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インタビュー 2020年8月24日(月)12:00

今敏監督をしのんで 平尾隆之監督が今監督に教わったこと

平尾隆之監督

平尾隆之監督

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今敏監督が46歳の若さで亡くなって10年が経つ。1997年から2006年にかけて発表された劇場アニメ4作とテレビシリーズ「妄想代理人」は国内外で高く評価され、今もファンに愛されている。
 99年にマッドハウスに入社し、02年公開の「千年女優」に制作進行、04年放送の「妄想代理人」に演出として参加した平尾隆之監督(劇場アニメ「映画大好きポンポさん」制作中。20年公開予定)に、今監督のもとで仕事をした思い出を振り返ってもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

■漫画「海帰線」のインパクトと今監督からの第一声

――平尾監督は、公の場で今監督の話をほとんどされてきませんでしたよね。

平尾:今さんのまわりには僕以上に関係の深い方がいっぱいおられて、同年代でいうと板津(匡覧)さんなど、今さんの薫陶(くんとう)を直に受けてきた方がたくさんいます。そうしたなかで、僕が何かを発言するのはおこがましいのかなという気持ちがありました。これまで機会がなかったこともありますが、自分から進んで話そうという気分にもなかなかならなくて。
 今さんが亡くなったことを知ったときのことは今でも覚えています。松尾君(※編注)がメールで知らせてくれたのですが、その日は暑くてちょうど台所で水を飲もうとしていたんです。セミの鳴き声がすごくうるさかったんですけど、メールを見て今さんが亡くなったと知ったとき、一瞬でその鳴き声がミュートされた感覚がありました。「人間ってこういうとき、本当にまわりの声が聴こえなくなるんだ。よく映画やドラマで見る演出ってほんとだったんだ」と思った記憶があります。……いきなり重い話になってしまいましたけれど。

編注:マッドハウス出身のプロデューサー、松尾亮一郎氏。平尾監督の最新作「映画大好きポンポさん」は、彼が代表を務めるCLAPで制作されている。今回の取材はCLAPで行い松尾氏にも同席してもらった。

――10年経つと、今監督の作品や今監督自身のことを知らない方もでてくると思います。今日は語り継ぐという趣旨で、平尾監督が今監督と仕事をご一緒されたときの思い出をざっくばらんに話していただければと思います。最初に今監督との出会いから聞かせてください。

平尾:今さんの存在を知ったのは、今さんの漫画「海帰線」を「ヤングマガジン」で読んだのが最初でした。小学校高学年から中学生頭の頃だったと思いますが、「AKIRA」の連載が載っているかなと見たら、ちょうど「海帰線」の最終回近辺だったんです。巨大な人魚が砂浜にいてその側に主人公がいるという名シーンが目に飛び込んできて、それがものすごくインパクトがあったんですよね。その絵を強烈に覚えていて、コミックスがでたときに買ったんです。

――「ヤンマガ」のコミックスで読まれたということですね。

平尾:そうです、新装版のやつではなくて。その後、僕はアニメーションの道を志すようになり制作としてマッドハウスに入社しますが、入るまでマッドハウスがどんな作品をつくっているか、ほとんど知らなかったんです。ただ、その前に「パーフェクトブルー」はビデオで見ていて、今さんの名前が監督として載っていたので、マッドハウスでこの作品をつくったということは、ひょっとしたら今さんがいるのかなとは思っていて。そうしたらやっぱり今さんはいて2作目の「千年女優」をつくっていたんです。これはちょっと僕の思いを伝えなければと思い、緊張しつつも今さんと直接お話できる機会があったときに「『海帰線』がほんとに好きでした」と言ったら「殺すぞ」って言われまして(笑)

――(笑)

平尾:それが今さんとの出会いでした(笑)

――漫画家としての今監督を先に知っていたわけですね。

平尾:「海帰線」は青春劇のストーリーも好きでしたし、今さんの漫画を読むまで人魚ってあんなに巨大なものだと思っていなかったんですよね。想像力を超えた何かをそこに存在するものとして描ける人だという印象が強くて、そこに強く惹かれたといいますか。今さんにも、そんなふうにお伝えしたと思います。あとから聞くと連載デビュー作で苦い思い出もたくさんあるから、なんだかバカにされているんじゃないかと思われたみたいで、冗談めかしてそう返されたみたいなんですけれど。

――その会話をきっかけに、お話するようになったのですか。

平尾:いやあ、そのとき、「え、なんでですか?」って返したんですけれど話は弾まず……。今さんって、けっこう外見が怖いじゃないですか。

――マッドハウスのロビーにいらっしゃるのを遠目に見たことがありますが、背の大きな方だったという印象があります。

平尾:身長が180センチ近くあって、髪の毛を後ろで結んでいて、黒系のコートや服を好んで着られていました。こんなことを言ったら今さんに怒られてしまうかもしれませんが、青龍刀をもったら映画にでてくる中国の殺し屋みたいですよね(笑)。あとあと話すようになるとすごく気さくな方なんですけれど、そのときの僕は最初の会話でおびえてしまって、しばらくは話しかけられませんでした。
 その後、僕は「十兵衛ちゃん」の制作進行の仕事が終わり、「千年女優」が忙しくなってきたあたりで、制作担当の豊田(智紀)さんから「君、今さんのファンなんだって」と言われて「制作進行をやるか」と声をかけてもらったんです。どうも今さんは僕のことを覚えてくださっていて、そのときの僕というのが金髪で、いわゆる若者のアイコン的な格好をしていたんですね。「そういうやつが俺の作品を好きとか、よく分からんけど面白いやつだ」と記憶にあったらしくて、豊田さんが制作進行を1人入れたいという話をしたときに、「あいつをちょっと引っ張ってこい」みたいな話になったらしいんです。

