2025年12月27日(土)19:00
河森正治監督とSUZUKAが“はみ出し”ながら挑んだ「迷宮のしおり」 新しい挑戦は葛藤の果てにある

「マクロス」「アクエリオン」シリーズで知られる河森正治監督が手がける劇場アニメ「迷宮のしおり」(2026年1月1日公開)。テレビシリーズを経たかたちではない、独立したオリジナル劇場長編アニメは河森監督にとって本作が初となる。
物語の主人公は、ごく普通の女子高生・前澤栞。周囲の目やSNSの反応を気にしてばかりの栞は、スマホの画面が割れたことをきっかけにスマホの中にある異世界に閉じこめられてしまう。一方、現実世界では、もうひとりの「SHIORI@REVOLUTION」(以下、SHIORIと略)が現れ、「1億いいね」を目指して自由奔放に振る舞いはじめる。
栞とSHIORIの一人二役を演じるのは、ダンス&ボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」のSUZUKA。本格的なアニメ声優は初挑戦の彼女を河森監督が適任だと思った理由、SUZUKAが自身の活動と2人の主人公を重ねあわせた思い、4日間におよんだアフレコ収録の奮闘を聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
■映画の核になると思った“ふだんのSUZUKAさん”
――主役にSUZUKAさんを起用された経緯を河森監督からお聞かせください。
SUZUKA:私も気になります。

河森正治監督
――河森監督は内覧試写の上映前挨拶で、完全オリジナルの長編は自分にとって初めての挑戦だったから、キャストも声優初挑戦の人たちでいきたいと話されていました。
河森:おっしゃる通り、完全オリジナルの映画は僕にとって本作が初めてになります。その物語のモチーフのひとつとなるSNSについて、今の子たちはもちろん、大人もですが一歩を踏み出すのが昔よりも大変になっているんじゃないかと思うんです。何かを言ったらすぐに叩かれてしまう。しかも昔だったらまわりの人に叩かれるだけですんだのが、世界中から叩かれるような妄想すら抱いてしまう。
そんな大変な状況のなか、最初の一歩を後押しできるような作品にできたらいいなと考えたとき、キャストをプロの声優にお願いしたら上手く演じてもらえるとは思ったものの、そこにはハラハラ感がないなと思ったんです。誰にとっても困難なはじめの一歩を踏み出す作品をつくるとき、アニメの声優を初挑戦する人たちにチャレンジしてもらうことは映画のコンセプトにもあっているんじゃないかと思ったのが理由のひとつです。そのうえで世界中の人に見てもらいたいですから、海外でも活躍していて、かつ学生服を着ながらはみ出していくっていう――
SUZUKA:ふふふ。
河森:世間のルールと“はみ出す”の両方のあいだでせめぎあっている「新しい学校のリーダーズ」の存在って、すごく魅力的だなと思ったんですよね。実際にライブを拝見させていただいたりもして、SUZUKAさんなら1億イイネめざしてハミ出していくSHIORIにうまくチャレンジしていただけるんじゃないかと考え、ただ本当に一人二役大丈夫かなと思いつつお願いしたという流れになります。

