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インタビュー 2021年4月1日(木)19:00

雨宮哲監督の「SSSS.GRIDMAN」制作スタイルと“白飯”からはじまった「SSSS.DYNAZENON」 (2)

「SSSS.GRIDMAN」キービジュアル

SSSS.GRIDMAN」キービジュアル

(C) 円谷プロ (C) 2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

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■BGMなしで緊張感をたもった日常シーン

――「SSSS.GRIDMAN」は、アクションシーン以外でほとんどBGMを使っていませんでしたよね。1話を見たときそうとは知らずに面白く見て、あとでBGMを使っていないと知って驚きました。

雨宮:日常シーンは、あえてちょっと間延びした感じをつくりたいと思っていたんです。必要なところは楽しく見せつつも、退屈な部分はむしろその退屈さを強調しないといけないなっていうのがありまして。そういうときに曲がかかると、間(ま)がうまっちゃうんですよね。ちょっと退屈なシーンでも、曲があると方向ができるので不安なところがなくなって間がうまるんですけど、なんとなく長いなとか、退屈だなと感じさせる空気感は、やっぱりつくっておきたくて。

――雨宮監督は“退屈”と言われましたが、見ている側はそういう風には感じず、むしろ音楽がないことによる緊張感が全編にわたってあったように思います。

雨宮:昔のアニメって、案外音楽がかかっていないことが多いんですよね。今のアニメのほうが、昔より音楽をかける傾向にあると思います。それこそ高畑(勲)監督の「赤毛のアン」などは曲数自体が少ないですし、アンが電車を待っているだけで半パート使ったりして、そういう“ほんとに待っている感じ”がするのが好きなんです。
 「SSSS.GRIDMAN」では戦闘シーンだけはとにかく頑張ると決めていて、それ以外はゆったりしてもいいんじゃないかと思っていたところはあります。なので、派手な戦闘シーンをより際立たせるために音楽の部分も引き算していった結果、日常シーンはBGMをばっさりカットして、日常から非日常に変わる戦闘シーンで鷺巣(詩郎)さんの音楽を鳴らすほうがドラマチックだねとなって、実際にやってみたら意外とこれでいいんじゃないかとなっていきました。

――音をつけるダビング作業のなかで、BGMなしでいけるんじゃないかという瞬間があったのですね。

雨宮:日常シーンにBGMはほとんどありませんが、その代わり音響効果の森川(永子)さんが、環境音のようないろいろなリアルな音をいっぱい入れてくれていて、ヘッドフォンで聴くとよく分かると思います。これだけ丁寧に効果音をつけてもらえたのはおそらくスケジュールに余裕があったからで、僕自身やってみたかったことでもあったので、上手くお力を借りることができて本当によかったです。

――日常シーンについてもう少しお話を聞かせてください。他のインタビューで「日常シーンはあまり動かさないようにしたかった」と話されていました。BGMなしで日常シーンが緊張感をたもって見られたのは、絵の力も大きかったのではないかと思います。

雨宮:なんというか、動かないけれど画面としてもつ絵が好きなんですよね。戦闘シーンは動いてほしいんですけど、キャラクターの部分は口の大きさとか細かいところに気をつけながらも大きくは動かさず、目線だけを動かしたりする。基本的に、日本人的な侘び寂びでやりたいなというのがありました。

――アニメーターでもある雨宮監督から見て、そうした細かいところに気をつければ十分に画面はもつし、見ている人に伝わるという考えがあったと。

雨宮:いざとなったら自分で絵を描いて「こういう絵にしてください」とできるので、最終的にはそうやって責任をとろうかなと思っていましたが、「SSSS.GRIDMAN」の時も僕が作画として頻繁に駆り出されることはなかったです。今回の「SSSS.DYNAZENON」では更にアニメーターの技量が上がっていて、楽させてもらったなという感じでした。

――日常シーンでカメラはあまり動いてないと思いますが、カット割の心地よさで緊張感が生まれている気もしました。

雨宮:僕はアニメーターから監督のほうにいったんですけど、その間、演出という工程をあまりやってこなかったんですよね。それで今いろいろ苦労をしているんですけど、演出の工程には必要なセオリーあって、そういうことをあまり知らないままやっているところがあるんです。
 なので、演出的に非常識な部分があることは自覚していて、よく見ると不自然なところや(カットが)つながっていないところが多々あるんですよね。でも、そこは僕自身がもともと「いらないんじゃないか」と思っていたものをあえて捨てているところでもあって、「つながっていなくていいです」という指示のもと、そうさせてもらっています。演出としてキャリアが浅いからこそ、自分なりにこれでいいんじゃないかということを自由に試してみたいなと。

