2024年4月9日(火)17:00
アニメ「リンカイ!」特集 キャストインタビュー第1回 伊東泉役・川村海乃、平塚ナナ役・葵あずさ
1964年に廃止されてから48年間の断絶期を経て、2012年に「ガールズケイリン」として復活した女子競輪。「リンカイ!」は、そんな女子競輪に情熱を燃やす少女たちの奮闘を描くメディアミックスプロジェクトで、23年春に始動して以来、ライブ番組の配信や各地で開催される競輪レースとのコラボレーション、ブース出展など、さまざまな形で展開してきた。
そして、満を持して4月9日からテレビアニメの放送がTOKYO MX、BSフジでスタートする。今回は、伊東泉(静岡・伊東温泉けいりんがホームバンク)役の川村海乃と平塚ナナ(神奈川・平塚競輪がホームバンク)役の葵あずさに収録の舞台裏を聞いた。
――まずは、ご自身が演じる役についてご紹介いただけますでしょうか。
葵:平塚ナナさんは、クールでスタイル抜群な競輪の天才選手。自転車競技と競輪の二刀流で、フランス人と日本人の両親を持つという、設定盛りだくさんの魅力的なキャラクターです。だからこそ、ちょっと近寄り難いと周りから思われてしまうことがあって、本人も口下手なので誤解を生んでしまったり、憧れの的になってしまうという。でも実は、根底にあるハートはピュアで情熱的。そのことが回を重ねるごとにどんどん、どんどんわかってきて、心の中で思っていることと、表に出る情報の少なさのギャップが魅力的になっていくキャラクターです。視聴者の皆さんも、どんどん平塚さんのことが好きになっていくんじゃないかなって思います。
川村:私が演じる伊東泉は、旅館の娘で、とても素直な女の子です。おもてなし精神があって周囲をよく見ているのですが、それがゆえに平塚さんの天然発言に翻弄されたりしてしまいます(笑)。ライバルとしてどんどんお互いの関係が深まっていくことを、素直に受けとれるところが魅力的な子だなと思います。
彼女は自分のことをすごく普通な子だと思っているのですが、生まれ育った静岡県伊東市が高低差の激しいところなので、その街でマウンテンバイクを漕いでいたという経験から競輪選手としての素質を秘めています。
――ご自身と役の間に、共通点や共感するところはありますか。
葵:結構多いです。属性盛りだくさんなので、ぜんぜん似ていないかなと思っていたのですが、アフレコを通して「わかるかも」と思うことがたくさんありました。特に似ているなと思うのが負けず嫌いなところ。勝利には執着しているのですが、誰かと比較してひがむようなネガティブなものではなくて、「一番がいいよね」という明るさで上を目指していく精神にとても共感しています。
彼女の気持ちに寄り添って「ここは勝ちたいよね。だったら決めてやろうよ!」みたいな感じで語り合うようにお芝居をしていたので、アフレコを通してどんどん似ているとしか思えなくなっていきました。
川村:優柔不断なところや石橋を叩いて渡る性格など、似ているところは多いと思います。ほかのキャストの方に言われて気づいたのですが、自分のことを普通だと思っているところも共通点ですね。周りのみなさんからすると、どうやらそうでもないらしいです(笑)。
演じていくなかで少しずつ自分と泉の境界線が溶け合ってくような感じで、もともと似たところのあるキャラクターが、より自分になっていくみたいな感覚がある子でした。「今、泉と私、どっちがしゃべってたんだろう?」という瞬間がたびたび訪れて、キャストの皆さんと雑談しているときに「今、すごく泉っぽかった」と言われたこともあります。
伊東泉役・川村海乃
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――お芝居に対して心がけたことはありますか。また、どのようなディレクションを受けましたか。
葵:平塚さんの気持ちを取りこぼしたくないという思いから、喜怒哀楽を表現しすぎてしまったことがあり、それについて指摘を受けました。クールだからこその難しさみたいなところを、石山タカ明監督や田中亮音響監督はじめスタッフのみなさんとすり合わせていった形です。
川村:私の場合は具体的なディレクションはあまりなく、等身大の私が演じる泉のまま全12話スッキリ演じさせてもらいました。第12話の収録が終わった後に、キャストのみんなに「泉はすごく変わったよね」って言ってもらって。まだ未来の目標さえわからない、迷っているただの女子高生から成長できたのかなって思います。
