2021年12月4日(土)19:00
【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第26回 「フラ・フラダンス」夏凪日羽
(C)BNP, FUJITV/おしゃれサロンなつなぎ
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「フラ・フラダンス」は、福島県いわき市にあるスパリゾートハワイアンズのダンシングチーム(いわゆる“フラガール”)を題材にした作品だ。主人公は新人のフラガール、夏凪日羽(なつなぎ・ひわ)。彼女は、東日本大震災で亡くなったフラガールの姉の後を追うように、フラガールの道を選んだ。映画は彼女と彼女の同期である4人の個性的メンバーの、新人ならではの奮戦を描いていく。
映画には、免許をとったばかりの日羽の運転で、同期たちとドライブに出かけるシーンが出てくる。彼女たちにとってはなんてことない「休日の一コマ」だ。このシーンを見た時、自分が社会人1年生だったころの記憶が強烈に蘇ってきた。
僕も入社1年目に(男ばかりで)同期で連れ立ってドライブに出かけたことがあった。まだ学生気分という“タマゴの殻”がひっついたまま、それでも一人前の職業人になろうとしてウロウロしていた時期のこと。今になってわかるのは、学生時代の友人と会社の同期の間にある共感や連帯感はまた異なるものがあり、何もかも手探りの時期を一緒に過ごすことができた仲間がいることがどれだけありがたいことだったのか、ということだ。ドライブのシーンは、なにか大きな事件が起きるわけでもないのだけれど、「同期と大事な時間」としてこのドライブが日羽たちの心のなかに残っていくのだ、ということがじんわりと伝わってきた。
そんな5人の同期の中にあって、日羽は、いちばん普通な子として描かれている。主人公としてみんなを牽引するようなヒーロー性もなく、強い葛藤に苛まれながら行動する劇的なタイプでもない。日羽は、誰にでもある悩みや戸惑いを素直に体現するとてもシンプルなキャラクターなのだ。
日羽がそういう地味な主人公であることで、作品の重心がぐっと下がって、地に足がついた作品になっているところが本作の重要な部分だ。
本作にはもちろん、アニメ的な誇張や華で見せる部分もある。でもそこは作品にとっては枝葉の部分。本作の根幹にあるのは、“タマゴの殻”がまだひっついたままの若者が、仕事を通じて社会人になっていくその自然な変化を描くことだ。いくつもの壁にぶつかる新人たちの様子を、アニメ的な誇張の中で劇的に描き過ぎてしまうと、スパリゾートハワイアンズという実在の場所から物語が浮かび上がってしまう。日羽を「誰もが共感できる失敗や悩みにぶつかる」という、地に足がついたキャラクターとして描くことで、現実に立脚しているからこその普遍性が生まれてくるのである。
この世界は働く人たちで回っている。作中ではスパリゾートハワイアンズで働くのがフラガールたちだけではない、ということを見せるシーンも出てくる。さらには日羽の両親についても、小さな美容室で日々働いている様子が点景として描かれる。それは平凡で当たり前の風景だけれど、忘れてはいけないとても大事な風景である。
日羽はフラガールとして頑張ることで、そうした働く人たちの平凡な世界の一部になっていくのである。その普遍的な主題を浮かび上がらせるためには、日羽は「地味な主人公」である必要があったのだ。
藤津亮太の「新・主人公の条件」
[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ) 1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。
作品情報
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福島県いわき市に暮らす高校生・夏凪日羽(なつなぎひわ)。卒業後の進路に悩む日羽は、かつて姉・真理(まり)が勤めていた「東北のハワイ」こと「スパリゾートハワイアンズ」のポスターを見て衝動的に、新人...
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