2024年5月24日(金)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第54回 「ガールズバンドクライ」は君に語りかける 3DCGの行方を
(C)東映アニメーション
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今期のテレビアニメでは「ガールズバンドクライ」が最高だ。ここまでアニメで熱くなったのは数年ぶり。寝ても覚めても「ガルクラ」のことを考える勢いでどハマリ中です。余裕があったら作品の聖地・川崎に毎日通いたいくらい。さすがにそれは無理なので、しばしば吉野家で牛丼を食べております。ぎゅう。
シリーズディレクター(事実上の監督)は酒井和男さん、シリーズ構成は花田十輝さん。「ラブライブ!サンシャイン!!」の監督・シリーズ構成コンビによる東映アニメーション発のバンドものオリジナルアニメ。語りたいポイントは山程ある。キャラがいい。ストーリーがいい。主題歌と劇中歌がいい。劇伴もいい。キャストもいい。思春期の激情と反骨精神、喜びと哀しみが詰まってる。たまらない。ロックだ。でも、今日語りたいのはそこじゃない。映像の魅力なのだ。
今作はいわゆるフル3DCG作品。メインのキャラクターは基本3DCGで描かれ、部分的に手描き作画が使用されている。このCGがたまらなくいい。アニメーション表現として実に豊かだ。
2010年代にサンジゲンの「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」、東映アニメーション(実制作はグラフィニカ)の「楽園追放 -Expelled from Paradise-」、ポリゴン・ピクチュアズの「シドニアの騎士」の3本のタイトルが立て続けに登場したことで、日本のフル3DCG作品を取り巻く状況は大きく変わった。美少女や美少年のキャラクターを作品に求める、いわゆる「深夜アニメ」を愛好するようなアニメファンに訴求するようになったのだ。
その後、この3作によって周知された方向性を洗練、進化させるような形で、日本の3DCGアニメ作品は進歩を遂げてきたように見える。3DCGであることの利点を活かしながら、手描きのハイクオリティな作画アニメにより近い表現をいかにして獲得するか。
一度モデルを組めば、どんな角度からも正確な形を描き出せるのが利点である3DCGをカット単位で変形させ、ときには手描きで修正を加えながら、カッコよく、かわいく、アニメファンにとって自然に見えるように調整する。秒間24コマのすべての絵が動く、いわゆるフルアニメーションとして描画されてきたモーションを、和製リミテッドアニメに近い感触にするためにコマを落とす。そうした工夫で素晴らしい作品がいくつも生まれてきた。だが、こうした進化の方向性とは違う道筋もありえるはずだ。この10年近く、しばしばそんな話を、現場に近い人たちから聞いてきた。
「ガールズバンドクライ」はCGモデルのルックに「イラストルック」というスタイルを採用している。手描きのアニメに近づける「セルルック」ではなく、実写に近づける「フォトリアル」でもない。ディズニーやピクサーの3DCG作品のような、世界的にスタンダードとされるものともまた違う。そもそもモデルの出来がすばらしい。アップでもロングショットでもキャラクターとしての鑑賞に耐え得る。いささか古い表現をあえて使えば、「萌える」のだ。そして動きはフルアニメーション。「その手があったか」である。
先行するアニメーション作品では「RWBY」が方向性としては近いだろうか。フルアニメーションなのだが、表情や手足の芝居、ポージングはあくまで、いわゆる日本の「深夜アニメ」スタイルで描かれている。感情表現が実に豊かだが、海外のアニメーションに感じるような、いわゆるバタ臭さがしないのだ。3DCGで見慣れたものとも、手描きのアニメとも似て非なる、不思議ではあるが、でも、大きな違和感のない映像。
この違和感のなさには、観る方の感覚の変化も関わっているだろう。ゲームのキャラクターやVTuberなどで、3DCGによって描かれた動くキャラクターの映像に日常的に接する機会が飛躍的に増えている。2010年代とは前提条件が違うのだ。
こうしたスタイルをとったことで、副次的な効果も生まれたようだ。今作の物語の中心となるバンド「トゲナシトゲアリ」(井芹仁菜、河原木桃香、安和すばる、海老塚智、ルパ)のメンバーを演じるキャストは、作品の展開と合わせて現実でもバンド活動を行うため、オーディションを通じて楽器演奏のスキルを重視して集められた。つまり声優としてはもともと素人同然のメンバーである。一聴してわかるが、その芝居はいわゆるアニメ的なものではない。しかし、これはいわゆる「棒読み」ではない。現場でしっかりとした指導体制が敷かれているようで、セリフでどのような感情を伝えたいのか、台本の読み解きやニュアンスの調整には問題がないとわかるからだ。もちろん、キャリアの長い、芝居経験の豊富な役者と比べてつたない部分がゼロとは言わない。ゲスト声優で登場した平田広明さんや沢城みゆきさんの芝居を耳にすると、そのさりげない巧さに痺れてしまうのも事実。だが、いわゆるアニメで通常用いられるような、やや記号的に感情の輪郭を立てたものではない声の芝居を、単純に「下手」「棒読み」で切り捨てられてしまうと、アニメの世界から大事なものが失われてしまう。それは悲しい。繊細な判定基準を持っていただきたいと一介のアニメファン、声オタとして切に願う。……と、予防線のような前置きが長くなってしまったが、こうした批判は実のところそこまで大きくないように感じている。それは声の芝居が、今作の滑らかな動きとは合っているからだろう。
滑らかな動きの3DCGは情報量が多い(とりわけ、今作の表情芝居は神がかっている)。その分、声の芝居の情報量や記号性はやや抑えたくらいの、ナチュラルなテイストの方がいいのではないか? これは仮説に過ぎないが、芝居や音響のプロにそのうち見解を尋ねてみたいと考えている。
あらためて繰り返すが、この作品はまず、何よりも抜群におもしろいアニメだ。「3DCGにしては」とか、そんなエクスキューズが必要ない。次の話数がオンエアされるまでの1週間、こんなにワクワクソワソワしたことは、ここしばらくはなかった。まるで中学生のような心境だ。だが、それはそれとして、かようにこの作品は、アニメについての思考を刺激してやまないものでもある。アニメとは何か、アニメのおもしろさとは何か、その表現の可能性とは……といったことを、思わず考えてしまったことのある人は、ぜひ触れてみてほしい。「一緒に、中指立ててくださ〜い!」
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
作品情報
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高校2年、学校を中退して単身東京で働きながら大学を目指すことになった主人公。仲間に裏切られてどうしていいか分からない少女。両親に捨てられて、大都会で一人バイトで食いつないでいる女の子。この世界は...
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