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特集・コラム 2020年11月26日(木)19:00

【明田川進の「音物語」】第43回 コロナ禍でおきたアフレコとダビングの変化

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新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけて、音響の現場に大きな変化がおきています。状況は日々変化していますが、今おきていることをいくつかお話したいと思います(編注:9月中旬に取材)。

いろいろなところで語られているとおり、“密”を避けるためこれまで数十人集まることもあったレギュラー番組の収録が一度に数人でしかできなくなりました。仮に30人の現場を3人でやるとしたら、10回に分けて録らなくてはいけません。そうなると、今まで3~4時間でやれていたアフレコが倍以上の時間かかることになります。

役者さんのスケジュールの押さえ方も、レギュラー日を単に押さえるだけではすまなくなります。そのやりくりで制作の人間はてんてこ舞いで、録音スタジオの押さえもこれまでのようにはいかなくなりました。ウチのように自前のスタジオがあるところは、ある程度の融通がききますが、街場の録音スタジオを時間あたりで借りている音響制作会社だと時間内では録りきれず、最初から相当長い時間を押さえておかなければなりません。そうなると予算的な問題もでてきて、こうした問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうです。

アニメ制作の最後の工程にあたる音響作業は、「いかに効率的に録るか」を考えながらできあがってきたという側面があります。特にフィルムからデジタルに切り替わってからはぐっと早くなってきましたが、コロナ禍の今、これまでのやり方ではやっていけなくなり、どんどん時間がかかるようになってきました。

みんなが揃って収録することも相当難しくなってきています。可能なかぎり一緒に録れるよう工夫している現場もありますが、最初にベテランや上手い人に申し訳ないけれど相手がいないまま単独でやってもらい、次にやる人はそれをガイドにやってもらうことをしないと、もう間に合わないなんてケースがたくさんあります。役者さんに無理して時間をつくってもらっていると、これまでのように良いものをつくるためにねばることも難しくなり、言い方は悪いですけど「まずはかたちとして成立させる」ところから考えなければいけない状況のときもあります。

皮肉なことに、収録の時間が細切れに分けられたことで、役者さんのなかにはこれまでより仕事がたくさんできるようになった方もいるそうです。自分の収録だけで仕事が終わって拘束時間が短くなりますからね。ただ、音響監督や制作スタッフはすべての収録に立ち会うことになりますから大変です。社内の音響監督なら多少のやりくりがききますが、フリーの音響監督がこれまでの何倍もの時間を押さえられてしまうと死活問題になります。

これまで僕は、役者同士の掛け合いから生まれる会話の大事さについて折にふれて話してきました。今はそうしたことをやろうと言えないジレンマを感じています。言えばみんな納得してくれるかもしれませんが、「今の状況でそんなことができると思いますか?」と言われたら終わりですからね。とはいえ、大きなスタジオでスペースをきちんと区切ってやれば10人以上で収録することも可能でしょうから、テレビアニメでは多少の妥協は仕方ないけれど、劇場作品ではきちっと録りたいなんて考えている監督さんは多いんじゃないかと思います。

ダビング作業にも大きな変化がおきています。全員がスタジオに集まってああでもないこうでもないとやるのではなく、今はZoomで行うことが多くなりました。下手すると監督も最初だけスタジオにきて、あとはZoom上で「ここの音、こうなりませんか」というふうにやる。僕自身は「パソコンから聴こえてくる音で、音のよしあしを判断するようになってしまうとは」と驚いてしまうところがありますが、ウチの制作に聞くと皆さんが使うことによってZoomの音質はどんどん上がっているそうです。もちろん最終的にはスタジオでミキサーさんがきちっと仕上げますし、場合によってはソフト化のときにダビングをやり直すケースもあるようです。

ダビングをZoomでやることで雑談などが減って意見が集約しやすくなり、これまでよりスムーズに作業が進むようになりました。これは良い点といえるかもしれませんが、ここでも見えないところで失われているものがある気がします。ただ、これまで現場にいかないと立ち会えなかったダビングにZoomで参加できることになったのは良い変化だとも思います。テレワークも広がってきて、コロナが収まった後も、あらゆる分野の仕事のやり方がこれから大きく変わっていくように感じています。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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