【この2.5次元がすごい】ノベルならではの余白も楽しめる文ステ最新作 対になるふたつの物語

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現代のヨコハマを舞台に、中島敦、太宰治、芥川龍之介といった文豪たちが活躍する異能アクションバトル漫画「文豪ストレイドッグス」。2013年の連載開始以降シリーズ累計800万部を突破し、ノベライズやアニメ化など、様々なメディアミックスも展開している人気作品です。舞台化ももちろんそのひとつ。

舞台の最新作は「舞台『文豪ストレイドッグス 序』探偵社設立秘話・太宰治の入社試験」で、これは角川ビーンズ文庫から刊行されている小説「文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話」「文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験」が原作になっています。2つのエピソードが同時期に上演されるというのも上演前から大きな話題を集めていました。

長江崚行さん演じる江戸川乱歩と、和泉宗兵さん演じる福沢諭吉が出会うことをきっかけに設立した武装探偵社。その物語を描いているのが「探偵社設立秘話」です。孤独に生きることを決意していた福沢が出会うのが、両親を亡くしひとりになってしまった乱歩。福沢が乱歩と出会うことから探偵社が始まっていくという、まさにはじまりのストーリーです。そしてもう一作が「太宰治の入社試験」です。18年には舞台でも上演され、テレビアニメ13〜16話でも放送された「黒の時代」。ファンの間では熱狂的な人気を持つエピソードで、「太宰治の入社試験」はその後の物語となります。輝馬さんが演じる理想主義者の国木田独歩と、多和田任益さんが演じる太宰治がバディとして信頼関係を築いていく様子が描かれていくこちらも大事な物語です。

■語りによって進められていく物語

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それぞれの物語は福沢、そして国木田の語りをメインに進行されていくため、まるで小説のページをめくっていくように最小限のセットの中でも情景が浮かんでくるようでした。語りとセリフ、またシリアスな展開の中に自然に入ってくる笑いなど、かなりのセリフ量にも関わらず、いろいろな表情を見せてくれる和泉さん、輝馬さんが印象的でした。

舞台はそれぞれ福沢、国木田によって進行されていますが、注目はそれ以外の登場人物です。どちらも事件を通して物語が展開するため、多くのキャラクターが登場しますが、メイン以外のキャラクターに声を当てているのは長江さん、多和田さん。シリアスなシチュエーションはもちろん、女性のキャラクターやオーバーなアクションもコミカルに演じてくれるため物語に抑揚が付くのが分かります。

観客を引き込むのは福沢と乱歩、そして国木田と太宰という二組の関係性。互いの心の隙間を埋めるような福沢と乱歩に対し、信頼関係を築いていく国木田と太宰のバディ。その2組をまるで見守るような気持ちで舞台を見ていました。

■シンプルな舞台だからこそ映える異能力の演出

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そしてなんと言っても注目は異能力を使ったバトルシーン。シンプルな舞台セットのなかで最小限の小道具とプロジェクションマッピングで表現されていました。例えば、乱歩の「超推理」。これは正確には異能力ではありませんが、舞台全体に浮かび上がる文字が、乱歩の頭の中を映し出しているようです。

2.5次元での舞台化というと、アニメや漫画をしっかりと再現する舞台をイメージすることが多いなか、今回の作品は「ノベル」を原作にしたという印象が強く、しっかりと物語そのものを楽しむことができました。小説を読むときは絵や音がない分、自分で想像することも多いのですが、シンプルな舞台セットがその余白を舞台上でも与えてくれるよう。そして、バトルシーンでは自分では想像できない異能の世界をしっかりと見せてもらうことができました。観劇後は本を1冊読み切ったような感覚で、文ストの世界にしっかりと浸ることができました。

また、今回の文ステでは、配信上演も行っていたのですが、定点カメラからの映像が配信されるものと、カメラのスイッチングを楽しむことができるものの2つのプランがあり、視聴者が選ぶことができました。作品を配信で楽しむことが当たり前になりつつありますが、こういった選択をしながら楽しむというのも広がっていくのかもしれませんね。

大好きなあの人に奥行きが♡この2.5次元がすごい

[筆者紹介]
西岡 舞子（ニシオカ マイコ） オーストラリアのGriffithUniversityでジャーナリズムと犯罪心理学を学び、卒業後は出版やエンタメに携わる。舞台も音楽も仕事のあとの一杯もやっぱり生が好き！ いい舞台は何度もみたいし、記念に公演グッズも買っちゃう派です。好きな動物は猫とペンギンで好きな大福はいちご大福。