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特集・コラム 2019年9月7日(土)19:00

【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第9回 「Dr.STONE」石神千空

(C)米スタジオ・Boichi/集英社・Dr.STONE製作委員会

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1973年版の映画「日本沈没」に登場した田所博士は「科学者にとって大事なものは?」と尋ねられ、「直感とイマジネーションです」と答える。もちろんこれは、普通の人間の霊感・山勘・第六感を信じろということではない。研究に研究を重ね、データの検討を十分した上で、そのデータが何を意味しているか(あるいは意味していないか)を洞察する力のことを田所博士は「直感とイマジネーション」と語っているのである。
 しかもこの「直感とイマジネーション」は科学者を「真実」へと導くわけではない。そこで導かれるのは、より真実に近いであろう仮説。「直感とイマジネーション」は仮説を次のステップへと更新するものなのだ。
 長々と科学について記してきたが、それは「Dr.STONE」の主人公・石神千空が科学者マインドをしっかりと持った主人公だからだ。すべては全人類が謎の石化現象に襲われたことが始まりだった。人類の文明は滅び去り、3700年が経過し、そして千空は目覚めた。自分はなぜ、目覚めたのか。千空はそこで仮説を立て、実験を繰り返し、コウモリの糞に由来する硝酸が石化を腐食させることをつきとめ、ついには、近くで石化していた幼馴染の、大木大樹を復活させることに成功する。
 その後、2人は、霊長類最強の男子高校生と呼ばれた獅子王司を、そして2人の友人だった小川杠(ゆずりは)を復活させる。そして千空たちは、文明の復活に向けて協力していこうとするが、「汚い大人たちの復活」を拒む司とは対立することになる……。
 シリーズ序盤のポイントは、千空の回想シーン。そこでは、たったひとり目覚めた千空が、たったひとりで道具を作り、火を獲得して、原始的な生活を営み始める様子が描かれる。このくだりだけでも「科学的知識の応用編」としておもしろいのだが、千空はそこで大樹を復活させようと試みるが、なかなかうまくいかない。その時の千空のセリフがいい。
「考えろ。仮説でいいんだ」「なんでも試せ」「試して試して、試しまくれ」「忘れんな。どんなに石化がファンタジーだろうがな、科学の基礎だけは絶対に揺るがねぇ」
 千空は「考えられる可能性=仮説」をひとつずつ潰していって、正解に至ろうとする。そして一つの失敗と次の挑戦の間に千空は、絶対に「直感とイマジネーション」を駆使していたはずだ。そして、それを支える動機となるのは、科学の法則は不変であるということへの揺るがぬ信頼である。
 千空はこの後「俺らは神様でも天才でもねぇ。一歩ずつ一歩ずつ地べた這いずり回って作っていくんだよ」という地に足がついたセリフとともに、本格的に“科学王国”建設に着手することになる。
 少年漫画の主人公にはピンチを打破し、ストーリーを前進させるための「突破力」が必要だ。多くの主人公さは活発さや勇気が「突破力」の源になっている。それに対して千空は、科学への信頼と科学知識こそが「突破力」の源となっており、それによって千空は、主人公たり得ているのだ。

藤津 亮太

藤津亮太の「新・主人公の条件」

[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ)
1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

作品情報

Dr.STONE

Dr.STONE 87

全人類が、謎の現象により一瞬で石化して数千年――。超人的な頭脳を持つ、根っからの科学少年・千空が目覚める。「石器時代から現代文明まで、科学史200万年を駆け上がってやる!」。絶体絶命の状況で、千...

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