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特集・コラム 2019年2月14日(木)19:30

【明田川進の「音物語」】第21回 「シェンムー」の収録で3年間セガに通った日々

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僕はゲームの仕事を何本かやっていて、もっとも深く関わったのがセガの「シェンムー」シリーズ(※「シェンムー 一章 横須賀」「シェンムーll」)でした。一部のキャスティングとアフレコのディレクションを担当し、音楽や効果音には関わっていませんが、アニメの仕事とはまったく違ったやり方で収録をした面白い仕事でした。

「シェンムー」は莫大な予算をかけた大がかりなつくりが話題になりましたが、声の収録も通常のやり方と大きく違うものでした。羽田にあるセガのスタジオに週3日通い、朝10時頃から夕方まで収録を行うこと約3年間。そこで収録したものがゲーム中に使われているほか、ゲームの制作にも役立てられています。

僕が関わるまでは、CGのモデルを動かすためのガイドとして社内でテスト的に声を録っていたそうですが、そろそろキャスティングをというタイミングで「内部ではやりきれないので、お願いできませんか」との話をいただきました。最初は普通のゲームの収録のつもりでいましたが、関わってすぐに、これは相当力をいれて取り組まなければならないプロジェクトであることが分かり、我が社の制作担当に頼んでセガに常駐してもらうことにしました。そうしないと、ずっと社内にいるゲームのスタッフたちと上手くコミュニケーションがとれないと思ったんです。実際、僕がスタジオに行かない日も日々状況が動いていました。

最初のうちは本番の収録ではなく、勉強会のようなかたちでいろいろな人に演技をしてもらっていました。「声の演技とはこういうものだ」と体験し慣れてもらうためのものです。普通のアニメの収録のように、きっちり時間や役を決めてやるというよりも、その場でキャスティングしてやることが多くて、演じる側も役が本決まりではありませんから真剣度が足りなくて芝居が上手くからまないこともあります。普段アニメの仕事をしている声優さんさんのなかには、このやり方にとまどわれる方もいました。

収録した仮の音声をもとに動きのCGをつくり、それができあがった頃から本格的に収録を進めていきましたが、途中でハードがセガサターンからドリームキャストに変更になったため、もう一度最初から同じものを録り直すことになりました。それ以外にも同じセリフを録ってほしいとの依頼が度々あり、メイン以外の細かい直しなどは社内の方がやっていると思います。

僕がディレクションしたのは声の収録だけで、音楽や効果音をセリフにどうあわせていくかはゲームのスタッフにお任せしています。そうすると、どうしても消化しきれない部分が残りますし、物語の流れをすべて把握して段取りできたわけではありません。断片的な台本を渡されて「今日はこれだけ録ってください」と言われ、全体の流れがよく分からないまま録っているときもありました。おそらくゲームサイドもそうだったのではないかと思いますが、途中まで進めていたことを潔くやめにして、こちらの方向にいこうといったトライ&エラーが頻繁に行われていた印象です。そうなると収録のときに「こういう演技をしてください」と、あまり断定して言えないんですよね。いろいろな選択肢をふくんだ、ゲームをプレイする人の想像に任せるようなニュアンスで録っていることが多かったと思います。

確定した台本をもとに限られた時間で収録を行うアニメや映画と比べると、先の見えないプロジェクトではありましたが、僕自身はとても面白い仕事だと感じていました。今までやっていたゲームの録り方と全然違っていて、こうした仕事も一度は体験しておきたいなと思っていましたから。といっても3年間通い続けるのはけっこう大変で、セガのすぐ近くにあった美味しいシラスの釜揚げ丼が食べられる和食屋さんでお昼を食べるのを楽しみに通っていました。

僕はゲームをやりませんが、「シェンムー」は「オープンワールド」というジャンルのゲームの先駆けだそうですね。ゲームのなかに現実と同じようにたくさんの人がいて、それぞれが目的をもって行動している。そうした膨大な数のキャラクターたちに声があてられているのは、3年間の試行錯誤があったからこそだと思います。ゲームをプレイされた方はご存知かもしれませんが、僕も蕎麦屋の店主・明田川進として登場しています。最初は声もあててほしいという話でしたが、それだけは勘弁してもらいました(笑)。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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