2015年12月18日（金）20:00

「攻殻機動隊」25周年リレーインタビューシリーズ構成・脚本冲方丁後編「新劇場版」の「パーツ」に込めた思い

「攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers」場面カット

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

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冲方丁氏へのインタビュー後編は、複数の監督と脚本作りをした苦労と楽しさ、「新劇場版」の脚本に込めた思いなどを語ってもらった。

「攻殻機動隊ARISE」のシリーズ構成のオーダーは、「オムニバスでありつつも、通して見たときに一連のシリーズだと分かる作りにしてほしい」というものだった。

「無茶なこと言うなあと思いました（笑）。小説の短編連作のような方法論をとりつつ、素子の仲間がだんだんと増えていくことで、話が進んでいることをみせていく。この分かりやすさで攻めていくしかないかなと。もうひとつ、『攻殻』らしい先進性のある共通のテーマを作ってくれとも言われて、それがファイア・スターターというウイルスになりました。疑似記憶というものが一般的でない時代に、誰も作った覚えのないウイルスが蔓延する。ジャングルの向こう側で新種の細菌が勝手に生まれ、生物に影響を与えているようなイメージですね。その中で散発的な戦争状態が繰り返されているような時代背景を考えました」

公安9課の隠れた特色は、各人がそれぞれの日常をもっていることだとも冲方氏は語る。

「戦闘に従事していても、その後に必ず日常に帰るんですよね。みんな意外と生活力があって、だから精神的に破綻しない。そこが敵側のテロリスト達と決定的に違うところなんだと思います。彼らにはそれぞれの生活があるということを、ちゃんと現代っぽく描いていこうと考えていました」

各話で監督が異なるのも「攻殻機動隊ARISE」の特色だが、各監督との打ち合わせは「ピッチャー大勢、キャッチャーひとりのような心境だった」と冲方氏は笑う。

「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain」場面カット

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

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「『攻殻機動隊』というコンテンツで一番何がしたいか、ご自身は何が好きか、監督ひとりずつに聞きました。野球でいうところのサインですよね。『あなたはストレート』『あなたはカーブ』みたいに決めていかないと、のべつまくなし、でたらめな状態になってしまいますから。『border:1 Ghost Pain』でむらた（雅彦）監督とお話したとき、『NARUTO -ナルト-』の方だから、きっと格闘がお好きに違いないと思って打ち合わせに臨んだんです。そうしたらサスペンスがやりたいと言われて……そこからは、もうアニメーションの監督の方にたいして予断をもつのは一切やめようと思いました（笑）」

シナリオ的な制約などは考えず、やりたいことをぶつけてくる各監督のオーダーに応えることは、「ある意味、話が早かった」という。

「こちらが苦労すればいいだけですからね。で、こちらが苦労したシナリオで『やってください』と（笑）。僕自身も、最終的には絵の都合とかまったく考えずに書いていたところがありました。皆さん苦労されたみたいですが、本当に見事にやられていましたよね。お互い信頼関係があるからこそ、相手のことを考えずに正直にやるという感じでした」

野村和也監督のインタビューでも話題にあがった通り、「新劇場版」は、当初予定されていた「ARISE」の5、6話をセットにして作られることになった。

「『「新劇場版」は、「ARISE」シリーズを見た人も見ていない人も楽しめるような話にしてください』と言われて、『言われるとは思っていたけれど、今度もまた無茶なことを言うな』と（笑）。度重なる無茶ぶりに僕もだんだん麻痺（まひ）してきていて、『攻殻』というコンテンツの限界に挑戦するつもりで取り組みました。『ARISE』で決着をつけなければならないことが多くて苦労も多かったですが、書きながら『攻殻』の世界観の強さに驚かされましたね。キャラクターたちの性格とその配置、サイボーグアクションとサイバーアクションの融合……尺を含めて、どんな風にかたちを変えても成立してしまう強さをもっている」