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特集・コラム 2019年8月17日(土)19:00

【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第20回 「天気の子」の〈若者〉と〈中年男性〉

(C)2019「天気の子」製作委員会

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お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。若干今更ムードですけれども「天気の子」についてちょっと書きましょう。

新海誠監督の前作「君の名は。」には、公開時に今ひとつノレなかったワタクシですが、こちらは楽しめました。いい作品です。あらゆる意味において、2019年を生きる若者の「今」を切り取ろうとしている。精緻に描き込まれた背景美術しかり、貧しさへの向き合い方しかり。特に後者に関しては、功成り名を遂げた作家があそこまで若者の貧しさ――しかも、彼らにとってはそれが普通の日常であり、「貧しさ」だとは感じていない――の感覚を掬(すく)い上げていることには、感じ入るものがありました。若い作家であれば皮膚感覚で表現できるものでしょうが、もはや新海監督はそうした立場にはない。おそらくは入念なリサーチから来ているものではないでしょうか。

涙腺をグッと刺激されたのが、ラブホテルでの一幕です。最悪の状況に追い込まれている主人公のモノローグ。「幸せになりたい」ではなく、今の状況から足しも引きもしないでほしいという願い。「言の葉の庭」でも終盤、ユキノの部屋で近いシチュエーションがありますが、こちらにはより切実な心情が乗っているように感じました。外部の視点、とりわけ年長者から見ればけして幸せには思えない状況であっても、変わってほしくないというのが、今を生きる多くの人の、素直な感覚なのか……と。

そこのシーンもですが、リアルタイムでその足跡を追い続けてきた観客としては、監督自身のフィルモグラフィーを振り返ったうえで、作品に頻出するモチーフの扱いをアップデートしている形跡がある点が、好ましく思えもしました。その意味でもっとも印象に残ったのは、とりわけ中年男性の扱いです。

新海作品ではたびたび、女性に対する後悔を抱えた中年男性が印象的に描かれてきました。「秒速5センチメートル」はいわずもがなですが、印象的に思い出されるのは「星を追う子ども」の森崎竜司でしょうか。物語上では「天空の城ラピュタ」でいうところのムスカ大佐のような立ち位置を背負わされていたはずなのに、すっかり後半は、もうひとりの主役のようになってしまう。「君の名は。」ではメジャーな大作路線を手がけるにあたってその要素がオミットされるかと思いきや、宮水俊樹(三葉の父)にほんのりと残されていました。竜司の描き方は過剰であり、俊樹は薄い……その点、「天気の子」の須賀圭介の扱いは、物語上で果たす役割も重過ぎず、軽過ぎず、彼自身の物語の描かれ方もほどよく、全体的なバランスがよかった。

あとは……これはもう、私の妄想みたいな余談ですが、最後のあれは「オリンピックが終わったあと、東京は悲惨なことになるだろうけど、それでも人はたくましく生きられるよ。大丈夫だよ」ということなのではないでしょうかね。

……サラッと書くつもりが、思ったより長くなってしまった。「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の話もしようと思ってたんだけどなぁ。ま、短めに書くと、こちらもおもしろかったですよ。革命的な大傑作だとはいいませんし、原案にあたる「ドラゴンクエストV」をプレイしたことのない人が見て楽しめる映画かというとやや疑問ですが、白組の美麗な3DCGで「ドラクエV」の内容(と、それをプレイしていたときの自分)をざっくりと追体験できる感じがいいです。リメイクされるたびに「ドラクエV」をプレイし直していて、今でも現役バリバリのゲーマーだったりするような人だと違和感があるのかもしれませんが、僕は単にSFC版の発売直後に夢中でプレイした遠い記憶があるばかりの人。ゲーマーとしても半引退状態だということもあってか、ふんわりと「あ~、懐かしいなあ」みたいなノリで楽しめました。

別に無理に「見ろ!」とは言わないですけど、ネットの「某マンガの実写化作品みたいな歴史的駄作」みたいな評価だとか、なんやかやで作られた「空気」に飲まれて、興味があるのに見ていない人がいたら、それはちょっともったいないんじゃないでしょうか。

ではそんなとこで、また次回!

前田 久

前Qの「いいアニメを見に行こう」

[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ)
1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。

作品情報

天気の子

天気の子 13

「あの光の中に、行ってみたかった」。高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。彼...

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