SUZUKA(新しい学校のリーダーズ)
――SUZUKAさんはオファーをうけたとき、最初どう思われましたか。
SUZUKA:いやあ……「私で大丈夫な設定になってますかね?」って気持ちになりました。自分の声がちょっと低めだったり関西弁だったりしますので。いただいたキャラクターを見ると、ちょっと清楚系だなあとか……。
河森:ハハハ(笑)
SUZUKA:私で大丈夫かなと一瞬思ったんのですが、大前提として河森監督の初の長編オリジナルのアニメ映画で、主役を一人二役で私にお願いしたいと言ってくださること自体がすごくうれしかったですし光栄でもありました。なので、一瞬感じた不安はいったんおいて、私にできる道があるかなというふうに前のめりな気持ちになりました。
河森:ライブシーンのモーションキャプチャーをとるときに最初にお会いしたんですよ。そのあとにミーティングを設けてもらって、しっかりお話しする機会がありまして。
SUZUKA:そこでだいぶ盛りあがりまして、河森監督の面白さに魅了されました。
河森:そこで作品の説明をしたときにSUZUKAさんから、「栞は、ステージで見せている私ではない、ふだんの姿にすごく近いと思う」と言ってもらったのですが、そのときの言い方自体がまさに“ふだんのSUZUKAさん”で、めちゃめちゃ伝わってきたんですよ。SUZUKAさんのもっているこの実感があれば、これは絶対にいける、いかせるしかないと思いました。
SUZUKA:河森監督と最初にお話しした瞬間を、今思いだすだけで泣きそうになります。誰しもが強い部分と弱い部分をもっている「迷宮のしおり」の一人二役にはすごく共感しましたし、河森監督にはお会いする前から、お名前やお写真だけで何か感じるものがあったんです。なので、お会いするのが本当に楽しみだったのですが、会った瞬間、自分がステージに立つ姿とはまた違う部分を理解してもらいたい、それを通してこの作品と向きあいたいという気持ちが自然と心からわいてきて、「(栞とSHIORIの)2面性にすごく共感できます」と河森監督に伝えることができました。
その伝えるトーンも河森監督が言われたとおり、ほんとに自分の部屋にいるときのトーンというか、悲しいとかネガティブとかそういう部分だけでもない、ただただ本当にナチュラルな自分としてお伝えすることができたんです。自分のそういう部分を監督にちょっとシェアしたときにドキドキ感があったことを、今すごく思い出しました。
河森:そうした人前で自分の本心をさらすドキドキ自体が、もう本当にこの映画の核になるというか、いちばん表現したい部分なのですが、これって誰もが表現できるわけじゃないと思うんです。その部分がSUZUKAさんにすごくマッチしそうな実感がありました。ただ、ひとつ問題があったのは、素のSUZUKAさんが生身の人間としてやるときには間違いなくそれがでるのですが、それをアニメーションの絵にのせて演技してもらったときに、これは本当に頑張らないといけないなと思ったわけです。
■振り付けだと思って、歌うように声をだせばいいんじゃないか

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
――収録はどれぐらい時間をかけられたのでしょうか。1日では……。
河森:1日では全然終わってないですね。モーションキャプチャーで初めてお会いしてから実際の収録までけっこう間が空いたんですけれど、収録には4日間かけて、連日ではなく間に何日か空いていました。間が空いていたのが結果的にすごく良かったと思います。
SUZUKA:感覚的には1週間ぐらい「迷宮のしおり」の収録に集中していたイメージでした。
――本番前のテストで、演技のトーンなどを決める部分が大きかったのかなと思います。どんなふうに収録に入っていかれたのでしょうか。
河森:収録の最初、どうでした?
SUZUKA:とりあえずやってみようと言われて演じてみたのですが、自分でも全然違うと思う声がでたりして、「なんだこれは。どこを練習すればこれが上手になるのか」と、最初のときは一切分からず。映像と音をあわせること自体がほとんど初挑戦でしたので、自分がだしているこの声と映像で見える栞、その見えないところでのリンクが全然できていなくて。「え、私これできるの?」と頭の中がパニックになりました。
河森:実際、SUZUKAさんが感じられたように、その場の雰囲気として大丈夫かなって感じもあったんですけど、SUZUKAさんの声を聞いていると、「あ、これいける」ってワードはあったんですよ。全部じゃないけど何ワードかはいけるのがあるから、時間をかければできるなとは思いました。ただ、かぎられた日数ですべてのセリフに対してそれが間に合うかなとはちょっとドキドキしました。
――収録のディレクションは基本的に音響監督からが多いと思いますが、河森監督から何か助言などはされたのでしょうか。
河森:今回に関しては完全オリジナルだったので、わりと直接話させてもらったんですよ。「新しい学校のリーダーズ」のライブを何度も見させていただき、あとちょうど収録の直前に「青春イノシシ(ATARASHII GAKKO! THE MOVIE)」(※「新しい学校のリーダーズ」のライブ&ドキュメンタリー映画)とその舞台挨拶も見るなどして、いろいろなパフォーマンスを目にしていたので、とにかくSUZUKAさんの身体感覚がすごいことはよく分かっていたつもりなんです。と同時に、普通の声優さんにアドバイスするようなことをやっていたら時間的に間に合わないかもしれないとも思いました。だからもう、ダンスの振り付けをあれだけ覚えられるのだから、キャラクターの演技を振り付けだと思って、歌うように声をだせばいいんじゃないかと思ったんです。

