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特集・コラム 2025年12月25日(木)19:00

【神風動画20周年コラム―肺魚―】#05 自分たちの好きを示すこと、そして好きを仕事で表現すること

創立20周年をむかえた神風動画の代表・水﨑淳平氏が私小説風に同社の歴史をつづるコラム第5回。2025年現在、20年前の2005年を同時に振り返りながら、神風動画が設立当時から海外を意識した発信をしてきた理由、自分たちの“好き”を提示した仕事を積み重ねてきたことが綴られています。神風動画が長く手がけてきている「ドラゴンクエスト」シリーズのムービー制作についての記述もあります。今回も豪華描きおろしの漫画が3本ありますので、お見逃しなく。
 なお、コラム中でも触れられている「スター・ウォーズ:ビジョンズ Volume3」の「The Duel:Payback」(制作:神風動画+ANIMA/監督:水野貴信)はディズニープラスで独占配信中です。(アニメハック編集部)


2025年だけで3回、フランスのパリへ渡った。アニメーションや漫画コンテンツを配給する外資系に勤めるプロデューサーY氏からのお誘いで、フランスのアニメスタジオとの合作・協業プロジェクトに参加し、作業打ち合わせやフランスで開催されているJAPAN EXPOでの登壇などのためだった。
 個人的にはとにかく感覚的に馴染む国だという感想で、芸術が街並みと生活に溶け込んだ中で生まれ育ったフランス国民の感覚、感性の高さは、日本でクリエイティブに身を置く自分の立場から見るととても魅力的なものだった。著名な美術館は観光客だけでなくフランスの地元民でもあふれ、聞くところによれば自国の子ども達は入場が無償だとか。いろんな場所でミロのビーナスやサモトラケのニケなどの有名な石膏像をデッサンしている学生がいたり、宗教画の前で並んで座る子供達に先生が何かしらの解説をしていたりする。 芸術の解説なのか歴史の解説なのかはわからないが、これが普通に学校行事として気軽に組まれているのだから、フランスの子ども達の置かれた環境は素晴らしいどころの話ではない。

また、現地クライアントによる万全なアテンドのおかげもあるが、三度のパリ滞在中は大きく困ったことも起こらなかったし差別的な扱いも感じたことも今のところはない。渡仏の際に助言を受けたのは、こちらからしっかり挨拶をしていくこと。とにかくコミュニケーションの密度を日本にいる時よりも上げていくことを意識するようにとのことだった。お店などでは日本では“お客様は神様”だが他国は基本的にはそうではなく、入店した店舗などでは働いている方にも敬意を持って「こんにちは/こんばんは」を、これから店の中を見させてもらいますねという心で伝えれば、お店の方も人種を問わずにこやかに迎えてくれる。もちろん何も買い物をしなかったとしても「どうもありがとう」を伝えてお店を去る。
 これを書いている時点ではなかなかの円安ユーロ高で、パリで日本人を見かけることも少なく、それゆえに自ら日本人としてマナーの良い過ごし方を残していくことも自分なりの“クールジャパン”活動だろう、と現地で失礼のない滞在を心掛けるようにした。

