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特集・コラム 2021年9月3日(金)19:00

【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第25回 「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」野原しんのすけ

(C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021

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映画の最新作「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」がとてもおもしろい。本作は学園ミステリーで、しんのすけが探偵役を務めるという新機軸。謎解きの面白さ、ゲストキャラクターのドラマ、しんのすけと風間くんとのドラマがうまく噛み合って充実感の高い作品になっていた。
 本作の舞台は全寮制のエリート小中一貫校「私立天下統一カスカベ学園」。この通称・天カス学園にしんのすけたちが1週間の体験入学をすることになる。そこはオツムンというAIがポイント制で児童・生徒を厳しく管理していた。ポイントを貯めようと頑張る風間くんに対し、足を引っ張るしんのすけ。2人はついに喧嘩をしてしまう。そして寮を飛び出した風間くんは、壊れた時計塔の中で気絶しているところを発見される。その側にはメッセージが残されていた、メッセージの意味を知ろうにも、目を覚ました風間くんは究極のおバカになっていて話が通じない。果たして犯人は誰なのか。しんのすけたちは「カスカベ探偵倶楽部」を結成して謎に迫る。
 もともとしんのすけというキャラクターは、「ませた口ぶりで大人をおちょくるキャラクター」として登場した。一種のトリックスターで、ギャグキャラクターとしては定番中の定番といえる。そしてテレビアニメ化されるとその“定番”が大いに受けて、映画第1作「アクション仮面VSハイグレ魔王」が制作されることになった。そして、この作品はさまざまな意味で「映画クレヨンしんちゃん」の世界を決定づけることになった。
 「アクション仮面VSハイグレ魔王」はパラレルワールドを舞台に、ハイグレ魔王とアクション仮面の戦いを描く。ここを突破口にして「映画クレヨンしんちゃん」は日常ものの枠を飛び出して、SF、ファンタジー、アクション、メルヘン、時代劇とどんな世界観を持ってきても大丈夫になった。このバラエティの豊かさは、長期シリーズを支える時の大きな原動力となっている。
 そして「アクション仮面VSハイグレ魔王」が一種のヒーローものとして作られたことで、しんのすけのキャラクター性にも幅が生まれることになった。「大人をおちょくる」キャラクターであるしんのすけが、ここで「悪者をおちょくる」に変奏され、おバカなりに、ある種のヒーロー性を帯びることになったのだ。
 このヒーロー性は「映画クレヨンしんちゃん」の特徴で、今回の「天カス学園」にも受け継がれている。しかも「天カス学園」で、しんのすけは推理もできるキャラクターになった。これは今後の「映画クレヨンしんちゃん」のバラエティを一層豊かにするはずだ。
 しんのすけという主人公は、おちょくりキャラクターをベースにしながら、映画の時だけはちょっとだけヒーロー性を帯びる。ここに「クレヨンしんちゃん」の息の長い人気の秘密があるのだ。

藤津 亮太

藤津亮太の「新・主人公の条件」

[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ)
1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

作品情報

映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 1

嵐を呼ぶ“永遠の5歳児”のはずが、しんのすけとその仲間たち・カスカベ防衛隊がなんと学帽をかぶり制服姿で学園に体験入学することに! そこでカスカベ防衛隊を待ち受けるのは、汗と涙の青春! ……のはず...

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