2024年6月22日(土)17:00
アニメ「リンカイ!」スタッフ座談会後編 誰もが敗者の痛みを味わう“破壊と再生の物語”を駆け抜けて……プロジェクト新展開の構想も!?
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最終回の放送を間近に控えたテレビアニメ「リンカイ!」は、競輪に情熱を燃やす少女たちが、人生をかけてひたむきにもがく姿を描く青春&お仕事アニメだ。放送は4月にスタート。第1~7話が、主人公・伊東泉らの下積み時代の奮闘を描く「養成所編」、第8~12話が競輪選手として一歩を踏み出した泉たちが新たな世界に挑む「プロ編」となった。
シリーズ構成を務める白根秀樹、企画・プロデュースを担当するMIXIの鵜飼恵輔、トムス・エンタテインメント制作本部・文芸部長の宮澤浩介の3人による座談会の後編となる今回は、ストーリー後半戦の「プロ編」を振り返り、テレビシリーズの総括や今後の「リンカイ!」プロジェクトの展望などを聞いた。
――4月に始まった「リンカイ!」の放送も、間もなくクライマックスを迎えます。座談会後編では、本作を総括するお話をうかがっていきます。まず、第8話からの「プロ編」で、特に印象的だったエピソードはありますか。
鵜飼:第8~10話の“お当番回”は「競輪でなければ描けないことをやってほしい」というオーダーをしていました。僕はアイドルも好きなので、弥彦の元アイドル設定を生かしたエピソードが見てみたいなと思っていたのですが、ド直球のものが仕上がったので、とてもうれしかったですね。アイドルの苦悩と競輪選手の生き様がリンクしたらおもしろいものができるのではないかと思っていましたが、想像以上でした。
白根:第8話はプロ編の入口として、まず弥彦に覚悟を決めてもらおうと思っていました。
過去の自分を越えたいのに、その過去のプライドが邪魔をする。一度輝きを知った人ならではの苦しみですね。
宮澤:私が印象的なのは那古屋紗智が活躍する第9話です。すでに制作がかなり進行していているなか、鵜飼さんから「方向性を見直しませんか」とリテイクがあったのを覚えています(苦笑)。担当した脚本家の佐多さんの頑張りにより、決定稿まで持って行くことが出来ました。
白根:話のテーマそのものは変わっていないのですが、見せ方や切り口は大きく変えましたね。那古屋家といえばやはり根本はビジネスだろうと。
鵜飼:当初は「那古屋といえば」のアニメ的な“家訓”を全面に押し出した構成だったのですが、前後の第8話、第10話が真面目なお話で、それを持ち出せる空気ではなくなっていたので、そこは変えましょうと。その代わりに“事業計画”が出てきたことには驚きました。僕のなかではスマッシュヒットだったので、きっと同じように会社で働く視聴者の皆様の心にも刺さるエピソードだと思います。
宮澤:急に事業計画というパワーワードがでてきたので、現場は騒然としていました。パワーポイントによる資料なども作らなければならなかったですし(苦笑)。制作の坂井くんや文芸の堀くんが頑張ってくれました。
鵜飼:私は普段、事業計画を書く側なので、那古屋くらい堂々と開き直ることができたら清々しいだろうなと憧れます(笑)
白根:彼女自身はあの家で育っているので大真面目なんです。結果的におもしろいキャラクターになってくれました。
宮澤:各“お当番回”は、担当した脚本家それぞれの個性もにじみ出ていると思います。高松絹早の回は谷畑ユキさんの情念がこもっていましたね。
白根:構成上の骨組みがまとまりすぎている気がしたので、彼女の得意な「土臭さ」や「ドロドロ感」、それこそ情念を乗せてほしくてお願いしました。観音寺のキャラ性や祖父の存在などにそれがよく出ていると思います。谷畑さん自身の出身が四国なので、地元の情景をたくさん入れ込んでくれたのもよかったですね。
鵜飼:お当番回では、競輪として描くべきことを表現したうえで、第1~2話あたりで各キャラクターが語っていた、競輪選手を目指す動機がしっかり昇華されています。第8~10話を見てからあらためて第1~2話を見返していただくと、また違った見え方がするのではないかと思います。
――テレビシリーズ全体を振り返って、個人的にお気に入りのキャラクターはいますか。
白根:メインキャラはみんなかわいい存在なので誰かひとりというのはないですが……あえて挙げるなら、春日壺之助。コメディもできるし深いことも言える、作劇上便利な男です(笑)。後楽そのとは別の意味で使いやすい。
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鵜飼:僕は向日町京子ですね。久留米、立川を超える国内最強ということで、競輪を一身に背負う存在ですから。本作における競輪を象徴する存在として、第1話での彼女の登場シーンは、我々から視聴者のみなさまへの「この作品はこういう物語です」という所信表明のようなものだと思っています。誰彼構わず力を貸すのではなく、覚悟があるのなら手助けする、というスタンスもすごく好きですね。あとは、持たざるものとしての松山の生き様はカッコよくて憧れます。
