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特集・コラム 2020年2月22日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】アニメが席巻、2019年ヒット映画の仕組み

(C) 2019「天気の子」製作委員会

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邦画も洋画も、上位に並ぶのはアニメーション
 1月28日に日本映画製作者連盟(映連)から2019年の映画興行成績が発表され、その作品別上位にアニメ作品が占めた。近年のアニメの勢いを感じさせるものだ。邦画興行1位は「天気の子」(140.6億円)、2位は「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」(93.7億円)、4位「ONE PIECE STAMPEDE」(55.5億円)、5位「ドラえもん のび太の月面探査記」(50.2億円)と上位5タイトルのうち4つがアニメと、ほぼ独占状態。
 洋画でもアニメーションが強い。最もヒットしたのは「アナと雪の女王2」(127.9億円)、3位に「トイ・ストーリー4」(100.9億円)。2位の「アラジン」(121.6億円)は2Dアニメーションの大ヒット作を実写に、4位の「ライオン・キング」(66.7億円)はCGに置き換えたものである。上位4作全てがアニメーション関連と言っていい。
 邦画でも3位の「キングダム」(57.3億円)や13位の「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」(22.4億円)といったアニメのヒットも製作実現や人気につながったと見られる作品がある。アニメの影響は実際の数字以上かもしれない。

しかしアニメがこれだけ大きくなると、“劇場アニメ”でまとめるのも難しい。テーマや題材、ターゲットもいろいろで、ビジネスモデルもひとつでない。公開時に300館から400館で全国公開する大作と、当初は数十館規模に絞る作品は目指すところが大きく異なる。好調に見える劇場アニメ映画も、タイプごとに分けて考えるとヒットの仕方も違って見えてくる。

定番から深夜アニメ系まで多様な作品群
 大ヒットの上位に並ぶのは、有名キャラクターが登場する作品が多い。名探偵コナン、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ONE PIECE、ポケットモンスター……。いわゆる“定番劇場アニメ”だ。ここまでヒットは大きくはないが、プリキュアやアンパンマンもここに入るだろう。
 ブランド力が高いことで映画館に人を集め、そのヒットがブランド力を強化し、さらにヒットが大きくなる。近年、このカテゴリーの作品はますます好調で劇場アニメを牽引している。

もうひとつは深夜テレビアニメを延長させた作品だ。前のカテゴリーと似ているが、もう少しコアなファンをターゲットにしている。ヤングアダルトの男女が観客の中心である。1話完結でなく、ストーリーがテレビシリーズにつながったり、劇場興行が2部作、3部作とシリーズ化したりしていることも多い。
 興行をあまり拡大せずに確実に収益をあげるのが特徴でもある。映連の興行上位リストには名前はないが、「この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説」「BanG Dream! FILM LIVE」「GのレコンギスタI 行け!コア・ファイター」といった作品は、予想を超えた成果をだした。
 さらにファン層のボリュームが拡大すると、このカテゴリーでも大ヒット作となる。「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」(18.2億円)や「Fate /stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly」(16.6億円)、「コードギアス 復活のルルーシュ」(10.6億円)といった作品だ。近年のアニメファンの拡大の恩恵を受け、成長を続けるカテゴリーである。

オリジナル企画の劇場アニメの戦略は?
 苦戦したのは映画単独でのオリジナル企画で、かつコアファン以外を狙った作品だ。「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」は14.2億円のヒットになったが原作の知名度の高さを考えればもっと大きな数字を期待していただろう。
 「きみと、波にのれたら」「海獣の子供」「HELLO WORLD」「空の青さを知る人よ」は、作品の高い評価に比べて興行が伸びていない。これらの作品に共通するのは、公開初日より200館を超える大きなスクリーン数を用意したことだ。作品の知名度不足とプロモーション不足、それと劇場数がマッチしないことで、厳しい結果になったのではないだろうか。

一方でオリジナル企画でもヒット作もあり、その代表が「プロメア」(15億円)だ。「プロメア」も公開当初は不調だったが、当初のマスプロモーションから公開後にマニア向けに転じたことでヒットにつながったと見える。
 そして2019年の最大のサプライズは「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」(14.5億円)だろう。もともとのキャラクター人気に加えて、小規模公開のスタートも大きかった。ヒットを受けて徐々に劇場数を拡大していった。
 予算をかけたオリジナル企画は大きなヒットを狙いたくなり、劇場数も最初から多くなりがちだ。しかしむしろ劇場を絞ることで熱気が高まり、サプライズ感が起きる。それが口コミで広がるのが、ヒットのひとつのパターンになっている。

特別な存在「天気の子
 オリジナル企画では、2019年全公開映画のトップに立った「天気の子」(140.6億円)は特異な存在だ。作品の素晴らしさはもちろん大きな理由だが、「新海誠」自身がブランド化している。認知度不足とは一線を画し、当初から、「君の名は。」の監督の新たな作品を見ようと準備するファンが大勢いるからだ。
 オリジナル企画というよりも、4つのめの別のカテゴリーと考えるとわかりやすい。ただしこのカテゴリーに該当作品はとても少なく、「スタジオジブリ」「細田守」「新海誠」でほぼ全部だろう。それだけ特別な存在だ。
 オリジナル企画の長編アニメを目指す時に、誰もがこのカテゴリーに移行することを狙っているのでないだろうか。傑作は多いが、こうしたフェーズに移るケースはごく少数で、その仕組みはよくわからない。あえて言えば時代性や共感の創出で、映画単体だけでない「作品+作品をとりまくカルチャーを創り出す力」の大きさなのだろう。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

天気の子

天気の子 13

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