スマートフォン用ページはこちら
ホーム > ニュース総合 > 特集・コラム > ホビー&フィギュア トレンド > 夏のホビーイベント雑感&当日版権の過去と現在

特集・コラム 2022年8月20日(土)19:00

夏のホビーイベント雑感&当日版権の過去と現在

イメージを拡大

まずは最近のホビー系イベントのまとめをいくつか。
 7月24日に開催された「ワンダーフェスティバル2022[夏]」。夏のワンフェスとしては3年ぶり、コロナが再び増え始めているタイミングでの開催となりました。
 ワンフェスとコロナはどうにも相性が悪く、20年冬はコロナが流行り始める直前でギリギリ開催できた(中国からのディーラーが参加できなくなっていたり、それはそれでちょっと異様雰囲気でした。もう1週間遅ければ開催できなかったかもと話題になっていました)のですが、その後は開催しようというタイミングでコロナ感染者が急上昇するというパターンになって、21年秋は中止にもなりました。やはり感染者が急増していた22年冬はディーラーもお客もけっこう腰が引けた感じで、ディーラーの欠席がかなり目立ち、入場者も1万3000人程度とピークの1/3くらい。
 今回の22年夏ワンフェスに関しては、コロナ禍にもかかわらずディーラーの出席率も高め、公式の入場者数はまだ発表されていませんが、明らかに前回よりも賑わっていました。ただ前回と違ったのは、欠席したディーラーがコロナに感染した、濃厚接触者になったなど、直接的な原因のディーラーが目立ったこと。コロナが悪い意味で身近になったことを感じます。
 大きなメーカーでは、グッドスマイルカンパニー&マックスファクトリー、コトブキヤ、メガハウスやバンプレストなどバンダイグループが出展せず、1ホールがステージとフードコートになっていました。それはそれでいずれも本格的な内容で、イベントとしての幅広さを感じさせてくれるものになっていました。

一方、ワンフェスに出なかったグッドスマイルカンパニー&マックスファクトリーは、8月6、7日に新宿で「スマイルフェス」という独自イベントを開催。多数の新作フィギュアを発表していました。展示スペースやブースの作りなど、物理的な制限も少なくさまざまにこだわった展示になっていたのが特徴。なお、23年冬は再びワンフェスに参加するということをかなり強調した告知も行っていました。
 ちなみに、6日夜には新宿のロフトプラスワンでイベントを開催、さまざまな質問に答える場も。その中で、POPUP PARADE(以下PUP)の市場状況についての質問があり、「他メーカーのスパイの質問だ」とか言われていましたが、あれは私が出した質問でした(笑)。19年夏の「Anime Expo」では展開が始まっていたPUPの展示はあまり行われておらず、取材したところではアメリカはまだこれからということだったので、その後変化があったかどうかが知りたかったのです。結果、現在では日本以上にアメリカで出ており、ヨーロッパも急成長中という情報が聞けたので、個人的には非常に満足できる内容でした。

というところで、今回のテーマ。ワンフェスの根幹をなすフィギュアの当日版権という世界に例を見ない独特のシステムの過去と現在について、あらためてまとめてみたいと思います。
 当日版権とは、ワンフェスで生まれた、イベント当日のみ正式な許諾商品として販売できるというシステム。版権元の黙認により運用されているグレーゾーンである同人誌等と異なり、その日だけとはいえ版権元が認めた正式な商品として販売できるというものなのです。現在ではワンフェス以外の他のホビーイベントなどでも採用されています。
 ガレージキットは当初、同人誌と同じように無版権で販売されていたのですが、版権元からの指摘により販売NGになり、それをなんとかするために考え出したシステムが当日版権。同人誌と異なり、ガレージキットは一般販売商品を作っている原型師がそのまま商品と同じ技術、同じ素材で作っているので商品と同人の差が全くないというのが問題だったのです。
 ワンフェスというイベントはガレージキットの販売がなければ成り立ちません。イベントを継続するために、とてもアクロバティックなシステムを考え、それを版権元に提案に行って許諾を得ることができたのは、当時のワンフェス主催がゼネラルプロダクツだったからこそ。アニメ制作会社のガイナックスの母体ともなった同社は、それまでの業界人とは違うタイプの若く有能なスタッフが集まった集団。ゼネプロ&ガイナックスは、アニメで「王立宇宙軍」を皮切りにさまざまな新鮮な感覚の作品を発表し、後にパソコンゲームでは「電脳学園」「プリンセスメーカー」などでグラフィックや演出を大きく変えるなど、当時の業界の変革者ともいえる存在でした。ホビー業界だけではなく他の関わり方を各社ともしていたからこそ、当日版権という無茶が受け入れられたのです。自分の著書である「美少女フィギュア35年史」で、当日版権システムの発端や苦労については関係者の証言でまとめているので、そちらも参考にしてください(宣伝)。

