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特集・コラム 2020年3月20日(金)19:00

【明田川進の「音物語」】第35回 松風雅也さんとの対談(後編)先輩に言ってもらったことを今の後輩に (2)

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明田川:これまでちゃんと聞いたことはないけど、声の仕事をちゃんとやっていこうと思ったのは「ヒートガイジェイ」以降じゃないのかな。そうでもない?

松風:「ちゃんとやろう」という意味では、「シェンムー」のときからそのつもりでした。「メガレンジャー」もアフレコでしたから、収録のやり方自体は僕のなかでそれほど変わっていなくて。ただ僕ならではのアニメの表現みたいなものは、「ヒートガイジェイ」のときに一回頂点をだした実感はありました。アニメーションに関わることはどういうことかを少しつかめたような気がしたといいますか。

明田川:それまでVシネマなどにも出ていたから、まだ生(なま)の役者のほうがやりたいのかなと思いつつ、でも「ヒートガイジェイ」の演技を見て、これは自分でつかんだ芝居を面白くやっているなと感じたんですよ。

松風:ありがとうございます。

明田川:僕がディレクションをやったわけではなくて、仁がやったものを白箱(※関係者に配られる完成映像のパッケージのこと)で毎回楽しみに見ていただけでしたけどね。それで、これは声の仕事をやる気になったのかなと思っていたの。

松風:僕が青二に入ったときに、仁さんからも「本腰をいれて、こっち(声の仕事)をやるって決めたんだと思ってうれしかったよ」と言ってもらったことがありました。自分自身を振り返ってみると、戦隊ものの仕事をしているときから、自分が表にでることにはそれほど執着がなくて、作品がよくなるのだったら出ないでまったく構わないと思うタイプなんですよ。デビュー作が戦隊だったからだと思うのですが、「メガレンジャー」のときでも僕がやられて「変身だ!」と言ったら、そこからは別の人が演じられるわけですよね。それはゲームの「シェンムー」でも同じ気持ちでした。
 僕は日本のアニメーションづくりに関われていることがすごくうれしいし、誇りに感じているんです。特にオリジナルアニメに携わっているときは本当に楽しいですし、原作のある作品でもそれを原作ファンやそうでない人に向けて再構成してアニメ化する才能はすごいなと、折にふれて感じていて。作品がらみでアメリカに連れていってもらったときもアニメの力で国境を超えていることを如実に感じました。今後も、いい作品にめぐりあえたらと思っています。
 アニメ業界自体も、大きく変わりましたよね。明田川さんに「KAIKANフレーズ」のオーディションを紹介してもらったり、「シェンムー」の仕事をやったりしているときも、まわりからは「松風、何やってんの」とけっこう言われていましたから。映画ではなくゲームや子ども番組ばかりにでていて、「早く帰ってこいよ」みたいなことを言われたこともありました。今はもうアニメのオーディションがあるなんて言ったら、みんな出たいって言いますよね。

明田川:うん(笑)。

松風:アニメの仕事に携わる人たちが、誠実にいいものを積んできたから今があるんだと思います。「シェンムー」も誰もやらないようなことを詰めていったから世界中の人に気づいてもらえて、今になって「3」をつくることができています。手をぬかないで生きていくべきだなとつくづく思います。
 僕は、毎週放送されているアニメって産地直送──それこそ地元でとれる野菜や果物と同じだと思っているんですよ。毎週見きれないほどの新作が見られるのが当たり前だと思っているのは日本だけですよね。外国の人と話すと「どう終わるか分からないものにお金はだせない」みたいに言う人もいますけど、我々はどう終わるか分からないいまま毎週最新の話数を見ている。これって産直だからできることなんですよね。毎週たくさんのアニメが放送されていて、それほど話題にならないまま1クールで終わったもののなかにも、実は素晴らしい作品がたくさんあって、のちに再評価されて名作になる可能性がある。僕は今つくっているものが常に「世界に出せるもの」だと考えていますし、日本のエンタメで国境を超えることができるのはアニメやゲームだと思っています。舞台や実写映画は、言葉の壁が大きくて経験上難しい感じがしていて。
 「シェンムー」の頃を振り返ると明田川さんは、たくさんの漫画を現場にもってきて読んでいて、当時の僕は「大人がこんなに漫画をいっぱい読んで、仕事に役立てているんだ」とビックリしたのを覚えています。映画化される前の「20世紀少年」(浦沢直樹)とか見せてくれて、「これ面白いよ」なんて言われていてアンテナの立て方がすごいなと。