そんななかで、印象的だったディレクションは「もっと素直に悩んでいいよ」と言われたことです。私自身は泉よりも年上なので、いくらか本心を隠してしまうところがあったのですが、もっと悲しさやつらさを表に出してもいいと。その素直なところが愛される一因なんだと、泉から学ばせてもらいました。
葵:アフレコの休憩時間とか終了後には、いつもキャスト同士でおしゃべりするのですが、その時に川村さんがお芝居のことで葛藤していたんです。「どうしたらもっと泉らしくなるだろう」って。もう周りのキャストみんな、ニマニマしながら「安心して、どんなふうに演じても泉だよ」って。その悩んでいる姿が、めちゃくちゃ泉っぽかったんです(笑)。
川村:私は「リンカイ!」が初主演作で、これまでレギュラーでガッツリしゃべる経験もほとんどありませんでした。今の事務所に移籍してからも年が浅いので、私自身の葛藤と泉の葛藤がないままになっていたんです。お互いがお互いを参考にし合うように演じていたので、泉が成長したから私も成長しなきゃ、逆に私が慣れてきて、私にこれができたから泉にもきっとこれができる、みたいな不思議なメンタルになっていました。そのうえ音響監督の田中さんがキャストの試みを受け入れてから考えてくださって、怖がらずに今考えていることを全部出してみよう、という挑戦ができました。
――ご自身と競輪の、これまでの関わりについて教えていただけますでしょうか。
葵:父(多田司氏)が競輪選手だったので「競輪のおかげでこんなに大きくなりました」と言っても過言ではないです。お家に自転車やウェイトトレーニング用の機材がいっぱいあって、競輪が生活に密着していました。父の同僚も競輪選手なので、休日にバーベキューでもしようとなったら、集まるのは全員競輪選手とその家族なんです(笑)。だから私にとっての競輪は特別意識するようなものではなく、いつでもそばにあった当たり前の存在というのがしっくりきますね。
子どもの頃、父が使うトレーニング用の重しを私が持って遊んでいたら、それを落として足にケガをしたことがありました。それで病院に連れていかれたんですが、父がお医者さんに虐待を疑われてしまって。当時の父は、現在よりもコワモテで筋骨隆々だったので(苦笑)。
――今回、競輪を題材とした作品に出演するということは、お父さんにはお伝えしましたか。
葵:もちろんです! 役が決まったときはうれしくてうれしくて、泣きながら伝えたら父が「俺も泣いてしまいそうやわ……」って。我が父ながらかわいいなって思ってしまいました(笑)。生放送も毎回見てくれているそうです。
――川村さんは、これまでの人生で競輪に触れたことはありましたか。
川村:年末に大きいレースがテレビで放送されているのを流し見するぐらいで、縁遠い競技でした。泉役が決まって、そういえばあれは競輪だったな、みたいな。競輪を題材とした漫画も読んでいたことがあるんですが、その時もことさら競輪という競技は意識していませんでしたね。
あずちゃん(葵)とは逆に今までまったく関わりがなかったジャンルなので、改めて周囲を見渡してみると身近な競技であることに驚いています。自分が住んでいる近辺に競輪場があるなんて考えたこともなかったんです。
ところが、番組で車券を買わせていただいてからは、もう普通にハマってしまいました。今はもっと知りたいという思いが強くて、選手の人となりにも興味が出てきています。私にとっては新しいものだけど、すでになじんできましたね。
――競輪の魅力はどこにあると思いますか。
川村:第一印象は「風」でした。ブワーッと目まぐるしい速さで動いて、そして戻ってくるみたいな感じ。でも、バンクの中に立たせていただいて練習風景を見せてもらったら、印象が一変しました。スピード感が外から見ている時と全然違うんですよ。人が出している速度だということが信じられないくらい。「自転車を漕ぐ」というシンプルな競技でありながらも、人間の限界に挑む世界なんだということがわかり、ストイックに切磋琢磨し続ける選手の皆さんのプロフェッショナル精神へのリスペクトの気持ちがすごく高まりました。
平塚ナナ役・葵あずさ
