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特集・コラム 2024年9月28日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】00年代初めと似てきたアニメ業界、不況は繰り返されるのか

「アニメエキスポ」会場写真(著者撮影)

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■過去にもあったアニメビジネスブーム

日本アニメの活況が続いている。日本動画協会がまとめる「アニメ産業レポート2023」によれば、2022年の世界市場は2兆9277億円と史上最高だ。20年前、2002年の1兆968億円と比べれば3倍近くにもなる。
 今後発表される2023年の金額も、円安などの後押しもあり過去最高を更新してくる気配が濃厚だ。市場成長に限ればアニメ業界には楽観した雰囲気があふれ、新たにアニメ事業に進出する企業が引きも切らない。アニメビジネスブームの様相だ。

しかしアニメビジネスブームは、今回が初めてでない。日本のアニメ産業は1950、60年代に本格的に立ちあがった。大衆的な人気に支えられ一本調子に成長しているように思われがちだが、実際はいくつかの好不調の波がある。
 大きなブームにひとつは90年代末から00年代にかけてである。たとえば97年のテレビアニメ制作タイトル数は86本だったが、2001年には167本、06年には279本にまで増加している。現在からみても驚くほどの急成長の時期だった。

■00年代初頭と現在の共通点

00年代初頭のビジネス拡大は、現在のアニメビジネスブームと似た点が多い。ひとつは「海外」と「新世代メディア」が市場を牽引したことだ。
 「ポケットモンスター」や「ドラゴンボール」が北米を中心に世界的に人気を博し、ビデオソフトでも「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」が大ヒット。海外からの日本アニメの需要がいっきに増した。
 ビデオソフトのヒットは海外だけでない。この時期にDVDの普及が進み、さらに深夜アニメ放送が根づいたことで、ビデオソフトの売上げでビジネスを支える作品が多く登場した。これが制作本数を増やした。新しいメディアの普及が売上げを拡大するのは配信プラットフォームが業界を牽引する現在と重なってみえる。

アニメ業界を取り巻く環境も現在と近い。今年日本政府は「新たなクールジャパン戦略」を決定し、アニメやマンガ・ゲームの振興を目指すとした。アニメにも大きな役割を期待する。しかし政府が最初にアニメやマンガをコンテンツ産業としたのは、00年代初頭の時期だ。
 また00年代初めは異業種からのアニメ産業への参入が相次ぎ、2000年にはジャパン・デジタル・コンテンツ信託が上場、また映画完成保証が導入されるなどアニメの資金調達の新しい方法が模索された。これも現在とよく似ている。

もちろんパターンに当てはめて類型化することが、やや強引であることは理解している。ただこうした状況と市場成長に対する楽観めいた現在の雰囲気は、00年代初頭を彷彿させる。

■00年代前半のアニメバブル崩壊

結局、いい時代は長くは続かなかった。00年代後半からアニメ業界は厳しい時期に突入する。海外市場が急激に落ち込み、DVD販売は減少、放送局からの購入も減った。理由はいくつか指摘されている。インターネットの普及によるネット上の海賊版に市場を奪われたこと、量産したことによる作品の質の低下、または飽きられたなど。

アニメバブル崩壊といっても、多くの人には実感はなかっただろう。アニメ産業レポートを見ても、この時期は市場の伸びは止まったが、落ち込みは大きくない。アニメ業界全体に限れば週末のアニメ放送は相変わらず続くし、キャラクター玩具も売れ続ける。
大きな落ち込みは、00年代初頭に大きく伸びた事業に集中した。2006年に195本に達した新規アニメは4年間減少を続け、2010年には139本となった。DVDや海外需要に依存した深夜アニメが打撃を受ける。
 この結果、00年代初頭に急成長した製作大手GDHの経営が急速に悪化、さらにバンダイビジュアルでは組織再編・上場廃止など新しい状況にあわせた対応が続いた。海外では北米を中心に日系企業の撤退や現地日本アニメ企業の経営破たんも相次いだ。
 ジャパン・デジタル・コンテンツ信託は2009年に信託事業を停止、アニメファイナンスに乗り出していたみずほ銀行もコンテンツ部門からほぼ撤退する。製作委員会に代わる新たなファイナンスの構築は先送りされたかたちだ。

■20年代の活況は繰り返されたバブルなのか?

問題は、現在、史上最高とされているアニメ業界の活況が、再び現れたバブルなのかである。00年代と似た点が多いのはここで述べたとおりだ。
 違う点もある。まずは規模の大きさである。現在のアニメは世界的にニッチ(隙間)からメジャーに移行したとされる。「アニメ」がジャンルとして消えることは考えにくい。
 ただ海外との競争が激化している。日本アニメの独自性が喧伝されるが、市場が大きくなったことで世界が求めるアニメのニーズや志向は変化し、求められる作品の幅は広がり続けている。独自性にこだわることで、一部でそうしたニーズに応えられなくなる可能性はある。
 現在のアニメ製作がマーケットとして海外、そして特定のメディア(配信プラットフォーム)に過度に依存している点も00年代と同様だ。何かのきっかけでこの構造が崩れたら、現状のアニメ製作は一気に維持できなくなる。

何より怖いのは慢心だ。「新たなクールジャパン戦略」では国は現在の日本コンテンツの海外規模を2028年に10兆円、2033年に20兆円にする数値目標を立てている。このうちアニメは現在の約1.5兆円から28年に2倍の3兆円、33年に4倍の6兆円超との数字も聞こえてくる。
 たしかに日本のアニメのクリエイティブは素晴らしい。しかし2010年代から現在まで過去10年余りで実現した約6倍の海外市場の急成長は、もともと大きくない産業が初期段階で高い成長を実現できた数字のマジックでもある。すでにかなり大きくなった現在の市場で、過去と同じような成長率を維持するのは並大抵でない。

もちろん、目標がなければ前に進めない。ただこうした数値がひとり歩きしている。近年、企業やベンチャーが立てるビジネス戦略に、アニメ市場の過度な成長が前提として引用されているケースが見られる。日本アニメの市場は今後何倍にもなるから、自分たちのビジネスは成長するのだと説明する。
 それは目標であって規定路線でない。実現の可能性もあるが、相当の努力が必要だ。逆に目標が実現しなかったときに、高い数値を前提にしたビジネスプランは厳しい状況に陥るはずだ。それは避けなければいないはずのバブル崩壊を自らつくりだすことになる。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

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