明田川:松風さんがアニメーションの世界に入ってきた頃と今ではだいぶ状況が違いますよね。劇場アニメにも、旬の役者さんがどんどん入ってきていて。昔はその人の名前がほしいからという側面が大きかったように思うけど、今は違いますからね。そういうなかで、声を専門にやっている人たちも頑張らなければいけないところにきていて面白いよね。

松風:僕も最初の頃はそうだったからよく分かるんですけど、やっぱり自分が格好いいところでやりたい気持ちって、どうしてもでてくるんです。人間は視覚情報が大きいですから、なかなか耳だけを切り離して考えられなくて、相手の芝居をちゃんと聴いて演じることが難しいんですよね。僕自身、ずっと声の仕事をしているなかである日突然バチッとスイッチが切り替わるように「あ、こうやればいいんだ!」と見える瞬間がありました。
 だから、それがまだできていない「あなたのやりたいところでやっているだけで、だからコケるんだよね」みたいな芝居にはすぐに気づけて、それは明田川さんや、「KAIKANフレーズ」でお世話になった三木眞一郎さんのような方に長い時間をかけて教えていただいたおかげです。あのときに指摘してもらえて、実際にやり直すことで自分の演技を聴くことができた時間は本当に貴重でした。今の1クールアニメでは、そういうことはなかなかできないですから。

明田川:うん、本当にね。

松風:今の若い子は大変だろうなと思います。

──松風さんも出演された「ハイスコアガール」で広瀬ゆうきさんにインタビューしたとき、松風さんからアドバイスをされたと話しながら感極まって泣かれて、驚いたことがありました(https://anime.eiga.com/news/109522/2/ )。

松風:その話は、有志の打ち上げのときに聞きました。僕は昔から良いものは良い、悪いものは悪いとズバズバ言ってしまうほうなんですよ。ハッキリ言いすぎだと、仁さんからよく怒られます(苦笑)。

──広瀬さんが泣かれたのは、松風さんが親身に言ってくれたことがうれしかったからで、そのアドバイスで頑張ろうと思ったと話されていました。

松風:「ハイスコアガール2」の広瀬の芝居はいいんですよ。主役の天崎(滉平)も、「オルフェンズ」(※「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」15~16年)など仁さんの現場で一緒にやってきて、みんなでどんどんよいものにしていこうよと話していまして。

──明田川さんは、音響監督からではなく、役者間で先輩から後輩にアドバイスするのがいいとよく話されていて、岩田さんとの対談でもそのような話題がでました。ただ岩田さんは、あまり言い過ぎると怖がられてしまうから、最近言わないようにされていると話されていて(https://anime.eiga.com/news/column/aketagawa_oto/110239/ )。

松風:古き良き時代の話なのかもしれないですね。このあいだも同じような話になって、松本梨香さんから「松風君は若手相手に偉いね」と言っていただいたことがありました。
 なぜ僕が言うかというと、最初の頃、声優事務所に入っていなかったからかもしれません。当時、明田川さんのように声をかけてくれた人って、事務所とか関係なく僕を相手にしてくれたんですよね。そういうことじゃないですか。広瀬もどこの所属なのか知らないですし、どこの所属だろうと、がんばっていて「惜しい」と思える人に「もうちょっとこうやるといいよ」と言ってあげたくて。

明田川:(うなづきながら)うん、うん。

松風:僕自身、先輩方に言ってもらえたおかげでここにいますし、それしかやり方を知らないところもあります。そうして古き良きスタイルを続けているうちに、そんなことをやっているのは僕ぐらいになってしまったのかもしれません。山寺さんからも同じような話を聞いたことがあって、昔は演者みんなが知り合いでファミリーみたいな感覚があって、別の作品でも現場と役が変わるだけで、知らない人は各現場ひとりぐらいだったそうなんです。だから、みんなで教えることができたという。

明田川:そういう繋がりは、今ほとんどなくなりましたからね。一昔前はベテランの役者から「アケさん、こういう子を知ってる? ちょっといいから、なんかあったら使ってみて」なんて言われたけど、今はめっきり少なくなりましたからね。

松風:「あ、これはいいな」と思える後輩は、今もたくさんいるんですよ。面白いっていうのは、芝居もですが、やっぱり人間がっていうのが大きいですから。天崎もそうですし、「オルフェンズ」のときは主役の河西健吾くんたち若手、その前の作品だと松岡禎丞や(島﨑)信長もそうですね。禎丞がデビューしたてのときに、彼の演技がしょうもなかったんで、ストレートに「しょうもないね」と言ったら、すごくショックだったそうですが(笑)、今は実力派としてすごく人気ですよね。「星合の空」でも共演していますが、彼のアプローチはすごく面白い。そして、彼は取材のたびに僕のことを持ち上げて話してくれるんですよ。今となったら、なんだか後輩に助けてもらっているというか(笑)。

明田川:(笑)。

松風:天崎や信長が番組に呼んでくれたりして、40をすぎるとこういう経験もあるんだなと思います。

明田川:若手からしてみれば、そういうことを言ってくれる人が多くいたほうが本当はいいんですよ。松風さんだって、言ってもらえたおかげで自分が成長したと思っているわけでしょう?

