2020年12月24日(木)19:00
【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第21回 「アクダマドライブ」一般人
(C) ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会
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「アクダマドライブ」のキャラクターは固有名詞の名前を持っていない。カンサイがカントウとの戦争に敗れ、属国化したこの世界では、犯罪者のことはアクダマと呼ばれている。そして本作のメインキャラクターはアクダマばかりが並んでいる。この主要なアクダマたちは、各自の能力や犯した犯罪に基づいた名前を冠されている。例えば、第1話で処刑場から助け出されるアクダマは「殺人鬼」。そして「殺人鬼」を助け出す依頼を実行したのは「チンピラ」「医者」「ハッカー」「運び屋」「喧嘩屋」。そして、そこに巻き込まれてしまったのが主人公の「一般人」だ。
普通に会社員として暮らしていた「一般人」だったが、ちょっとした運命のイタズラで、アクダマたちの殺人鬼脱走作戦に巻き込まれてしまったのだ。強面のアクダマたちに囲まれ、身を守ろうとしてとっさに「自分は『詐欺師』だ」と名乗ってしまう「一般人」。こうして「一般人」は、謎のネコに導かれ、アクダマたちとともに、次なるシンカンセン襲撃にも参加することになってしまう。
どうして「一般人」が主人公なのか。こういう主人公には、まず視聴者が感情移入をするための「入り口」という役割がある。なにしろほかのアクダマたちは濃い個性の持ち主で、自分の利益や快楽しか考えない。観客が作品の入り口にするにはいささか常識はずれすぎるのだ。しかし「一般人」を主人公にすれば、下世話な“ブレードランナー”っぽい「カンサイ」という世界観もわかりやすく見せられるし、いろいろなことも説明しやすくなる。
これは「普通の人」を主人公にするときの、定番の考え方だが、本作の「一般人」はそこに留まらない。本作の「一般人」がおもしろいのは、「一般人」であるがゆえに普通から逸脱していくキャラクターになっているということだ。
シンカンセンの積荷は、カントウへ供物として送られようとしていた不老不死の「兄」と「妹」だった。「一般人」は車に轢かれそうなネコを思わず助けてしまうような、“普通の良心の持ち主”である。そしてその延長線上で、「兄」と「妹」を助けようとする。しかしその結果として、「妹」を助け、自分の身を守るために人身売買を行う男たちを殺してしまうことになる。この時点で彼女は、アクダマ=犯罪者になってしまう。ではアクダマとして生きるということになるわけでもない。そして、最終的に彼女は、カントウから狙われる「兄」と「妹」を、その支配の外側へと逃がそうとする。「一般人」はなけなしの良心を行使するうちに、世界の枠組みから逸脱していってしまうキャラクターなのである。
「一般人」なのにどうしてそんな逸脱ができるのか。本作のキャラクターは皆、その名前が示す「役割」に縛られて行動している。例えば「殺人鬼」は「殺人鬼」の役割に、「医者」は「医者」の役割に縛られて、その外には出てこない、その中にあって「一般人」は、無名性の極みのような呼び名のため、「一般人」はその名前に縛られていない。「無色透明」という「色」はないのと同じだ。だからこそ、一般人はカントウやカンサイのルールから逸脱してしまえるのである。原稿執筆時点では残すところあと1話。「一般人」はどのようなラストを迎えるのか。
こうして考えると「一般人」は「一般人」というよりも「主人公」と呼ばれるにふさわしいキャラクターなのである。
藤津亮太の「新・主人公の条件」
[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ) 1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。
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