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特集・コラム 2020年1月25日(土)19:00

フィギュアの価格と工場のお話

楽月工場外観

楽月工場外観

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現在1/8スケールあたりの標準的なポーズのフィギュアを買おうとすると、大体1万円台半ばから後半。ちょっと凝ったものや大きいものになると2万越えは当たり前で、3万、4万というのもちょくちょく見かけます。
 金型を使った現在のような塗装済完成品フィギュアが2000年代前半に出始めたころ、同じようなスケールのものが3000円台から始まり、その後少しずつ価格は上がって6000円台から高めのもので8000円台だったころにフィギュアブームがひとつの頂点を迎えます。

価格が上昇する要因は、基本的に工場の人件費と材料費の上昇の影響が多いのですが、中国の場合、毎年国から賃金上昇の指示が来るんだとか。このいわゆる原価の上昇は今に始まったことではなく最初から続いているのですが、フィギュアは長らく6~8000円台をキープできていました。量産効果というのももちろんあるのでしょうが、その時期急激な円高が続いていたというのが主な要因。原価が上がっても、円高が進んでいたので価格に吸収できていたのです。
 そんな時代も今や昔、人権費や材料費の上昇は留まるところをしらず、現在はかなりとんでもないことになっているようで、その結果現在のような価格帯になっているわけです。もちろんこの先もまだまだ上がり続けるはずなので、フィギュアの価格もどうなっていくのか想像もできません。そんな中でプライズフィギュアは、20年以上同じ上限卸価格の中でそのクオリティを上げ続けているのは、驚き以外の何物でもないわけですが、それはまたいずれ別記事で。

余談ではありますが、価格面だけではなく受注から実際に発売されるまでの期間というのも大きく変化しています。最初の頃は新製品発表があって数カ月で店頭に商品が並んでいました。その後も受注から長くても1年以内に発売というのが中心でした。個人的に初めて受注から1年先にフィギュアが出るというのに気が付いて驚いたのが、グッドスマイルカンパニーの「刀剣乱舞 -ONLINE-」三日月宗近フィギュアだった覚えがあります。それが現在は1年程度は当たり前で、大作フィギュアになると受注締め切りから1年半後に商品が届くという状態に。以前は卸問屋を通していたのが受注生産になったことや、フィギュアのクオリティが激上がりしてその対応のためというのもあります。このタイムラグや、アニメ自体の賞味期限が短くなりすぎて、人気アニメのフィギュアをユーザーが欲しいタイミングで発売できないという別の問題が発生しているわけですが。

現在は中国が世界の玩具工場となっているわけですが、さらに昔には日本が世界の玩具工場だった時代があります。玩具の歴史を振り返るドキュメンタリー等を見ていると、戦後からかなり長い間日本で数多くの玩具を作っていたことがうかがえます。以前別件で取材した際に、90年代前半くらいまでは大手メーカーのメジャー作品の変身アイテムを大阪で作っていたと聞いたこともあります(同作品の少し後のドールで初めて中国工場を使ったとも)。
 今や中国は世界第2位のGDPを誇る経済大国。フィギュアの生産技術は進歩を続けているとはいえ、基本的に自動化では対応できない手作業が多めで、人件費の上昇だけではなく、工場そのものがフィギュアを作るよりも電子製品などを指向し、工員も塗料が飛んだりしないクリーンで高賃金での労働環境を求めます。
 いろいろメーカーの人にお話をうかがっていると、中国の工場が業種変換してフィギュア工場が減っているとか、技術を持った人を数多く確保するのが難しくなっている(労働環境や福利厚生の改善を打ち出してなんとかキープしようとしているとか)など、クオリティが下がっているとかいろいろな問題が出ているようです。
 それと別種の不安要素として、中国という国の体制上、そういった工場の扱いがいきなり変わることもあり得ない話ではないというリスクもあります。日本アニメがテレビ放送はNGになったり、配信でもいきなり中止になったりすることもありますが、フィギュアでも急にR18指定のフィギュアの扱いが厳しくなったということがあったようですし、この先R18に限らず日本のフィギュアがダメとか、作ること自体NGになるとか、絶対ありえないとは言えないのです。

そういったコスト上昇やらリスクやらもあって、かつて日本から中国に玩具工場が移ったように、中国から他国へ工場を移すという流れもすでに始まっています。割と早くから大手メーカーはタイやベトナムなど東南アジアに工場を作っていますし、グッドスマイルカンパニーもフィリピンなどに工場を作っています。さらに、グッドスマイルカンパニーは日本の鳥取に楽月工場を作り、フィギュアの生産を始めています。

楽月工場外観

楽月工場外観

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ただ、そこで問題になるのは国民性の違いによる勤務状況や、そもそものクオリティ。なかなか中国同等とはいかないようです。特に昨今フィギュアの商品クオリティの高さはとてつもないものになっており、ユーザーもそこに対して妥協はありません。そのあたりのクオリティノウハウを継承するために、中国で活躍していたスタッフを各国工場に入れるなど対応しているようですが、かなり大変なようです。また、以前聞いた時には結局原材料は中国から輸出するかたちになるため、中国抜きでは難しいことが多々あるとのことでした。

ただ、確実に変化は起こっています。楽月工場ではねんどろいどやfigmaから始まり、現在はスケールフィギュアも作れるようになっていますし、いろいろと面白い実験的なこともやっているそうです。
 また、現在の3Dプリンターなどデジタル技術の進歩にも大いに期待したいところです。いくつかのメーカーでは3Dプリンターで出力したものを商品として発売していますが、まだまだ改良や進歩の余地があります。現状ではまったくの夢物語ですが、3Dプリンターによってフルカラーの塗装済み完成品が量産できるようになったり、安価で家庭やコンビニで出力できるようになったりすれば、市場そのものが大きく変わります。ハードウェアもソフトウェアも出力素材もペイントも、いつどんなエポックメイキングなことが起きて、状況ががらりと変わるか分からないのです。それが5年後か10年後か20年後か、いつかはきっと起こるはず、と信じてこれからもいろいろ情報を追っかけていきたいと思っています。

P.S. そういったこれからの話ではなく、フィギュアの過去の話をいろんな人に証言してもらうという連載を、「月刊ホビージャパン」で始めました。ムックと同じタイトルで「フィギュアJAPANマニアックス」という連載名で、ゼネラルプロダクツにワンダーフェスティバルの成り立ちの話を聞いたり、美少女フィギュアというジャンルを生み出した最初の原型師に話を聞いたりしてますので、本コラムとあわせて読んでいただければ。

島谷 光弘

ホビー&フィギュア トレンド

[筆者紹介]
島谷 光弘(シマタニ ミツヒロ)
フィギュア専門誌「フィギュアマニアックス」を企画・編集し、2000年頃からフィギュアが質、量、人気ともに拡大する10年以上の時期をメディア側で見続ける。現在はフリーでウェブ「ホビーマニアックス」の運営や、ホビー系のウェブやメディアで執筆中。

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