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インタビュー 2018年8月31日(金)14:00

ポノック短編劇場「ちいさな英雄」 百瀬義行監督が「サムライエッグ」で試みた、少年の9年間を描く16分

(C) 2018 STUDIO PONOC

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「メアリと魔女の花」で知られるスタジオポノックが贈る3つの短編アニメーション映画からなるオムニバス「ちいさな英雄 ―カニとタマゴと透明人間―」。その1作「サムライエッグ」は、高畑勲監督作品の中核を長く担い、「かぐや姫の物語」では飛翔場面のシーン設計などを担当した百瀬義行監督が手がけている。たまごアレルギーの少年を主人公にした経緯やプレスコ収録の狙い、各シーンのメイキングについて話を聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

――物語的にも映像的にも、ギュッと詰まった作品だと感じました。見終わってから上映時間が16分だと知って驚きましたが、最初から、これぐらい盛りだくさんなものになると思ってつくられていたのでしょうか。

百瀬:ありがとうございます。そういうつもりでつくっていたわけではないのですが、この作品では説明しなければいけないことがまずあって、主人公である少年の事情を分かってもらわなければいけませんでした。主人公のシュンが小学校3年生で9歳だとすると、彼が9年間をどのように過ごして今にいたっているのか、お母さんの性格や2人の関係性をふくめて描こうすると、大げさな言い方をすると、16分のなかに彼の9年間がつまっていることになるんですよね。そうしていくうちに盛りだくさんな印象のものになっていったのだと思います。

――どのような経緯で、たまごアレルギーを題材にした作品をつくることになったのでしょうか。

百瀬:最初から、たまごアレルギーを題材にとなったわけではないんですよ。何人かの監督をたてて短編のオムニバスをつくることになり、その1本の監督に声をかけてもらったとき、自分のなかで「これをやりたい」と強く感情移入できるものがなかなか見つからない状況のなかで、西村(義明)プロデューサーから、実際にたまごアレルギーのお子さんを育てているお母さんの話を聞きまして。

――それが企画の発端だったのですね。

百瀬:こうした題材をストレートに扱ったものはアニメーションをふくめ、なかなかないだろうなと思いました。たまごアレルギーをもった子がいて、それによっていろいろな問題がおこっているらしいことは、みんな知っているはずですが、実態はどうなっているのかまでは、やっぱり知らないわけじゃないですか。

――そう思います。

百瀬:実際に話を聞いてみると、想像していた以上の大変さがあるわけです。そうした大変さをかかえている人たちがいることを、モヤッとした感じではなく、きちんと伝えられるようなものができたらと思いました。また、この題材を描くことで、たまごアレルギーだけでなく、もっと幅広い視点で「どう生きるか」というようなところまで考えさせてくれるものになりうるかもしれない。そんなふうに思ってつくったところがあります。

――それで、実話をもとにした物語と銘打たれているわけですね。

百瀬:ただ、実話をもとにしているからといって、ノンフィクション的な感じでとらえられるのも、ちょっと違っていて、実際に聞いた話をヒントに物語としての脚色はいろいろとしています。

(C) 2018 STUDIO PONOC

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――短い尺のなかで、お母さんと息子の関係が丁寧に描かれていたのが印象的です。どんなところから物語をつくっていったのでしょうか。

百瀬:まずお母さんの性格づけとして、東京に住んでいながら岸和田弁をしゃべる人でいこうというのがありました。岸和田弁ってキツそうに聞こえますけど、その裏側に愛情のようなものを感じられて、短い言葉のなかにいろいろな意味がこめられているんですよね。言葉が味わい深いといいますか。16分という短い尺のなかで、自分の気持ちを標準語で話させると相当長いセリフになるところを、岸和田弁でしゃべると短い言葉で雰囲気がでやすいというのがありました。岸和田弁をしゃべるお母さんと、東京生まれで標準語をしゃべる男の子がいて、2人がケンカするときは、男の子はちょっと頑張って大阪弁っぽい感じで反抗してみたりするんじゃないかな……とか。それでファミレスのシーンでは、あんな風な受け答えをさせています。言葉を使って説明するのではなく、岸和田弁がかもしだす、ある種の雰囲気のなかで、親子の関係が読みとれる感じになればなと。

――お母さん役は、関西出身の尾野真千子さんが演じられています。本作はプレスコ収録だったそうですが、岸和田弁のテンポを生かすためだったのでしょうか。

百瀬:そうですね。実際にやってみると、普段のアニメーションとは会話のテンポが全然違うんですよ。プレスコしたスポッティングシートを見ると、思っていた以上にテンポが速くて。これを普通のアフレコでやっていたら間延びしてしまいますから、口調をゆっくりにするか、言葉を足さなければならなくなります。アフレコの現場で、そうしたことをしはじめると、とっちからかってしまいますし、意図もぼけてしまいますよね。今回、プレスコでやれたのは、非常に効果的でした。

――プレスコの収録は、どんな映像をもとに行ったのでしょうか。

百瀬:ライカリール(※制作中の素材を計画どおりの尺にあわせてつないだ映像)はありましたので、コンテ撮と、一部は原画や色がついている映像で行いました。尾野さんは声の仕事がはじめてでしたので、映像に声をあわせてもらうことに神経を使わず、芝居に集中していただけたのもよかったです。

――プレスコの音声をもとに作画をされていくなかで、声の芝居やテンポが指針になったのですね。

百瀬:芝居はもちろん、セリフをしゃべるなかで役者さんならではの表情や動作のようなものも若干でますので、そうしたニュアンスも動きに使っています。ファミレスのシーンで、お母さんがシュンに「きっしょー」と言うじゃないですか。あの場面は、もし尾野さんの芝居がなかったら、言い終わったあとに笑顔にさせていたかもしれません。けっこう強い言い方をしていますから、笑顔にさせれば「本気ではなく、冗談で言っている」ことが記号として分かるけれど、そうではなく、わりと怖い顔のまま言わせています。東京の人はどう思われるか分かりませんが、僕の希望としては大阪の人であれば「あんな感じ」と分かってもらえるんじゃないかなと。尾野さんのセリフには、そう思わせる説得力があって、事前に考えていたイメージが変わるんですよね。2人のあいだで日常的に行われているゲームのようなやりとりなのかもしれないと思って、ああいう表情にしました。

――アニメーション自体についても聞かせてください。一度見ただけでは味わいつくせないほど、シーンによって見た目が異なっていましたが、どうしてこのようなスタイルにされたのでしょうか。

百瀬:セルと背景をなじませた絵本のような手法をとったのは、最初に映像をパッと見たときに「これ、なんだろう?」と目にとめてもらえたらというのがありました。従来どおりのつくり方をすると、既存のものを連想させてしまいますから、そうしたことをリセットして、まっさらなところから見てもらいたかったんです。

作品情報

ちいさな英雄 ―カニとタマゴと透明人間―

ちいさな英雄 ―カニとタマゴと透明人間― 2

兄と弟の勇気、母と子の絆、そして、たったひとりの闘い。小さな涙と優しさは、3つの物語を通して、やがて大きな強さとなっていく――。

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