2022年1月20日(木)19:00
【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第27回 「王様ランキング」ボッジ
(C)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会
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圧倒的ビハインド。それは典型的な「主人公の条件」のひとつだ。あまりに典型的な条件すぎるので、ともすればありきたりになりかねない危険性すらある。だが主人公の置かれた逆境が徹底的であれば、当然ながらそれは「ありきたり」などではなくなる。典型的なものほど、中途半端はよくないのである。
「王様ランキング」の主人公ボッジは、ボッス王国の第一王子。強さに憧れて王になりたいと思っているボッジだが、彼は非力で、そして生まれつき耳が不自由で、口もきけない。
もしボッジが、庶民の子で王になりたいとなど思わなければ、彼の非力さや障害は決して「逆境」ではなかっただろう。だが、ここは“王様ランキング”が存在する世界なのだ。
“王様ランキング”とは、「その国の豊かさ」「召し抱えている強者の数」「王自身の強さ」などを総合的にランキングしたものという設定。この「強さ」が基準の根幹をなすランキングを前提にした価値観を前提にして、王になりたいと願うということは、このランキングの尺度で己が計られるということになる。そこではボッジはあまりに無力すぎる存在だ。
物語は、このボッジがカゲという不思議な生き物と出会ったところから始まる。カゲは、影に目玉がついたような姿をしており、絶滅した暗殺集団・影の一族の生き残りだった。最初はボッジを追い剥ぎするカゲだったが、ボッジの王になりたい志の真っ直ぐさに触れて、どんな時でも味方でいることを誓う。やがてボッス王が死去し、第二王子ダイダが王になると、ボッジは旅に出ることになる。そして冥府へと突き落とされることになる。これはボッジが邪魔となったダイダの計略だった。
このような徹底的な逆境のなかだが、ボッジは強くなる。さまざまな回り道と貴重な出会いを重ねて一歩ずつ、彼らしいスタイルの強さを身に着けていく。王国にいた時、ボッジは「弱いから守らねばならない存在」として扱われていた。だからこそ「手間がかかる」と疎まれてもいた。だが、それは彼の中に眠る、ボッジなりの強さに(その片鱗は見えていたのに)気づいていない人が多かったからだ。その筆頭は、ボッジの剣術指南役だったドーマスで、彼は物語の展開のなかで自らの誤った認識を修正せざるを得なくなる。
ボッジは非力で耳も口も不自由だが、弱くはなかった。圧倒的な逆境でも、(人知れず涙を流しながらも)自分の志は捨てなかった。そこにボッジの本当の強さがある。自分なりの戦い方を身に着け「強くなる」というのは、この「本当の強さ」の少年漫画的解釈による発露だともいえる。それがアニメ「王様ランキング」序盤における、ボッジの「主人公の条件」といえる。
果たしてボッジは、最終的に、ランキングに象徴される単線的な「強さ」の価値観をひっくり返してしまうのか。それとも、また別の道を歩むのか。アニメはまだまだ序盤の段階だ。ボッジの「強さ」がどう描かれていくかに注目することが、最終的なボッジの「主人公の条件」を明らかにするはずだ。
藤津亮太の「新・主人公の条件」
[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ) 1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。
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