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特集・コラム 2022年3月12日(土)19:00

【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第28回 「時光代理人-LINK CLICK-」トキ(程小時)、ヒカル(陸光)

(C) bilibili/BeDream

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時光写真館を経営する2人の青年トキ(程小時)とヒカル(陸光)。実はこの2人は写真を介して過去の出来事を把握・干渉する能力を持っていた。トキが持っているのは「写真の撮影者の意識にリンクし、写真の世界に入りその中で行動することができる能力」、ヒカルは「その写真の撮影後12時間内の出来事を把握できる能力」。トキが撮影者の意識にリンクし、ヒカルがその行動をアシストする。こうして彼らは、持ち込まれた様々な依頼を解決していく。
 この物語の構造からもわかる通り、本作はいわゆる“探偵もの”のバリエーションだ。探偵という主人公のよいところは、「調査」という名目があるから、どんなところに顔を突っ込んでも不自然でないところ。観客は、探偵を自らの“目”の代わりとして、ゲストキャラクターたちのドラマを目撃することができる。観察者としての主人公こそがトキとヒカルの立ち位置なのだ。
 本作の場合、トキが写真の撮影者にリンクするので、観客はもっと直接的にドラマの中に入り込むことになる。その一方で、ヒカルの存在は、トキ自身が撮影者のドラマに入り込みすぎないようにブレーキとなる役回り。なぜなら、過去を変えたら現在が変わってしまう。トキに許されたのは、あくまで依頼をクリアすることだけ。それ以外の過去を改変するような出来事はご法度だ。
 過去を変えてはいけない、という縛りが印象的なのは第3話から第5話にかけて語られるエピソードだ。依頼主はチェン・シャオという中年の男性。彼が撮影したバスケ部の集合写真を使って当時に戻り、彼が当時伝えられなかった言葉をみんなに伝えてほしいというのが、チェンの依頼だ。彼によるとその日は、バスケの試合に負け、好きだった女の子にフラれ、母親と大喧嘩をした、忘れることのできない日だという。
 言葉を伝えることで過去は変わったりしないのか、と問うトキに、ヒカルは「大丈夫だ」とだけ答え、トキを送り出す。トキは過去のチェンの意識にリンクし、依頼をこなしていく。しかし、やがてトキは理解する。“その日”は、その地域で大地震が発生した日だった。言葉を伝えても現在に影響しないのは、皆その震災で死んでしまうからだ。ルールを破って、なんとか皆を救えないかと考えるトキ。だが非情にも大地震発生の午後8時半は近づいてくる……。
 過去は変えられないというヒカルに、トキはいう。彼らを救えないのなら、伝えた言葉になんの意味があったんだ。観察者という主人公だからこその葛藤。観察者という枠を飛び出しがちがトキと、その枠を守ろうとするヒカルという2人の存在の間に葛藤が生まれ、依頼主のドラマのうえに重ねて描かれるのが本作のポイントだ。この葛藤があるからこそ、観察者である2人が単なる狂言回しではなく、本作の主人公たり得ているのである。
 果たしてトキが言葉を伝えた意味はあったのか。それは第5話のラストを見て確認してほしい。

藤津 亮太

藤津亮太の「新・主人公の条件」

[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ)
1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

作品情報

時光代理人 -LINK CLICK-

時光代理人 -LINK CLICK- 15

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