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特集・コラム 2021年7月12日(月)19:00

【かねやん的アニラジの作り方】第26回 「ウマ娘」と擬人化と日本文化

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「アニメは日本の文化」とよく言われます。確かにあらゆる発想や産業構造などあらゆる「日本的」がアニメには生きてると思います。私がふだん接する「製作委員会」なんて、お互いがお金をもちあい、お互いの企業の得意分野で汗を流し、作品の「あたり」「はずれ」のギャンブル性のリスクを軽減するなんて「頼母子講」と似てるなぁと思います(頼母子講がわからない人は調べてみてください。実は日本の金融機関の原形となったものです)。また制作手法も随所に日本らしさがあります。もちろん、制作される作品にも「日本らしさ」があります。
 「ウマ娘」という作品が大ヒットしています。弊社ではリスナーとパーソナリティがオンラインで1対1で会話する「デジタルお渡し会」というイベントをよくやっていますが、今年に入ってから、2人の会話を横で聞いていると「タマモクロス」とか「ツインターボ」といった言葉をよく聞くようになりました。「なんのことだろ?」と思って聞いてみたら「ウマ娘」。調べると競走馬を萌え擬人化したキャラクターのゲームとWikipediaにはあります。鉄則である男の子の好きなものと女性を組み合わせたコンテンツです。「艦隊これくしょん-艦これ-」や「ガールズ&パンツァー」といったミリタリーと女性キャラの組み合わせの競馬版です。作品としてヒットしているのは、作品の魅力はもちろん、宣伝力や時代性、作り手の情熱などが合わさっているので、アニメやゲームに興味のない僕にはその理由はわかりません。ただ「擬人化」コンテンツがこれだけ増えているのはなぜかと前から興味があって、今回面白い本を見つけ読んでみました。
 「妖怪・憑依・擬人化の文化史」(伊藤慎吾編・笠間書院刊)という本です。本のオビには「古代から現代『日本書紀』から『妖怪ウォッチ』まで文学・絵画・民俗資料や小説・マンガ等の中で異類はどのように表現され背後にどのような文化的要素があったのか 異類の文化を解き明かす初の入門書」とあります。
 この本の編者である伊藤慎吾さんによれば、擬人化について歴史的にとらえるときに「譬喩=たとえ」と「霊魂観」の2つの側面があるそうです。「たとえ」とは「トビウオのように速く泳ぐ人」とした場合、トビウオは泳ぐのが速いという属性があるという認識が前提にあるため、泳ぎの速さを強調することができます。このため、古来仏教などで「物のたとえ」は物事をわかりやすく説くために多用されました。そして中世以降、「物のたとえ」に過ぎないトビウオそのものを実体化(擬人化)させ物語世界に登場するようになります。架空の存在である「物のたとえ」の拡大解釈が「擬人化」の本質なのでしょう。その一方で古来より恐怖の対象だった「妖怪」などは「霊魂」を持った実在の存在と考えられ恐怖の対象となりました。
 我々はふだんの会話でも「物のたとえ」を多用します(かくいう私も多用しますが、実はたとえて言うならといったほうが余計にわかりづらくしていくことが多々あります)。「物のたとえ」は物事を整理し、強調し、わかりやすく、人から人へと物事を伝えていきます。そのために宗教観とも密着しているそうです。
 「物」に魂宿るという日本の考え方が「擬人化」を生み出し、仏教説話の中の「物語」の登場し、21世紀の今、アニメキャラクター作品として息づく。その中に我々がいると言うのは本当に面白いと思います。「ウマ娘」は日本書紀から流れる日本の伝統文化の末裔といえば言い過ぎでしょうか。

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兼田 健一郎 株式会社ベルガモ代表取締役社長

かねやん的アニラジの作り方~体験的アニラジプロデュース論~

[筆者紹介]
兼田 健一郎 株式会社ベルガモ代表取締役社長(カネダ ケンイチロウ)
昭和43年大阪府生まれ。法政大学社会学部を卒業、平成3年ラジオ大阪に入社。報道部記者として大阪府警や国会を担当し、事件事故、55年体制崩壊を取材した。東京支社に転勤後一貫してアニメゲームゾーン1314V-STATION の番組プロデュースに携わる。編成企画部長、編成制作部長、東京支社長などを歴任。平成30年退社。日本の新しい音声コンテンツを創造する株式会社ベルガモを創立。

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