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特集・コラム 2020年2月27日(木)19:00

【明田川進の「音物語」】第34回 松風雅也さんとの対談(前編)僕の最終学歴は「シェンムー」卒業 (2)

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──それだけ時間をかけて収録した音声は、どのぐらい実装されているのでしょうか。

明田川:ほぼ入っているんじゃないですか。

松風:「シェンムー」のセリフのすごさについて、今日は書いてご説明しようと思っていたんですよ。例えば、主人公が他のキャラクターに呼びかけるセリフが、大きく3グループに分けられているとしますよね。最初のグループ(1)は「あのー」とか「すみません」「ちょっといいですか」と呼びかける部分。その次の(2)は、「○○はどこですか」「○○に行きたいんですが」「○○を知っていますか」という問いかけ。その答えを聞いたあとに(3)の「そうですか」「どうも」と返す部分、この3つのパーツを別々に収録しているわけです。で、実際にプレイする場合には膨大なパターンで録っている(1)から(3)をコンピューターがランダムに選んで、「すみません、○○にいきたいんですが。(答えを聞いたあと)そうですか」というやりとりを毎回リアルタイムにつくっていて。

松風さん直筆「シェンムー」セリフの仕組み

松風さん直筆「シェンムー」セリフの仕組み

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──そんなシステムになっているのですか。

松風:車のナビや、料金を読み上げるレジなどで「料金ハ、100、円デス」ってあるじゃないですか。あれの、ちょっとおかしいやつです(笑)。今お話したのは最短の文章で、もっと長いバージョンもあります。明田川さんと収録しているときも、「(1)の文章が別のものになる可能性があって、そうしたらイントネーションが頭高(あたまだか)だとおかしいですよね」みたいな話をして、実際に組み合わせたものを聴いて確認しながら辻褄とイントネーションが通るように、ひたすら調整していきました。主人公が無骨な青年だから上手くいっている部分もあるんですけど、ほんとにすさまじいことをやっているんですよ。だから、同じ人物に話しかけても同じやりとりにはならないんです。

──まったく気がつきませんでした。

松風:あまりにも違和感なく繋がっているから、みんな気がつかないですし、このことを知らない人も多いと思います。このシステムは世界ではじめてやって以降、真似しているところがないそうです。なぜかというと、費用対効果が低すぎて、こんなに面倒くさいことはやらないと。膨大な音声を圧縮するための技術も「シェンムー」が世界で初めてやっているそうで、「シェンムー」の音声システムのすごさは、折にふれて広めていきたいと思っています。そのせいで、今でも僕は“スーパー棒読み君”だと思われてしまっていますけれど(笑)。

明田川:(笑)。

松風:どう組み合わせても大丈夫なように、明田川さんから「もうちょっとフラットに言っておくと、どのセリフを選ばれても繋がるよ」と言われていたんですよ。またそれとは別に、「このセリフだけは、繋がらなくても感情をワッとださなければいけない」みたいなことも全部やっています。

明田川:フラットにという話はゲームのためだと思いながらも、言っている自分もいちばん嫌なことだったんです。相手役との会話でニュアンスをつくって芝居をするのが本来の姿ですから。

松風:収録ではボイスのあるキャラクター全員とやっていて、言い回しも例えばおばあさんと幼女では違ってきますよね。「あの」というセリフひとつとっても、おばあさんへの「あの」と、幼女への「あの」は全部変えてやっているという……。

──途方もないつくりこみですね。

松風:相手に声をかけるときも、3回以上違うパターンで応答したあとは「そうですか」「あ、はい」みたいになるんですよ。現実世界でも何度も同じことを聞いたら、人間としておかしいでしょう。気まずい雰囲気になって、他にいくよう誘導するつくりになっています。海外で「シェンムー」は、ライフシミュレーターとも言われているそうです。別の人生を歩むような体験ができて、日本語の勉強にもなるみたいで。

──松風さんにとっても、別の人生を歩むぐらいのセリフを吹き込んだわけですよね。

松風:図らずもですけどね。オーディションを受けるときは、まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが、おかげで明田川さんに会えましたし、他にも貴重な経験がたくさんできました。3年間、週3で毎回400ページもの台本をもとに、明田川さんに芝居やイントネーションをみてもらえるって、すごいことじゃないですか。しかも、お金をいただいてそれをやれている。僕はたいした学校をでていませんが、最終学歴は“「シェンムー」卒業”ですと胸をはって言えます。それぐらい、とにかく教わった量が普通じゃないんです。