――演出的なセオリーから外れていても、雨宮監督のなかでは「これで成立していて面白いはず」という考えのもと、そうしたカット割にされていると。

雨宮:実写のほうが前後のつながりを守っていないことが多い気がして、特撮とか見ていると特にそうなんですよね。さっきは雨が降っていたのにみたいなシーンがあっても、ほとんどの人は気にしてしないでしょう。だから、「SSSS.GRIDMAN」でもお客さんが気にならない範囲でやるのはいいかなと。そういうことならと編集さんにもノッてやってもらえたので、人によってはちょっとトリッキーなアニメに見えるかもしれません。
 つながっていないといえば、特撮パートは3DCG、日常パートは手描きの作画と一応分けてはいますが、「ここは実は作画です」「ここ3DCGです」みたいなことが頻出していて、見ている方のなかで完全に分かっている人はいないんじゃないかと思います。作画によせた3DCGもあるし、作画も実は3DCG風に描いたりしていて。こういうところも、実は見ているほうにとってはどちらでもいいことなんだと思いますが。

――3DCGにするか作画にするかは、絵コンテの段階で決めていたのでしょうか。

雨宮:そこまで決めこんではいなかったですね。最初は3DCGと作画が混在してミスマッチに見えるのもいいかなと思っていたのですが、お互いの技量が考えていたよりも高かったおかげであまり違和感がでなくなって、いい誤算でした。これもスケジュールに余裕があったおかげで、さすがにこれはやりすぎかなというところがあっても作業を戻すことができましたので。

――スケジュールどおりに進められた要因は、どんなところにあったのでしょうか。

雨宮:メカまわりのデザインの決まりが早かったのが大きかったと思います。デザインに何カ月もかけて、それをみんなが待っていて、締め切りを大幅にすぎてあがってから急いでバーッとやるみたいなことがアニメではよくありますが、グリッドマンや怪獣のデザインはほとんど2稿で終わりでしたから。憧れの高名な方ばかりにお願いしていますから、あがってきたものに大喜びして、それで仕事が終わりっていう。しかも、そのデザインをそのままグラフィニカさんに渡してモデリングしてもらうわけですからね。モデラーさんのレベルも高くて、ほんとに僕らは何もしていないようなものです。メカや怪獣が早く進んだぶん、キャラクターのほうに時間が使えたのはよかったと思います。

■六花とアカネのキャラクターデザイン

――「SSSS.GRIDMAN」のキャラクターデザインについても聞かせてください。特に、六花とアカネ、2人のヒロインはどのようにつくっていったのでしょうか。

雨宮:特撮がもとになっているからこそ、キャラクターにはアニメっぽさみたいなものがほしいなと思っていて、アニメファンに見てもらえるデザインにしようというのが根本にあったのですが、デザイン自体はけっこう迷いました。僕がキャラクターでやりたいことが地味な方向で、キャラクターデザインの坂本(勝)君がやりたいことはアニメっぽいことだったので、結果的にはちょうど中間の最大公約数なかたちになったのかもしれません。デザインが完成したときは満足しましたが、今考えると違うアプローチもあったのかな、と思うこともあります。

――2人のヒロイン、すごく人気がでましたね。

雨宮:つくっているときはそこまで考えていなかったので、結果としてですね。僕のなかでやりたい作風があって、例えばツインテールにするとか分かりやすい特徴はあえてもたせないとか、こう動かしたいとかルールはけっこう厳しくありました。そのギリギリのラインのなかで坂本君ががんばって特徴をつくってくれたおかげで、シンプルでヒロインらしいヒロインになったと思います。特徴が少ないぶん描くのは難しい面があったと思いますが、いろいろな絵描きさんに描いてもらえてうれしかったです。

「SSSS.GRIDMAN」本編カット

SSSS.GRIDMAN」本編カット

(C) 円谷プロ (C) 2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

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――アカネは、視聴者に嫌われそうなヒロインというか、レッドゾーンを超えるような言動が多かったと思います。

雨宮:ヒロインというより、普通に「ヴィラン(悪役)」扱いしたつもりだったんですが、思いのほか大丈夫だったのが意外でした。パンを踏むとかキャラとしては絶対駄目だと思ってたんですけど、そこは「ヴィラン」として描かなければいけなかったので。いい印象になってよかったです。

――アカネが酷いことをすればするほど、魅力につながっていくぐらいだったと思います。

雨宮:逆にあそこまで振りきったのが特徴につながった部分があったのかもしれませんね。

――「SSSS.GRIDMAN」は、オンエアがはじまったときどれぐらいまで制作が進んでいたのでしょうか。

雨宮:制作は終盤でした。10月放送で10月中につくりきっていましたので。本当は9月末に放送前全話納品を目指していたのですが、諸事情あって一部の作業がずれこんでしまいまして、それがなければ放送前に制作が完了していたと思います。

――本当にスケジュールが順調だったのですね。

雨宮:1話のダビングは、映像がほぼ完成している状態でできました。フルカラーダビングは、社長の大塚(雅彦)さんのTRIGGER設立以来の目標だったらしくて。それなのに、大塚さんは別件があるからと1話のダビングに来られなくて、プロデューサーが「せっかく夢を叶えたのに来れないとは……」と残念がっていました。ダビング段階でほぼ完全な映像が用意できたおかげで、先ほどお話した音響効果の部分など、映像にあわせた気合をいれたものをつくってもらえました。

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