たまに勘違いしている人も見かけるのですが、当日版権では版権元には金銭的なメリットはまったくといっていいほどありません。手続きにかかる手間(1点1点書類を確認して判断する、それを多いところだと数百点見なければならない)を考えると、まるで割に合わないのです。なぜ許諾が出ているかといえば、これはもう完全にファンサービス。ファン活動を応援するということなのです。
 だからこそ、申請数が多すぎたために再版はNGにした、多すぎたので逆に自由に作っていいとしたけど結局全部NGになったなど、状況はグルグルと変化しています。大きい会社だと担当者が替わると判断基準が変わって急にこれまでOKだった表現がNGになるなんていうことも。このあたりは最近は一般商品の監修で問題になることも多くなっている話で、後述しますがフィギュア関係が以前よりも存在感が増している分、会社の新人だったり製作委員会の参加会社だったりが監修で何か言わないといけないと思い込んでとんでもないこと(立体として成り立たないようなことも)を言い出したり、意味のない粗探しを始めてみたりという話を以前よりよく聞くようになりました。

もともと一般商品と同じものが無版権で売られているというのが発端だった当日版権システムですが、時代とともにその一般商品のあり方が変わってきます。90年代は街中の小さな模型店でもガレージキットがけっこう並べられていたのですが、00年代あたりから塗装済完成品が多くなりガレージキットの一般流通商品としての存在感は薄くなっていきます。その頃は割と誌上通販など限定的な販売方法も多い時期でした。
 これは完全に個人的な印象の話なのですが、もしこの頃に初めてガレージキットが生まれたのだったら、同人誌と同じようにグレーゾーンが成り立ったかもなぁと思っています。まあ大前提からしてあり得ない話ですが、それくらいガレージキットに対する版権元の注目度は落ちていた(一般流通市場がほぼなくなっているわけですから)のです。
 なおこの頃、無版権のガレージキットが販売される小規模イベントも定期的に開催されていました。ワンフェスとは違うアングラ感あふれるものでしたが。

では最近はどうかというと、フィギュアに対する注目度、重要度が増しているだけに版権に対していろいろな意味で厳しくなっていると感じています。
 以前、アニメはDVDやブルーレイの売上が重要視されていましたが、10年代半ばくらいにはグッズなどの売上も大きくなってきました。中でもフィギュアは単価が高いために非常に大きな存在感を持つようになってきます。海外ではもともとDVD等はあまり売れないのでフィギュアがグッズのフラッグシップ的存在にもなっていました。某出版社で出したフィギュアシリーズが予想以上の大ヒットをして、それまで圧倒的に社内売上1位だった文庫を抜いたという、業界的にはちょっとした事件があったのもこの頃です。
 現在はフィギュアの価格高騰もあって以前ほどの個数は出ないとはいえ、まだまだ注目度は高いアイテムになっています。だからこそ、前述のようなヘンな監修も出ているわけですが。なので、00年代とは違って仮に今ガレージキットが生まれたとしてもグレーゾーンにはならないだろうなとも感じています。だからこそ、当日版権というシステムは重要であり、意味があるのです。

以前は当日版権で許諾される数が数百個というのもよくあったのですが、現在は50個とか30個上限というのも多いという状態。昔は当日版権フィギュアだけで暮らしている原型師さんもいたのですが、最近は難しいところ。プロ志向のある原型師さんは、当日版権フィギュアをプレゼンテーション的な意味合いで使う感じになっています。
 また、最近はデジタル造形が主流になっているため、イラストと同じようにざっくり作って画像として発表することも多く見かけるようになりました。そこから実体のあるフィギュアにして販売しようとすると、当然当日版権システムを使う必要があるのですが、データのまま販売する時はどうなるのか。以前、当日版権でデータを売っているのを見かけたことがありますが、一方コミケで無版権で売っているのを見たこともあります。また、主に海外のサイトで版権キャラの3Dデータを無版権で販売しているところもあります。デジタルで使えるキャラだと、VRで使えるアバターもありますし、ますますややこしい状況になってきているのです。
 このあたり、どう発展してどういう感じでまとまっていくのか、ある意味要注目で、非常におもしろいところでもあるのです。

島谷 光弘

ホビー&フィギュア トレンド

[筆者紹介]
島谷 光弘(シマタニ ミツヒロ)
フィギュア専門誌「フィギュアマニアックス」を企画・編集し、2000年頃からフィギュアが質、量、人気ともに拡大する10年以上の時期をメディア側で見続ける。現在はフリーでウェブ「ホビーマニアックス」の運営や、ホビー系のウェブやメディアで執筆中。

イベント情報・チケット情報

ワンダーフェスティバル2022[夏] 0
開催日
2022年7月24日(日)
時間
10:00開始
場所
幕張メッセ(千葉県)

特集コラム・注目情報

  • 今日の番組
  • 新着イベント
  • 登録イベント

Check-inしたアニメのみ表示されます。登録したアニメはチケット発売前日やイベント前日にアラートが届きます。