松風:そういうことって大切ですよね。「オルフェンズ」のときは、わりとバーンと強めに言っていたと思います。僕も若い頃は「先輩だからって偉そうに」と思っていたタイプですから、後輩に言うからには現場でそれなりのことをしなければいけないんですよね。「もっと鬼気せまる感じでやらないと」と言って、自分ができていなかったら何言っているんだってなりますし。

明田川:そうだね。

松風:偉そうにしていたらトチれないですしね。僕にアドバイスをくれた頃の三木さんを思い出すと、「三木さんすごい。自分でハードルを上げていらっしゃったんだな」と。でも、そこで先輩が楽をしちゃダメなんですよね。作品のためにもならないですし、「言ったんだから、やってくれるんですよね」という圧を背中で感じながらやるのも先輩だからこそというか。

──人に何かを指摘するのは、すごくカロリーのいることだと思います。

松風:的外れなことを言ってしまうのではと思うのも怖いです。自分が言いたいだけになってしまうのは絶対ダメで、文句を言い続けるだけの人は、そういう傾向がありますよね。「お前、言いたいだけだろう」みたいにならないように言わないとダメですし、あと(現場に)呼ばれる人間でいて、そこに存在していないとダメだとも思っています。「無口でいい人だったけれど、今はいないね」と言われたら、もうそこで終わりになってしまいますから。

明田川:そうだね。現場で自分を表現して、相手役にインプットしてもらうのが何より大切ですから、何もやらないでただ……っていうのはもうアウトでしょう。「やってなんぼ」ですから。

──今日お話をうかがっていて、松風さんが明田川さんから懇切丁寧に指導をうけられてきたことが伝わってきました。

明田川:懇切丁寧にやったかどうかは分かりませんけれど(笑)。ただ、松風さんが声の世界でなんとか上手くいってくれるといいなと思ったのはたしかですよ。

松風:明田川さんがいなかったら、今の僕は完全に存在してないです。このあと、ぶっちぎりで人気になって、明田川さんに恩返しをしなければと思っています。そのためには、ちょっとぐらい卑怯な手を使ってでも人気者になろうと思っていて、相変わらずいろいろやっています。

明田川:いいですね(笑)。

松風:アニメーション業界はまだまだ面白くなると感じていますし、才能のある人たちとお仕事をするのが本当に楽しいので、まだまだいけるなと思っています。なんとかいい作品に加担できるように努力して、どこかでつくったものを明田川さんに見てもらって「あれいいね」と言ってもらえたらなと。それこそ明田川さんが理解できないような作品でも、すごく人気になって大きな会場でライブをしているとかって噂を明田川さんが耳にして、ニヤッと笑いながら「よく分からないけど、すごい人気らしいね」と言ってもらうことを、ずっと目標にしています。

明田川:松風さんは、今はナレーションの仕事はやっているの?

松風:ほぼ、やっていないです。

明田川:松風さんのナレーション、いいと思っているんですけどね。それもぐっとおさえた自然な感じというか……ヘタクソに(笑)。

松風:ありがとうございます。道が見えました(笑)。

明田川:「ヘタクソ」という言い方をディレクターやプロデューサーがよくしますが、実際にやるのは難しいことなんですよね。演技を誇張しすぎないでやるのが、ちょっと面白いんじゃないかと思います。みんなのナレーションのイメージって、普通に淡々とやるか、テンションを上げてやるかぐらいだと思いますが、そういうことを全部やめて、ぐっとおさえてゆっくりやるっていうスタイルは、ひとつあるんじゃないかなと。僕はもう現役じゃありませんが、そういうナレーションを松風さんができたら面白いと思うな。青二に入ったからこそ、そういうきっかけがこれからあると思うんですよ。

松風:いや、うれしいです。僕のマネージャーは、マジックカプセル担当なので、あとでよく話しておきます。

──岩田さんのときと同様、この部分は必ず原稿化しておきます。

松風:ありがとうございます(笑)。今文字に残しておくと、今後明田川さんの予言のすごさが分かるかもしれませんね。そうなるよう頑張ります。

協力:マジックカプセル、青二プロダクション
司会・構成:五所光太郎(アニメハック編集部)

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<賞品>
松風雅也さんサイン色紙、1名様
<応募期間>
2020年3月20日~4月19日23:59
<応募方法>
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明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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