明田川:単発の作品としては、本当に長かったよね。試行錯誤しながらの収録で、僕自身いい勉強になりました。ただ僕は、「シェンムー」をきっかけにゲームの録りを頼まれても、やらなくなったところはあるかもしれません。

松風:「シェンムー」の収録は本当に特殊でしたから、他のゲームはあれほど大変ではないと思います。僕の基準は「シェンムー」なので、他のゲームやアプリの収録だと「え、もう終わり? 嘘でしょ」っていうぐらいですよ(笑)。

一同:(笑)。

松風:この感覚はキャストだと誰にも分かってもらえなくて、ほとんどの方は入れ替わり立ちかわり来られて、レギュラーの方もちょっとずつ呼ばれる感じでした。レギュラーの櫻井孝宏さんも当時は81プロデュースのジュニアで、藍帝など目立つキャラを何キャラかやられて、当時からすごく上手い方でした。その後、「KAIKANフレーズ」でご一緒することになるのですが、「この人面白いな、すごいな」と思っていました。
 櫻井さんのことでよく覚えているのは、おばあちゃん役のオーディションを勝ちとられたことです。「シャンムー」では主要キャラ以外の役を、その場にいるメンバーから決めることがよくあったんですよ。

──そうなんですか。

松風:例えば、「今日録るセリフで3人決まっていない役がいます。おばあちゃん、おばさん、子どもです。できる人?」と明田川さんがおっしゃって、その場で手を挙げた人が実際に演じて、上手い人がそのまま役をとっていくという。そのときは女性もいたのに、櫻井さんのおばあちゃんが選ばれるってすごいことですよね。それぐらいハマっていました。

──「シェンムー」には明田川さんも登場されていて、声を入れるのは勘弁してもらったと以前うかがいました。

明田川:(笑)。

松風:明田川さんはフェイスキャプチャーを撮られたんですか。

明田川:撮りました。

松風:あれだけの人物をつくると偏りがでるし、いちからつくるより撮ったほうが早いからと、実際の人がかなりでているんですよ。関係者全員が顔を撮られてゲームのモデルに使われていて、実はセガの社員もいっぱいでているんです。その流れで明田川さんも登場されていて。

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──それだけ密にお仕事されていると、収録以外のお話もたくさんされたんじゃないかと思います。

松風:明田川さんとは、いろいろな話をしました。印象的だった話のひとつは、真田広之さんと仕事をされたときのエピソードです。最初にお話したように僕はもともと東映のVシネマや特撮番組で仕事をしていて、JAC(ジャパンアクションクラブ/現・JAEジャパンアクションエンタープライズ)の方々にはお世話になっていたんですよ。JACご出身の真田さんは、僕がお世話になった方々の師匠にあたります。

明田川:真田さんとは「カムイの剣」(1985)でご一緒しました。

松風:そのときに真田さんは、自分のセリフがないのにマイクの前に立ちにいこうとされたそうなんですよ。僕らの感覚だと、音が鳴る可能性があるから用がなかったらいかないほうがいいんです。万が一、音を立ててしまったら、ただ迷惑をかけにいったみたいになってしまいますので。そのとき真田さんは、「このシーンには僕が演じるキャラクターがいるから、僕がいたほうがいいと思って」と言われたそうです。

明田川:よく覚えているね。

松風:今のエピソードは、収録のルールを知らなくて困ったというニュアンスではなく、明田川さんはうれしそうに「そういうの大切だよね」と話してくれたんです。「松風君も同じような方向性を感じるよ」とも言ってもらえて、ただ、「真田さんみたいに上手くはないけどね」と(笑)。

明田川:(笑)。松風さんは、声優ならではの発声や芝居づくりとは違うところに魅力を感じたんですよ。これは面白いと思って、「シェンムー」ではそこからさらに基礎をほりさげて芝居をつくることができないかと思いながらやっていました。

協力:マジックカプセル、青二プロダクション
司会・構成:五所光太郎(アニメハック編集部)

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<賞品>
明田川進さん、松風雅也さんサイン色紙、1名様
<応募期間>
2020年2月27日~3月29日23:59
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明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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