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
SUZUKA:初日にテストがあったあと、あらためて練習をしたのですが、その最中に河森監督から、今言われたような「もっと感覚的に」「振り付けを覚えるように」というアドバイスをいただきました。自分自身たしかにと思って、その気持ちを前提に最初の収録後も沢山練習をしたら、だんだんと河森監督が言っていることが分かってきたんです。栞が動いてしゃべる理由や気持ちのようなものが体の中にどんどん入ってきて、「もしかしたら、これでいける気がするかもしれない。でも分からない」というところまでいけました。
別日に本番の収録に向かうときはそれでも不安でナーバスな気持ちでしたが、録りはじめると、「あ、いいじゃない」というお声をいただきはじめたんです。それで「練習のおかげで、いけているのかもしれない」と思ってからは、どんどんナチュラルに栞の声がだせるようになりました。
河森:テストの日から数日経って、SUZUKAさんの声を最初に聞いた瞬間、自分も「これはいけるな」と思いました。音響監督の郷(文裕貴)さんも「同じ人(の演技)か」みたいに思われたみたいで、うれしい驚きでバッとこちらを振り返りましたから(笑)
SUZUKA:そんなことがあったんですね。よかった。
河森:たった数日でこんなに変わるんだって本当にビックリしました。できるとは思っていたものの、間に合うかどうかが心配だったのですが、これならいけるなと思いました。
――ちなみに、SUZUKAさんの収録はおひとりだったのでしょうか。それとも相手役と一緒に演じることもあったのでしょうか。
SUZUKA:基本的には一緒にやらせてもらっていました。最初に寺西(拓人/架神 傑役)さんと2人で収録し、そのあとに伊東(蒼/倉科希星役)さんと齋藤(潤/山田健斗)君、最後に原田(泰造/小森役)さんとって感じですね。
河森:会話的なところは、なんとか頑張ってもらってスケジュールをあわせていただいたんです。それも本当に良かったと思います。
SUZUKA:やっぱりライブセッションになりますので、相手の方とエネルギーをやりとりしながら演じることができました。

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
――原田泰造さん演じる小森と栞のコミカルなやりとりも楽しかったです。
SUZUKA:いやもう楽しかったです。原田さん自体が大好きですので、すごくいい気分で収録できました。原田さんはすごく上手で、(声の)抑揚だけ聴いていても楽しいんじゃないかと思います。私自身、原田さんの演技においつくよう自分なりにセリフを言っていった感じでした。
■「はみ出す」ための“自分のなかの戦い”

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
――SUZUKAさんはキャスト発表のさい、「栞とSHIORIの声を自分の声の中から探す旅はとても興味深い感覚」で、「“すずか”と“しおり”はどこか共通点があり寄り添い入り込む事が出来ました」とコメントされていました。SUZUKAさんはライブで豪快なパフォーマンスを披露されていますが、「新しい学校のリーダーズの課外授業」(※テレビ朝日で深夜放送されたバラエティ番組)を拝見すると、勝手ながらその豪快さの裏にはとても繊細な一面もあるように感じられました。“はみ出せない”栞のどんなところに共感されたのでしょうか。
SUZUKA:そうですね……。1時間半のライブがあったとして現実にパフォーマンスするさい私は、はみ出したい、壊したい、破りたいという気持ちをもって、常に未来の予想をしながらステージに立つんです。ステージに立ちながら「はみ出す?」「どうする?」「破る? 破らない?」とせめぎあいながらパフォーマンスしていて。そんなとき、「私、できひんかもしれない」という弱い気持ちと、逆に「いけるぜえ」ってうなるようなプロレスラーのような内なる声が同時にやってきて、そのどちらにジョインするか――そういう“自分のなかの戦い”を毎回しています。ライブをするうえで、必ずしもそのやり方が正解ってわけじゃないんですけど、今までそういうことで沢山葛藤してきました。
さまざまなチャンスのある海外のフェス、私たちのワンマンライブ、どんなときも今日しかない今の瞬間を切りとってメンバーたちとどんな物語を想像していくか。それが本当に日々の戦いといいますか、戦いであり、建築であり、計画であり、衝動であり、直感であり、理性でありみたいな……なんというかこう、さまざまな意識との戦いなんですよね。「迷宮のしおり」で裏表の関係にある2人のキャラクターを演じるとき、ライブで日々実感している気持ちを2つに大きく分けることができたので、栞とSHIORIのどちらにもすごく共感できました。
河森:「戦いであり、建築であり」ってフレーズいいですね。
――河森監督も、あえて空気を読まないというか、これまでの作品のなかであえて「はみ出していく」ことを意識的にされてきた方なんじゃないかと勝手ながら思っています。
河森:はみ出してばっかりの作風ですね(笑)

