2019年9月23日(月)19:00
【明田川進の「音物語」】第28回 音響会社のお金の話
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今回は、音響会社の費用面についてお話しましょう。といっても、テレビアニメの音響予算は1本いくらと相場が決まっていて、そこからスタジオの費用、効果部さん関連の費用など、固定でかかる金額もほぼ決まっています。
もちろんキャスティングの費用もかかります。声優にくわしい方はご存知の「ランク制度」というものがあって、1回の収録あたりの金額が決められており、最低ランクのジュニアなど若手の人を多く使うか、ベテランの人を多く使うかによって、ここは大きく変わってきます。例えば、若手の人をメインにする場合は、脇にちょっといい人をいれて全体の芝居を締めるバランスのとり方をすることも多いです。メインの役者にお金をかけすぎてしまった結果、脇に渋い方をいれたくても予算的に難しくなり、若手で芝居もできて渋い演技もできる人を一生懸命探す、なんてこともあります。
キャスティングの費用も、基本的には1話あたり標準的な金額が決まっています。ただ、監督やプロデューサーからの「どうしてもこの人にでてほしい」という要望をかなえていくと、予算はあっという間にオーバーします。そういうときは相談して予算を上乗せしてもらうこともあれば、今回はなんとか頑張ろうとなることもあります。また、ゲームやアイドル関連のタイトルでは、関連キャストの予算を別建てにしていることも最近は多いです。
今は1クールの作品が多いですが、キャスティングの費用は長いクールのほうがいろいろとやりくりがききます。1クールだと12~13本の話数のなかで、メインの役者が何話ぐらいでて、他にどれだけゲストを使うかを計算してしていきますが、これが2クールになると26本で割れて、キャストが少ない話数もでてくるから低く抑えられるんですよね。1年以上続く作品だと、もっとフレキシブルにやることができます。これは絵の面も同じで、13本だと毎回設定をおこしていかないといけませんが、長丁場のシリーズになると新規の設定はどんどんいらなくなっていきますから。
予算も大事ですが、音響の仕事をしている人たちがもっとも苦労しているのはスケジュールです。他工程の作業は遅れてもある程度調整できるかもしれませんが、僕らポスプロの仕事はアンカーで、放送日は決まっていますから「遅れました」ではすまされません。絵があがってこないからと予定していたアフレコやダビングがなくなることがまれにあって、そうなると押さえていたキャストの予定などは一旦ばらすことになります。間に合わないのは仕方がないことですが、遅れたぶんはどこかで取り戻さないといけませんから、役者さんの空いている時間に録ったり、夜中にやったりしています。そんなとき特急料金があればいいのですがそんなことはなく(笑)、なんとか仕上げようとがんばっているのが実情です。
音響監督が、どうして週に何本も作品を抱えられているのか不思議に思う方がいるかもしれません。マジックカプセルの場合は、音響監督を支える制作の人を担当制でつけていて、彼らがしっかり管理しているのが大きいです。制作はみんなオフィスのワンフロアにいて、それぞれの状況を密にやりとりしながら、どう進めていけばスムーズに動くかを心がけながら音響監督をサポートします。
以前お話した優秀な音響制作プロデューサーの場合 、音響監督の代わりに打ち合わせに出向くこともできます。そこで先方の意向をきちっと聞いて、あとで音響監督に共有するという役割分担ができるんですよね。アニメ制作の総監督と監督のような感じでしょうか。そうした工夫で、本数をこなすことができている面があります。僕は外部のスタジオからの依頼で2本、自分のスタジオで1本の週3本やっていたのがいちばん多くて、それでも辛かった思い出があります。何かが少しでもずれると大変なことになるんですよね。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
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