2015年11月13日(金)20:00
なかむらたかし監督に聞く「ハーモニー」の魅力 「静かで濃密なフィルムを目指した」
34歳という若さで夭折した作家・伊藤計劃氏。その実質的な遺作であり、SFとして高い評価を受けている小説「ハーモニー」が、11月13日より劇場アニメとして公開される。
極端に健康的な社会を舞台に、WHO螺旋監察官の霧慧トァンと、かつてともに死のうとした御冷ミァハのふたりを通じ、人間の真の幸福と生きる意味を問う本作。監督を務めたなかむらたかし氏に、本作が目指したものやキャラクターについて聞いた。
なかむら監督が原作「ハーモニー」を読んでまず感じたことは、映像化の難しさだったという。
「小説としてはとても魅力のある作品なのですが、それを映像化する時に、破綻させないようドラマとして成立させる必要性を感じました。作品の主要キャラクターであるトァンとミァハについては、小説のままでは感情移入が難しい部分もありましたので、彼女達の心情面に一本筋を通すことを目指したんです。そこを描いた上で、キャラクターのバックボーン、表面上出てくる行動やセリフ、最終的な結末を改めて検証していきました」
監督は原作の特性を活かすために、ふたつの点にポイントを置いたという。ひとつは、原作由来の未来社会的なガジェットを如何に見せるかという部分だった。
「原作の独創的な医療システムや、未来社会の機構はちゃんと具現化していこうと。文章だけだと、ぼんやりと分かった風で読んでしまうところを、映像的に面白いギミックとして機能させたかったんです。小説のファンの方々に、“この程度なのね”と思われないように頑張ったつもりです」
そして、ふたつめは“会話”だったという。原作は会話主体であり、アクション要素があまり多くない作品だ。選択肢として、活劇要素を足して観客に飽きさせない作りをするという形もあったであろうが、なかむら監督はこう語る。
「原作は静かな作品なんですよ。ミァハの虚無的な部分も、逆に彼女の反発から来る激しい行動も、静かだからこそ際立つというかね。その良さは活かしていきたかった。確かに地味にはなるかもしれません。でも、大丈夫だという確信はありました。ですから、かなり長回しも多用しています。そのほうが会話に集中できると思ったんです。静かなムードの邦画のつもりでした」
なかむらたかし監督
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確かに本作には濃密なムードが色濃く漂っており、静けさを意識した演出法も一役買っている。だが、そこにはミァハとトァンが醸す友情以上の関係性も大きく寄与しているようにも見える。
「率直に言ってトァンとミァハは恋愛関係だと思っていました。男女間以上の強烈な関係性だっただろうと。ミァハというのは、とある理由があって、『肉体に対しての拒否反応』と同時に、『誰かを求めたいという気持ち』がないまぜになったキャラクターだろうと捉えたんです。彼女達の濃密な関係は可能な限り描きたいと思っていました」
その関係性は、主にふたりの女学生時代のシーンに、ある種の青春感を伴って描かれている。
「彼女達が本気で思いつめて犯罪を犯したり、自殺を図ったりするというのは、青春時代に誰もが持つ無垢さゆえだと思うんです。その一瞬の煌めきというのは、永遠とも言えるものだと思います。それはわずか数年かもしれないけど、大人になって永遠性を持つ……。そういう部分は意識して描きました」
最後になかむら監督に本作への意気込みを伺った。
「先ほどの“青春は永遠となり得る煌めき”じゃないですけど、そういった煌めくもの……観てもらった方の中に残るものを感じてもらえる作品を目指したつもりです。ぜひ御覧頂いて、自分なりの何かを持ち帰っていただけると嬉しいです」
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