士枠といえば、最強の紳士枠が1月番にあって、「異種族レビュアーズ」というとんでもないアニメをやるんですよ。これが放送されたら椛嶋さんに軽蔑されるだろうなと思っています(笑)。

椛嶋:原作読みましたよ。1月クールで個人的にいちばん楽しみなやつです。部下は、若干引いていましたけど(笑)。

――アニメハックで最初に記事にしたときも、「あれをテレビアニメでやるの?」という反応がありました。

田中:オープニングとエンディングの歌があまりに衝撃的で、一瞬やめるべきかみんなで悩んだんですけど「もういいや。やろう」となりました。「異種族レビュアーズ」も企画と制作現場の立ち上げのみやったあと、プロデュースは「ダンベル」をやった菊島がやりたいというので「じゃあ頼んだ」と言ってやってもらいながら、好き勝手言いたいことだけ言うクソ上司ポジションで関わっています。ド直球なタイトルではありますが、今までなかったタイプの作品でもありますので、ぜひ見ていただきたいです。

――椛嶋さんは19年を振り返られていかがですか。

椛嶋:社内的なことを言うと、AbemaTVの課金ユーザーも増え、9月には51万人を超えました。一方、さきほどお話したニュースの生放送もだいぶ定着してきて、何かニュースがあったらAbemaTVを立ち上げようというふうに、ここ1年でなってきたと感じています。無料ユーザー、有料会員ともに、もっと伸ばしていこうという機運が高まりつつも、今後どうやったらよりユーザーがAbemaTVを使い続けてくれるだろうかという、運営としてのハードルが一段あがった年でもあると感じています。
 編成面でいうと、やっぱり「鬼滅の刃」などの大ヒットが生まれたのがうれしかったです。「鬼滅の刃」はスタートの1年以上前から作品サイドの方々とどう広めようかという話をしていて、そのときから絶対にAbemaTVで最速配信をやりたいと思っていました。それが実現して、開始後は想像以上の反響をいただき、原作もあれだけ売れて、ヒットの一翼を担えたという実感をもてたことはよかったなと思っています。

――AbemaTVでは「鬼滅テレビ」という特番をやられていて、「マチ★アソビ」で公開生放送もしていましたよね。

椛嶋:中継もしましたし、これまでやったことがない策もふくめて、できることは全部やった感じでした。アニプレックスさんとコマース事業を協業でスタートもさせて、その第1弾も「鬼滅の刃」でした。作品のファンを増やしつつ、アニメの周辺も一緒に盛り上げ、作品のパイをAbemaTVがきっかけでどれだけ増やせるかということを、これまで以上に心がけてきた1年でした。

――「鬼滅の刃」のオンエア中、ヒットの手ごたえはありましたか。

椛嶋:普段より反響はとても大きく、途中からは「鬼滅」のネタを発信すれば必ずバズるような状態でした。視聴者数も、だいたい新作は1話がいちばん多くて、2、3、4話と下がっていく傾向なのですが、「鬼滅」は話題の回ごとに翌週の視聴者数が増えるという、すごくいいサイクルがつくれていました。

田中:19年は「鬼滅の刃」イヤーでしたよね。ネットのバズり具合、原作本の売り上げ、配信の視聴者数、ありとあらゆる意味でおそらく近年まれに見る爆裂ヒットだったと思います。

――「鬼滅の刃」は今年公開の劇場版も楽しみです。田中さんが手がけられている20年の期待の1作があったら聞かせてください。

田中:ここ数年は、僕自身がメインでやるのをなるべく控えようと思っているんですが、今は「リゼロ」がいちばんいろいろやっているタイトルになります。

――「リゼロ」は、この記事が掲載される元日の夜に新編集版の第1期がスタートし、4月からは待望の2期がひかえています(https://anime.eiga.com/news/110072/ )。お話できる範囲で、新編集版をつくった狙いを聞かせてください。

田中:2クールある第1期を1~3月にオンエアして、そのまま第2期がはじまるという3クールアニメのようなかたちで連動させています。第1期をオンエアした16年4月から数えると4年の歳月がかかっていて、自分でも忘れられずによくここまで頑張れたなと思っています。実は、ここまで綿密に計画してやってきていて、いろいろな仕掛けも用意していますので、これまで見てきた方も、「リゼロ」が初めての方も、ぜひ見ていただければと思います。

――新編集版には、新規カットも入っているそうですね。

田中:新編集版は、1時間番組として放送するので、1時間番組用に再編集をしています。尺の制限で余韻がつくれなかったところなど、間尺の調整を行いつつ、再ダビングも行っています。そう多く新規カットが入っているわけではありませんが、細かく調整を入れているので、ただの会話のシーンも新鮮に見られるところが多々あると思います。新規カットをいれつつ、尺を伸ばす関係上表情を足したり、表現方法みたいなところも若干変えたりしています。

椛嶋:本当にすごい。全部、設計しているんですよね。

――椛嶋さんは、「リゼロ」の製作委員会に参加されているのですか。今回の対談をご相談したとき、ぜひ「リゼロ」の宣伝をしたいと言われていましたが。

椛嶋:特に「リゼロ」の関係者ではありません(笑)。最初から「AbemaTVでやりたいです」とずっと言い続けているだけです。第1期のときは配信できない事情があったのですけれど、今回はいろいろご協力いただいて、その壁もクリアできそうでして。

――AbemaTVで先行配信できそうなのですか。

椛嶋:1話からできますよね。どうなんですか?(と田中Pにたずねる)

田中:たぶん大丈夫だと思います!

椛島:大丈夫だそうです(笑)。(※取材後、AbemaTVで1月1日午後11時から地上波先行・無料最速配信されることが発表された)

――最後に、20年の抱負を聞かせてください。

椛嶋:個人的には、19年は事業としての種まきのような1年と決めていましたので、20年はそこから芽がでるように、ひたすら頑張りたいです。最初にお話した出資のこともそうで、単なる出資だけでなく、今後はサイバーエージェントグループとしてヒットするアニメをつくり、自分たちでIPをちゃんと育てていきたいなと。グループでつくっているゲームとの連携や海外進出など、トータルでしっかりマネタイズができるような体力をつけていきたいなと思っています。

田中:抱負ですか……。特にはなくて、20年はUSJの任天堂エリアに行きたいなと思っています(※ユニバーサル・スタジオ・ジャパン「SUPER NINTENDO WORLD」20年オープン予定)。

一同:(笑)。

田中:まあ映像会社としての話をすると、うちは天才がいない会社なので、みんながそれぞれの個性を生かして頑張っていこうぜ、という年にしたいと思っています。それぞれが個性をもったタイトルを送りだし、地味に勝っていけるような1年になればいいかなと。1年をとおしてみたら、意外とKADOKAWA作品見られていたなという感想を皆さんにもっていただけることを、ここ数年目標にしているんですよ。

――たしかに19年も、今日話題にあがったタイトルの他に、「女子高生の無駄づかい」など印象に残った作品が何本もありました。

田中:16年以降、その目標がなんとなくかたちになっているんじゃないかと実感しています。年間で面白かったタイトルを何個か挙げてもらったらKADOKAWAのタイトルが2、3個入っているという。そんなふうに、今年も変わらず地味に頑張っていければいいなと思っています。

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