“クールジャパン”。この言葉が言われ始める前の話だが、日本のアニメーションを世界に届けていくことで、日本を好きになってもらえるのではないかと、水﨑がこの業界に来る前から自身の脳裏にはあった。よく取り上げさせていただいている「AKIRA」や「EXTRA:MV」は水﨑にそう思わせる大きなきっかけであり、また同じ時期に映画館で観た「攻殻機動隊」もそうだ。
 少し話が逸れるが京都の芸大生時代、友人から誘われて「攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊)」を観るまでは(大変失礼なのだが)士郎正宗先生や押井監督のお名前すら知らなかった。基本的にアニメーションの世界のことを全然知らなかった。京都弁で興奮気味で捲し立てる友人からかろうじて聞き取ったオーイシ監督? オスイー監督? の映画が新京極で一回だけ観れるから行こうということで、内容すら全く理解していないまま劇場に足を運んだ。当時の自分は髪の毛を金髪にしていたのだが、映画の直前にも自身でブリーチをしてしまったために上映中は自分の席の周囲はとても薬品臭かったのではないかと思う。
 そんな何となくで足を運んだ空気は作品が始まるとともに一気に吹き飛んだ。衝撃的な描写と演出、無言の時間と弾丸のように話し出す脚本のメリハリの強さなどが、脱色した自分の頭髪の匂いと共にセットで記憶されている。当然ながら“押井守監督”の名前はペット犬のガブリエルの風貌と共に間違いなく心に刻まれた。
 すでにもう30年以上前の話だが、当時の新京極の劇場で「攻殻機動隊」を観た時に何か薬品臭かったなと記憶している方がいたらそれは自分の頭のせいです。あの時は本当にごめんなさい。

話を戻すと、今でも名作として挙げられるこれらの国際的にも通用するようなフィルムを自分でも生み出し、海外を意識した発信をしたいと考えるようになったのがこの1990年代ごろ。なぜ海外にこだわるのかは以前に書いたかもしれないし書いていないかもしれないが理由は2つ。日本のエンターテインメントは主要な輸出産業のひとつになり得るからというものと、もうひとつはアニメ業界の労働環境を改革するのは海外予算の取り込みだという考えからである。
 京都で3人で始めた“アニメ制作っぽい活動”は当時はまだまだ世界マーケットに繋がるとは思えないものだったが、その目標への気持ちが途切れなかったのは本当に恐れ知らずの若さと熱意だったと今でも思う。

1999年の立ち上げから6年が経過した2005年、神風動画は武蔵境に移転。 前述の通り、立ち上げメンバーの森田くん桟敷くんは“YAMATO WORKS”としてオリジナルに取り掛かり、阿佐ヶ谷で作品の佳境に入っていた。
 この頃の神風動画の人数は両手で数えるくらいになっていた。一気に規模が大きくならないよう、スタッフ間の相互理解と結束を最重視してコミュニケーションを図り、各自の目標や悩みなどを共有し向き合う時間をとても多く取るようにし、その風通しの良い空気作りは今でも継続している。

横嶋俊久氏が担当した「白猫プロジェクト」PV

横嶋俊久氏が担当した「白猫プロジェクト」PV

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水野貴信氏が担当した「WAMONO」HIFANA MV。画面比率4:3…!

水野貴信氏が担当した「WAMONO」HIFANA MV。画面比率4:3…!

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水﨑淳平氏が担当した「甲虫王者ムシキング スーパーバトルムービー ~闇の改造甲虫~」

水﨑淳平氏が担当した「甲虫王者ムシキング スーパーバトルムービー ~闇の改造甲虫~」

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監督も複数立てられるようになり、横嶋監督は演出が重視されるゲームOPやカットシーン映像などの商業案件、水野監督はCMやMVなどのキャラクターアニメーション要素の強い癖つよ案件、水﨑はそれらのフォーマットに該当しない、会社として未知のものに取り組む開拓案件を担当する傾向にあった。これらは明確に分けてはおらずそれぞれの興味が高いものに取り組むという柔軟性も併せて持つようにしていた。

作:横嶋俊久

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この頃の3DCGと2Dのハイブリッドで表現してきた神風動画の絵作りは当時はまだまだ珍しく、幸いなことにゲーム会社からのオープニング映像制作などは継続されていたが、地道な時間の中で水﨑としてはひとつの転機がやってくる。
 神風動画として初めての「ドラゴンクエスト」シリーズのムービー制作の話だった。以降、「ドラゴンクエスト」と名のつく映像は十数本関わっていくことになる。