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――収録現場で印象深かったできごとはありますか。
葵:私、アフレコが始まる前の沈黙が怖かったんですよ。ほかの皆さんとうまくしゃべれないなと思っていて。そういう自分が嫌だとか、もっと笑顔でいなきゃとか思っていたのですが、平塚さんを演じていくにつれて、無言でいる時間が心地よくなってきました。みんなに好意があるから、こうして自然体でいられるんだよって思えるようになったんです。
私自身の現場での立ち居振る舞いがどんどんキャラとリンクしてきて、回を重ねるごとに新しい自分に出会うことができ、自分が少しずつグラデーションみたいに変わっていくのに気づいて不思議な気持ちになりました。
川村:お話が進むごとに、各キャラクターがそれぞれ抱える問題に直面し、それを乗り越えていくことになるのですが、主人公の泉にも大きな苦しみがやってくるんです。それまで、ほかのキャストの方々の苦しみを見ながら漠然と「大変そうだな」とは思っていたのですが、いざ自分の番が来ると本当に苦しい。みんなこうして自分の内面と向き合いながらお芝居してきたんだと思うと、ほかのキャストへの尊敬の念が、否が応にも深まりました。「この現場のみんなが好きだ」という気持ちを改めて感じました。
――アニメの見どころや、注目してほしいポイントを教えてください。
葵:かわいらしい女の子たちが活躍して、競輪の魅力を広く伝えるのにとてもキャッチーな作品だと思います。一方で、みなさんが競輪に対してちょっと近寄りがたいと思ってしまうような、シビアなところもしっかり描いています。おしとやかな印象の子がレースに挑む時に、「もっともっと叫んで、キャラクターのイメージを超えてもいい」というディレクションがあったんです。私はテストでのお芝居も迫真だなと思っていたので、それを超える熱量を要求されたのは意外でした。そのくらい熱い作品になっています。
川村:そんなディレクションを聞いたのは私も初めてでした。競輪に対してキャスト、スタッフ一同、本当に真摯に向き合っていた現場で、誰ひとりとして「もっと知りたい」という姿勢を最後まで緩めなかったのがすごいなと思っています。イベント現場にガールズケイリンの現役選手の方が来てくれた時なども、すでに制作が進んでいるなかなのに、より作品の完成度を高める糧にしようとスタッフさんがいろんな質問をされていました。そういった情熱があったからこそ作品が普遍的な人間ドラマとして仕上がっていて、競輪に興味がない方にも「自分を自分の力で変えていく力」や「周りに変えてもらっている力」を味わっていただけると思います。
――最後に今後のアニメ「リンカイ!」に対する期待や意気込み、視聴者のみなさまへのメッセージをいただけますでしょうか。
葵:みなさんに応援していただき、第2期、第3期と続いて「私が生まれた時から『リンカイ!』あったよ」って言われるような作品になってほしいです。たくさんの個性的なキャラクターがいて、それぞれに物語があるので、さまざまな視点からキャラクターを掘り下げていけると思うんです。それぞれが主人公になれるポテンシャルを秘めているので、誰よりも私自身がみんなの物語をもっと見てみたいんです。その気持ちを、視聴者のみなさまと共有できたら最高ですね。目指せロングラン!
川村:アニメ「リンカイ!」、とても熱い作品になっています。競輪ファンもそうでない方も、めちゃくちゃ楽しんでいただける! 魅力あふれる作品ですので、ぜひぜひ見てください。メディアミックス作品として漫画展開なども発表されているので、アニメと合わせて楽しんでいただきたいです。
あずちゃんが言ったように、魅力的なバックボーンがあるのにスポットでしか登場しないキャラクターもたくさんいます。もっと彼女たちの話が知りたいし、まだまだルーキーである泉の今後の活躍も見てみたいので、私と泉が先輩風を吹かせられるくらい末永く続くプロジェクトへと、みなさんと一緒に育てられたらいいなと思っています。
アニメ「リンカイ!」インタビュー特集
[筆者紹介]
アニメハック編集部(アニメハックヘンシュウブ) 映画.comが運営する、アニメ総合情報サイト。
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