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特集・コラム 2023年4月1日(土)19:00

【明田川進の「音物語」】第71回 声優の仕事の広がりがもたらす様々な変化

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最近、若手の声優のなかで体調をくずして休養している人が多くでています。売れっ子の人は声の仕事だけでなく、歌やダンス、ゲームやアプリ、配信番組、実写のドラマにでる人もいて、僕からみても本当にハードだと思います。

前回の話とも関連しますが、コロナ禍で分散収録になって、売れっ子の人は刻みでどんどん仕事をいれることができるようになりました。今は、毎週この時間を収録のために押さえさせてくださいではなく、スケジュールが空いているところがあったら来てくれたら単独で録りますという録り方が圧倒的に多くなってきています。いろいろな工夫はしていますが、そうなるとゲームと同じように相手と会話せずにその人だけのセリフを録っていくことになりがちです。ほとんどの役者が、コロナ前のようにみんなで集まって芝居をしたいと思っていますが、このやり方ができてしまったことによって、マネージャーをふくめてこの録り方のほうが仕事が多くできることが分かってしまいました。

皆さんご存じのように声優はレギュラーがとれただけでは、生活の糧を稼ぐことはなかなか難しいです。ただ今はメインの役がとれたら、それに付随するイベントやゲームなどの仕事がついてくることがほとんどで、それが声の仕事の何倍もの収入になることが多いです。そうした仕事を多少無理してでもやっていくなかで体を壊したり喉を壊したりしてしまうことが起きているんじゃないかと思います。また、起用する側の問題として、良い人がでてくるとどうしてもその人に仕事が集中しすぎて、結果的にその人をひとつの商品のようなかたちで使いきってしまうようなケースも見受けられます。そうなると、どんな人でも参ってしまいますよね。

もうひとつ、これは僕の想像でしかありませんが、精神的にウツのような状態になってしまうケースも多いのではないかと感じています。これも前回の話と関連しますが、収録の現場でベテランと一緒になる機会が減ったことで、先輩の演技を生で見られませんし、収録のあとに誘われて一緒に飲みにいくなんてことも少なくなりました。コロナ前は、飲み会の場でコミュニケーションをとったり、マネージャーに相談できないようなことでも先輩に話したりできたと思います。地方から上京して東京でひとりで暮らしている人も多いですから、悩みを自分で抱え込んでしまうケースもあるのではないかと思います。これは声優にかぎらず、コロナ禍に新社会人になった若い人全般に言えることかもしれませんが。

僕自身、コロナになってからプロダクションの新人に教えにいくことができていません。コロナ前は教えるなかで良さそうな人がいたら会社の制作に紹介することもできていましたが、最近はマネージャーとの情報交換の電話もほとんどしなくなってしまいました。以前は「最近どう?」みたいな会話をしていたのですけれど。もっとも若い人はZOOMなどのツールを使って、新しいコミュニケーションをとっている人も多いと思います。

声優の活動の幅が広がって、声の仕事を目指す人が増えているのは非常に良いことだと思います。ただ、それによって起用する側、起用される側に良いことだけではない変化もおきつつあって、今はより良い新しいかたちを模索する転換期なのではないかと感じています。そして、やっぱり解決策としてはコロナ禍前のみんなそろっての収録ができればいいのですが、今の録り方にみんなが慣れてきつつあるのと、そろそろ状況が良くなってきたかなと思ったら感染者が増えるという繰り返しですから、完全にもとのかたちに戻るのは相当難しいと思います。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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