そこから20年が経過した2025年11月、このコラムの執筆時点で水﨑は「HD-2D ドラゴンクエスト I&II」に夢中になっていた。時代は変化し、“動画配信でのネタバレ解禁”という期間が設けられるなどで、この「I&II」のネタバレ解禁までにエンディングを見なければと必死であり、このコラムの遅れの原因でもある。ちなみにクリア済み。
 ここまでの経験上、ゲームやアニメなど仕事として関わった作品はその後は仕事目線でしか見られないようになってしまい、たとえ大好きだったものであっても自分の趣味からは除外されてしまう傾向にあった。しかし「ドラゴンクエスト」に関しては今となっても自分をワクワクさせてくれる趣味でもあり、仕事目線は少しあるがそれを超える楽しみとして保たれている。2025年も「ドラゴンクエスト」には関わらせていただいたがそれでもファンとして距離を置いてゲームを楽しめたのは、きっと堀井先生のコンテンツのブラッシュアップのバランスが絶妙で、シリーズの魂は引き継ぎつつ過去のものとは別の発見と感動が得られるからだろうと「I&II」を遊び終えて思う。スティーブン・スピルバーグ監督と堀井先生は、本当にいつまでもこの世代を大人から子どもに戻してしまうとんでもない人たちです。
 そしてはじめて「ドラゴンクエスト」の仕事に触れた2005年あたりから、自分の“好き”が寄ってくるようになった。自分たちの好きを示すこと、そして好きを仕事で表現することが依頼のちょっとした機会になったのかもしれない。

「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」

「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」

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横嶋監督は「ドラマを描きたい」という傾向が強く、その辺りが最初に発揮されたのが「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」だったと思う。原作となるPS版ではドット絵だったシナリオをアニメーションムービーとして再構成したリメイク作品だったが、ボイス収録はなしでサイレントムービーのような字幕のみで演出することになった。それゆえにレイアウトや芝居で心情を伝えることとなったが見事にやり遂げていた。イベントシーンの中の重要なセリフだけは黒一色の中にフォントで表示し、それも各ストーリーの特徴を示すものになっていた。
 このタイトルは20年の時間を経て「ファイナルファンタジータクティクス イヴァリースクロニクルズ」としてイベントムービーも再録されているので是非観ていただきたい。このリメイクではボイスも収録されていて、自分も新鮮な目で楽しめた。また、この再リメイクでは20年前にユーザとしてプレイしていた世代が神風動画に入社し監督となり、オープニングを新規でつくらせていただいているのでそちらも楽しんでいただけたらと。

「The Duel:Payback」

「The Duel:Payback」

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そして水野監督は「怖いもの好き」で、隙さえあればホラー展開が入ってくるのが面白かった。やや表現が残酷だったり、ユニークな絵作りにも関わらず少しゾッとする演出が彼のスパイスだと思っている。
 伝説のアニメーター、故・金田伊功さんの影響を幼少期から受けた水野監督のキャラクター演出は今でも社内のアニメーターから支持され、現場スタッフの目標となっているのが心強い。しかし往々にして「怖いもの好き」な人は異様なほど怖がりで、スタジオで起こった変な体験などをするとリアクションが大きめになるのが同世代ながらもカワイイなと思ってしまう。
 本人からの伝聞なので正確ではないかもしれないが、水野監督が子どもの頃、「スター・ウォーズ」が上映された際、お父さんとお兄さんだけで映画館に行ってしまい置いていかれ、泣いたという話が本当に熱い。 今こうやってその「スター・ウォーズ」に関わることになっているのは、ここに辿り着くために必要な涙だったのではないかとも思う。