(C) 『迷宮のしおり』製作委員会
――河森監督にとっても初挑戦の「迷宮のしおり」で、同じく初挑戦のSUZUKAさんの声が入っていくことで、最初にうかがった意図どおりのものができていく喜びがあったのでしょうか。
河森:声優さんってとてもきれいな声をされているのが一般的で、それって普通の子たちからみたら特別な声になるわけじゃないですか。「迷宮のしおり」の場合は、もうちょっと自分の身近な声に思えて、誰もが自分の物語として感じていけるところがけっこう重要だなと考えていたんです。その身近な声が飛びぬけたときにバンッと爆発するっていう、そこのところはSUZUKAさんに演じていただけたことで、すごく上手くハマったんじゃないかと思っています。
「迷宮のしおり」のキャスティングは、SUZUKAさんをはじめとした声優初挑戦のチャレンジ組をメインキャストにして、そのまわりに立ちはだかる壁だったり、それを守る親だったりの存在をベテランの声優の方々でかためていく構造にしています。チャレンジ組の人たちは、他の業界では当然いろいろなことをやられているけれど、声の演技としてはまだ自分が確定していない。で、そうしたメインのキャラクターを囲む存在をベテランの声優さんにやっていただくことで、作品の世界が重層的に感じられる。そんなふうに、ちょっと変わったテイストの作品になれているんじゃないかと思っています。
ちなみに僕自身も、ふだんから無茶苦茶できているわけではなくて、SUZUKAさんが言われたような葛藤のなかでやっているほうなんですよ。
――何かを壊したり変わったことをやろうとしたりするのは、繊細な準備があったうえのことだと思います。
河森:そこにエネルギーをかけていかないとって思うんですよね。
SUZUKA:エネルギーのかけ方が、ほんとに河森監督はすごいんです。
――「新しい学校のリーダーズ」のメンバーの皆さんは、SUZUKAさんが「迷宮のしおり」で主演されることについて、どんな風に話されていたのでしょうか。
SUZUKA:「迷宮のしおり」の収録は幕張メッセの10周年記念ライブの前だったのですが、メンバーからは「進められることは進めておくから、ライブのことは私たちに任せて(収録に)集中してね。すごく楽しみにしているから」と言ってくれました。その後、「どんな声で録っているか知らないからワクワクする」と話していて、ティザーや予告編がではじめて栞の声が世にでたときには「こんな感じで録っていたんだ」と驚いてくれました。試写会で作品を見てもらったときには、「SUZUKAの声を忘れて、栞の声に没頭できた」と言ってもらえたのでうれしかったです。
河森:素敵ですよね。
――最後にお2人から一言ずつお願いします。
SUZUKA:主題歌は「新しい学校のリーダーズ」としてやらせていただいていて、「Sailor, Sail On」という楽曲です。今ちょうどパフォーマンスを制作中なのですが(※取材時)、今までの楽曲とはまた違った新しいスケール感のある楽曲になっている手ごたえがあります。「迷宮のしおり」をとおして「新しい学校のリーダーズ」としてもまた新しい表現ができそうだなと思っていて、ライブでパフォーマンスできることが今からすごく楽しみです。リアルにお届けするライブのほか、私たちに何かできる機会がきっとあるだろうと思っていて、「迷宮のしおり」の主題歌として「新しい学校のリーダーズ」としてもできることを沢山したいなと思っています。
河森:アニメーションの映像的にも、キャストの皆さんの演技的にも、音楽的にも本当に素敵なメンバーに恵まれて、新しいチャレンジができたと思っています。みんながスマホをもち、バッシングや「いいね」の追求などいろいろある時代だけれども、そのなかでちょっとでも一歩を踏み出したくなるような、そんな勢いのある力強い作品になれていると思います。ぜひ体験していただけるとうれしいです。
――予告にも少し映っていますが、河森監督のこれまでの作品のファンの方が見ると特に面白いであろう“はみ出した”ところもありますよね。
河森:はい。いろいろやっています(笑)
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<賞品>
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12月27日~26年1月25日23:59
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「マクロス」シリーズや「アクエリオン」シリーズなど根強い人気を誇る作品を生み出し、自身がプロデュースする、EXPO2025 大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」で、世界中か...
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