2022年11月19日(土)19:00
【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第32回 「ぼっち・ざ・ろっく」後藤ひとり“ぼっち”
(C) はまじあき/芳文社・アニプレックス
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漫画やアニメというのは極端なところに味がある。現実が“1”だとしたら、漫画やアニメはそれを“50”ぐらいに描く。そうするとメリハリがついて作品がカラフルになる。ダイナミックレンジが広がる。この極端さは漫画やアニメの魅力の重要な部分だ。
キャラクターの描き方もそのひとつ。あの手この手で大げさにその個性を打ち出すことを通じて、まずキャラクターの印象が鮮明になる。さらにいうと、その大げさな表現そのものが魅力的であれば、キャラクターの存在を超えて、作品の魅力にさえなっていく。「漫画(≒アニメ)はキャラクター」というキャッチフレーズは、こうした状態も含んでいるのだと思う。
「ぼっち・ざ・ろっく」は、陰キャの後藤ひとり(このネーミングからして、既に“漫画”だし、バンドでついたあだ名も“ぼっち”である)が、高校生になって念願のバンドを始めることになるというストーリー。ひとりは、中学時代に友達ゼロ、写真も家族写真とクラスの集合写真だけという超陰キャ。唯一の楽しみは、押し入れの中で有名バンドのコピーをギターで宅録し、その動画をアップすること。他人との距離のとり方を知らないから怖い。でも、自己承認欲求もある。このアンビバレントな感情に引き裂かれて、右往左往、七転八倒するのがひとり=ぼっちというキャラクターなのだ。
高校までのぼっち歴をテンポよく見せて始まる第1話のクライマックスは、初ステージにもかかわらず、ダンボールに入って演奏する“ぼっち”の姿。この時はまだ、「かわいらしい」といえる範囲だった、ぼっちのアタフタぶりだが、その後、どんどんエスカレートしていく。まず顔が崩れる、というか溶ける。目が左右に流れて人としての形があやしくなる。さらに第4話では、キラキラしたイソスタグラム(※編注:Instagramを思わせるSNS)を見せられた途端昏倒。口から魂が抜け、全身はブルブルと震え、ついにツチノコの姿でも描かれる。さらにイソスタを勧められると、視界にノイズが入り、絵柄そのものが、落書きのような崩れた絵と複数のペンで殴り書きしたような線画になり、それらの置き換えで、絵“そのもの”が痙攣的に表現される。その後、ぼっちは怪獣の着ぐるみ姿で“承認欲求モンスター”を演じる(この時、背景はちょっと古風な劇画タッチの漫画の絵になっている)。
続く第5話では、なかなか盛り上がる演奏シーンの後、チケットノルマの話題が登場。自分にはチケットを売る相手が家族しかいないと、指折り数えるその手が(おそらく)実写になり、その背景のライブハウスの背景がどんどん変化して抽象的なグラフィックへと変化する。
このように本作では、ぼっちのパニック状態を描くための、手練手管が実に多彩で、アニメの映像表現としておもしろいものになっている。ぼっちにはもうちょっと他人と関われるようになって幸せになってもらいたいけれど、この映像のおもしろさを見てしまうと、しばらくこのまま右往左往していてもらいたい気もする。
陰キャの主人公そのものは決して珍しい存在ではない。でも、ぼっちは、この多彩な映像表現によって、陰キャの主人公の中でもひときわ、キャラがばっちり“立っている”存在になったのだ。
藤津亮太の「新・主人公の条件」
[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ) 1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。
作品情報
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“ぼっちちゃん”こと後藤ひとりは、会話の頭に必ず「あっ」って付けてしまう極度の人見知りで陰キャな少女。そんな自分でも輝けそうなバンド活動に憧れギターを始めるも友達がいないため、一人で毎日6時間ギ...
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