宮澤:「リンカイ!」という作品が、いわゆる一般的な青春スポーツものというジャンルから一線を画しているところが、熊本愛の離脱にまつわる所だと思うので、彼女のひたむきさと挫折のドラマにはグッとくるものがありました。「リンカイ!」は、持たざる人たちが、持っている人たちに挑戦していく物語でもあります。バンクを去っていく選手たちも、それぞれに背負ったものがあり、存在感としては伊東や平塚たちに負けていないと思うんです。
鵜飼:スポーツのおもしろさのひとつに、勝者と敗者がクッキリ分かれることがあると思います。敗れ、失うことにもドラマがある。
白根:残酷ですよね。でもそこには救いもある。だって、一度負けても次のレースがあるんですから。もし競輪から離れるにしても、そこで人生が終わるわけではなくて、新しい生き方が始まっていく。いわば“破壊と再生”の物語なんだと思います。
鵜飼:場合によっては競輪自体が、他のスポーツで挫折を経験した人にとっての、新たな人との出会いやチャンスの場であったりする。そういった意味で、セカンドチャンスを肯定しやすい題材なのかなと思っています。常に勝てる人なんていませんから、伊東たちが目指す存在である久留米にせよ立川にせよ、何度となく敗者の苦しみを味わっているというのは、いい世界観ですね。
宮澤:確かに常に勝てることはありませんが、競輪は馬の能力やモーターの性能が大きく影響する競馬や競艇とは違い、ダイレクトに選手の力が結果につながりやすい競技という印象があります。
白根:だからこそ、体調やメンタルが重要になってきますよね。強い選手はそういうところでブレが少ない。あっても大きなレースにはちゃんと合わせてくる。
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鵜飼:そんななかにあって、2022年に平塚競輪場で開催された「ALL GIRL'S 10th Anniversary」の決勝はすごかったです。児玉碧衣選手と佐藤水菜選手が同着……! まるで漫画のような展開に仰天しました。ちょうど「リンカイ!」の脚本作業が動き出したときだったのですが、「同着ネタはもう使えないですね」と(笑)
白根:話としては出来すぎなので、あれがなくても使う予定はありませんでした。ただ、いろいろ考えても現実はその上を行ってしまうことがある。「フィクションより面白い事やらないでくれ!」といつも思っています(苦笑)
宮澤:回を重ねることで、私たちが想定していなかった形で目覚めていくキャラクターもいましたね。
鵜飼:人間性に厚みが出ていくパターンもあれば、シナリオの要請から登場させただけのキャラクターが、おもしろすぎて裏設定だけが膨らんでいったパターンもあります。なので、当初は普通の名前だったキャラクターが、競輪場の名前になったりしています。
白根:防府、玉野の2人はその最たるところです。豊橋契や松阪鈴、磐城平颯来もそう。我々の中でキャラは立っているのに、アニメで描ききれていない部分が多くて……。
現状は見せ場が少なく、担当の声優さんには申し訳なく思っています。
――テレビシリーズの制作を通じて、印象深かったことはありますか。
宮澤:競輪ならではの世界観を、アニメで表現できたかなという手応えがありました。個人的には公営競技としての側面をどう描くかを迷ったところもあったのですが、そこにあえて挑戦してよかったと思っています。
鵜飼:前回の繰り返しになりますが、それこそが競輪のおもしろいところだから、逃げるべきではないと考えました。お金の話はアマチュアとプロの違いを描くときには避けられないことで、現実的にもお金が回らなければ運営できませんしね。未成年の方も見る作品なので、お客さんが車券を買うような直接的な描写は盛り込んでいませんが、車券が存在していないものと感じられるように描くことはしないよう心がけました。
白根:選手が受け取る賞金も、車券を買うお客さんあってのものですから。競輪をテーマにすると決めたときから、とても重要な要素だったんです。
宮澤:車券を買う側……つまり競輪ファン視点のスピンオフ作品もおもしろそうですね。
白根:それならいくらでも書けますよ。僕、「リンカイ!」でいただいたお金の半分以上はすでに競輪で溶かしましたので。これマジです(真顔)
――それはご愁傷さまです(苦笑)。最後に、今後の「リンカイ!」プロジェクトについての構想があれば教えていただけますか。
白根:やりたいことはたくさんあります。本当は本編でも、伊東たち以外の各キャラクターに焦点を当てたオムニバス的なエピソードを盛り込みたかったので、それを実現出来ると嬉しいですね。
鵜飼:アニメには登場させる事ができなかった競輪場をホームバンクにするキャラクターたちにもまだまだたくさんいますしね。
白根:漫画の「リンカイ!アザレア」だけでなく、アニメ以外でもいろんな形でお見せできる機会があればと思っています。
アニメ「リンカイ!」インタビュー特集
[筆者紹介]
アニメハック編集部(アニメハックヘンシュウブ) 映画.comが運営する、アニメ総合情報サイト。
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