2018年3月28日(水)19:00
【明田川進の「音物語」】第1回 予算にあわせたオーディションのやり方と、声のバランスの大切さ
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最近、面接にきた複数の若い人から、「SHIROBAKO」を見て音響の仕事に興味をもったとの話を聞き、放送される前の「白箱」で見せてもらったんですよ。僕が虫プロにいた頃に一緒だった方など知っている人がたくさん出ていて、アフレコ現場のエピソードでは、ある音響監督をモデルにしたキャラクターがでていました。作中では、若い人が大変なアニメ制作を頑張っていく過程が描かれていて、それを見てアニメの音に興味をもち、ウチの会社を応募してくれているのは面白いなと思いました。このコラム「音物語」では、これまで私が手がけてきた作品のエピソードを交えながら、アニメの音響の現場では具体的にどんなことをしているのか、お話していきたいと思います。
音響の仕事とは、簡単に言うと、できあがった映像をもらい、そこにどんな音をつけていくのかということです。基本的には、まず映像にセリフをつけ、その後に音楽や効果音をのせ、最終的に音のバランスを調整して、実際に放送したり、劇場にかけたりするための完パケの音をつくっていきます。また、皆さんがなじみやすいところでいうと、声優さんに関係した仕事も多いです。第1回では、キャスティングについてお話しましょう。
作品のキャラクターに、どの声優さんがあうかを決めるためには、オーディションをすることがほとんどですが、予算が潤沢にあるときと、そうでないときとでは格段の差があります。予算があまりない場合は、声優さんのボイスサンプルを利用します。音響会社は各声優事務所のボイスサンプルをもっていて、今は事務所の公式サイトに全部アップされていることも多いですよね。そのボイスサンプルを、みんなで聴きながらキャストの候補を絞り込んでいきます。そして、多くの場合は3人から5人ぐらいに絞り込んだところで、はじめて声優さんにきてもらい、「このキャラクターで演じてみてください」と実際にやっていただく。そこからさらに検討して、キャストが決定されます。
予算が潤沢にある場合は、最初から数日をかけてスタジオに声優さんをお呼びします。キャラクターを象徴するセリフをいくつか書いた原稿を渡して、その場で声優さんに演じてもらうかたちですね。キャラクターの絵や、性格や設定について書いたものを一緒に渡す場合もあります。また、当日に資料を渡してその場でやってもらう場合と、事前に資料を声優事務所に送って、「このキャラクターにあう人を推薦してください」と伝え、各事務所が適している人を何人か選んでくる場合もあります。今お話した2つが、基本の選び方になります。
最近は、ゲームが原作のものなど、キャラクターの声を担当している方がすでにいらっしゃる場合も多いです。その場合、同じ方にやってもらう場合、新たにキャスティングしなおす場合の両方があります。いろいろなケースがありますが、今までやった作品のなかで、ゲームで声を担当した方がアニメにスライドした場合、その方だけが浮いてしまうことが何度かありました。なぜかというと、ゲームでやってきた方は、会話の芝居をしていない方が多いんですよね。ゲームでは、自分が演じるキャラクターのセリフを単独で言うことがほとんどで、相手がこう言ってきたからこう返すといった場を体験することが少ないんです。
そういうことが分かっていたので、アニメではキャスティングをし直すケースが多かったのですが、昨年に音響監督をやった「妖怪アパートの幽雅な日常」という作品では、CDドラマのキャストのままアニメでもやるという珍しいかたちをとりました。そして、これが非常にやりやすかったんです。もともとCDドラマでは、原作者の方からのリクエストにあわせたキャストにしたのですが、これがベテランの方が多い、とても豪華なものだったんですよね。そのため、別の意味で続けてやっていただくのは大変だったのですが、収録は本当にやりやすかった。皆さん、CDドラマでキャラクターをつかまれていたので、ほとんどディレクションなしでいけてしまうし、収録にかかる時間も本当に短くて。こういうやり方もあるんだなと面白かったですね。
僕がキャスティングでいちばん気にかけているのは、「全体のバランスがとれているか」ということです。いい人ばかりを選んだつもりでも、そこが気になったときは、決まった人の声だけを並べて、原作者の方や監督に聴いてもらいます。ひとりひとりの声は、非常にいい声だしうまい。でも、並べて聴いてみると「この3人、なんだか声が似てしまっている」と分かるときがあるんですよね。1話だけで終わってしまうものならばともかく、テレビで13本や26本つくっていくのであれば、全体の声のバランスがとれていたほうが、皆さんやりやすいはずなんです。
声のバランスの話でいうと、ベテランの方の場合は、「相手が先にこういう芝居をやったから、俺はこっちの方向でやろう」と変えることができます。ただ、新人の子ばかりというときなどは、まだそこまでの引き出しがありませんから、「ちょっと変えてやれませんか」と言っても、あまり変わらないことが多い。そうした部分を知るために、オーディションの場にきて実際にやってもらうのは、とても大事なんです。
もともと声がないキャラクターを、生かすも殺すも声優さん次第。声を選ぶときは、キャラクターをつかみ、自分のものにして演じられるかどうかがもっとも重要です。大昔、テレビアニメがはじまった頃は、劇団の人や顔出しをしている役者さんなど、声の仕事をやったことがない人たちが、アルバイトのようなかたちで演じていました。まだ、「声優」という言葉がなかった頃の話です。そんななか、はじめて声優専門の事務所をつくったのが、先日お亡くなりになった青二プロダクション創業者の久保(進)さんで、そのあたりからアニメーション自体も徐々に広まっていきました。昔はアニメを制作する会社もさほど多くなく、1週間に4、5本放送されていたぐらいでしたから、そのなかで週2本ぐらい仕事をもっていたら、もう大手なわけです。それが今は、週に何十本とアニメが放送されていて、スマホのアプリの仕事などもあります。声の仕事の需要は多くなり、アニメ専門の声優事務所も、専門の養成所もたくさんできました。声の仕事を専門にやっていく人が増えたぶん、選択肢は非常に増えています。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
作品情報
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