作:佐藤未夢

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2025年、幸いにもここ数年は海外からのアポイントが非常に増えた。“好き”を提示するところから、元々の狙いだった海外予算の取り込みに繋がってきている。
 そのための “声をかけやすい日本のアニメ会社”というブランディングはだんだんと浸透し、海外からの相談がくるようになってきたのだった。
 思うに、世界は“日本のアニメ会社”と接触したがっており、ただ言語や文化、気難しそうなどの印象などもあって近寄りがたいものになっているのではないだろうかと予測していた。そしてそれは正解だった。知名度、作画の力、歴史などで並べると神風動画はまだまだ若輩者である。ただどこよりも声をかけやすい空気をブランディングしてきた。
 アートスクールからの見学を受け入れてのメイキングセミナーの実施も恒例になり、「スター・ウォーズ」や「バットマン」などの海外納品作品やそれにまつわるイベント参加などで積極的に海外のクリエイティブに関わる人達と距離を縮めるという動きもできている。それらは主に神風動画のブランディングチームがしっかりと実行してくれている。
 また、簡単な挨拶でも「Hello」や「Bonjour」だけでなく、その先を踏み込んでいくと急に距離は縮まり、来訪者の記憶には強く残るようだった。あとはやりすぎなコスプレなども好まれる傾向にある。

岡崎能士さんと撮ったAT-AT(中に入っているのは水﨑淳平氏)の写真

岡崎能士さんと撮ったAT-AT(中に入っているのは水﨑淳平氏)の写真

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水﨑の海外コミュニケーションもまだまだ基本的な挨拶程度だが、昔から憑依と再現は得意で、どんなスポーツでも「フォームだけはいいね」と言われてきたタイプなので、海外のイベントステージでもセリフと発音は丸暗記してそれらしくこなすことは得意のようだった。
 ただ教えられた通りにそれらしくスピーチはするが、自分が何を話しているのかは本当のところあまり理解していない。

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スピーチに関わらず現地での挨拶も自分流の“クールジャパン”の一環だと思って実践してきたが、この積極的に挨拶をしていく文化はやってみるととても清々しく、渡航先だからということに限定せず、帰国後の日本でも心掛けるようになった。水﨑は元々はコミュニケーション下手で愛想も良くないので、比較すれば多くの人は当然実施していることなのかもしれないが。

ちなみにフランスでステージ参加したJAPAN EXPOは驚くくらい規模が大きく、そこで感じられたのは全てが“日本”文化への愛だった。こんなに日本が愛され、日本のコンテンツで育ったと感謝を述べてくる人たちに出会い、これがあまり国内で報道されない理由は何なのだろうと謎が浮かぶまであった。
 今これを書いている2025年は日本の人気漫画の劇場版作品が海外で大きな成績を上げた年なのですでに強い輸出産業になっているが、遡れば日本のアニメーションは知らぬうちに海外の子供達の生活に溶け込んでおり、金額だけでなく日本のいい印象や文化の輸出でもあると思っている。
 ただ、契約や価値観、ビジネスに対してのドライさなどの空気の違いもあり、規模が大きなぶん何か起こった時の揺れ幅も大きく、リスクの大きさももちろんあるのが怖いところ。

アメリカでのコミコンと「スター・ウォーズ:ビジョンズ」でのアメリカでの作業、そしてフランスのJAPAN EXPOとアニメスタジオ訪問での発見などで多くの気づきのあった1年だったが、それについてはまだまだ書きたいことが多くある。本コラムに関しては遅筆すぎて次の機会もあるかどうか怪しいところだが、アメリカ、フランスのアニメ事情などまた書いていいのであれば触れたいと思う。

水﨑 淳平

神風動画20周年コラム―肺魚―

[筆者紹介]
水﨑 淳平(ミズサキ ジュンペイ)
クリエイティブプロデューサー。グラフィックデザイン・ゲーム・アニメーションなど多岐に渡る業界経験を元に、2003年有限会社神風動画を設立。スタイリッシュな映像センスと遊び心に溢れた作家性を武器に革新的な映像を生み出している。「ドラゴンクエスト IX 星空の守り人」やテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」OP、安室奈美恵やEXILEのMVなどの短編作品を経て、長編作品「ニンジャバットマン」が世界的に話題となる。

作品情報

AKIRA

AKIRA 3

1988年7月、第三次世界大戦勃発。そして、2019年、メガロポリス東京・・・健康優良不良少年グループのリーダー・金田は、荒廃したこの都市でバイクを駆り、暴走と抗争を繰り返していた。ある夜、仲間...

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