■「千年女優」の制作進行で学んだ「撮出し」

――平尾さんが制作進行として現場に入ったとき、「千年女優」の制作状況はどんな感じだったのでしょうか。

平尾:たしかカッティング前で、その前に素材の準備など、いろいろとやらなければいけないときでした。

――まず、どんな仕事からやっていったのでしょう。

平尾:基本的には回収ですね。原画などの回収や線撮用のコピーをしながら、演出の松尾衡さんに「撮出(さつだ)し」について教えていただきました。松尾さんは気さくな方で、僕が演出になりたいことを知っていたので、制作の仕事の合間にいろいろと教えてくださったんです。

――「撮出し」は、今日の話のキーワードになっていきそうなので、すみませんが、平尾監督からどういう仕事なのか説明していただけるとありがたいです。

平尾:セルの時代は、仕上げさんからあがってきたセルと、美術さんからあがってきたBG(背景)を組み合わせ、撮影さんが何コマずつ撮影すればいいかを指示したタイムシートもチェックして、それらが正しいものになっているかを確認する過程があって、それは基本的に演出や演出助手が行う仕事でした。そこで足りない素材があればリテイクを出したり、演出自身で足したりして、撮影に入れていいかどうかの素材を確認してオッケーを出す。その作業を「撮出し」といって、全カットについて行います。
 具体的に言うと、例えばあるカットにPANのカメラワークがついていたとして、PANフレーム分のセル――いわゆる長セルと言われるものです――を用意しなければいけなくて、それが足りていなかった場合は撮出し時に足しておかなければいけません。また「雨セル」といって、昔は雨の描写をセルにカッターで傷をつけることで表現していて、そうした素材も演出がつくることが多かったんです。

――今のアニメ制作では主に撮影スタッフがPC上で処理をいれるようなところも演出が担当していたわけですね。

平尾:「デルマ」というセルにクレヨンのように色を塗ることができる油性色鉛筆があって、それを使ってセルにちょっとした特効(特殊効果)のようなものを入れるのも当時は演出の仕事でした。撮影さんに素材を渡す「撮影入れ」の前にそうした作業があって、素材をひとつずつチェックすることで、オッケーとそうでない素材の違いや、こういう素材がくると撮影のときにエラーがおきるといったことを知ることができるんですよね。当時は撮出しを手伝うことが演出への近道でもあって、それを松尾さんから教わっていました。
 ただ制作進行としては、数本まわした1年そこそこのキャリアの僕ではまったく通用しない現場でもありました。今さん、松尾さん、制作担当の豊田さんをふくめ、皆さんプロフェッショナルで仕事に厳しい方々で、現場に入った瞬間、新人だろうがキャリアがある人だろうが「仕事ができなければ価値がない」という、とても厳しい環境でした。僕が細かい専門用語が分からなくて「それ、教えられていないです」という話をしたら、「そんなのは教えてもらうんじゃなくて、自分から勉強しにいくものだ」と言われたこともありました。「仕事は教わるものではなく盗め」という、今からすると前時代的にみえるかもしれませんが、当時は普通にあった考え方で、僕自身も受け入れていたことです。「千年女優」のときの僕はダメダメで、皆さんにご迷惑ばかりかけていたと思います。

■今監督から教わった映画のこと

――「千年女優」のとき、今監督とはどんな話をされたのでしょうか。

平尾:現場に入ってからしばらくは、とにかく仕事にかかりきりで、今さんに話かける機会はなかったですね。お話するようになってからも仕事の話というより、生き方の話をするほうが多かったように思います。あるとき、僕をふくめた今時のアニメ業界で働く若者についての今さんの感想として、「『僕には居場所なんかないんだ』みたいなことを言っているようなやつには、一生居場所なんてできないんだよ」と言われたのを覚えています。人に厳しいことを言われて落ち込んで、「僕には居場所がない」「なんで、そういうこと言うんですか」みたいなことを言っているやつのほうが甘えなんだよ、というようなことをよく言われていて。それぐらい仕事にたいして、自分にも他人にもとても厳しい人でした。
 ……話していて思いだしましたが、「千年女優」のときに映画についていろいろ教えていただきました。当時の僕は20歳ぐらいだったんですけど、今さんから「お前はアニメは何が好きで、何を見てきたんだ」と聞かれて、こういうアニメを見てきましたと答えたら、「お前、『(機動戦士)ガンダム』は見ていないのか?」と。今さん、「ガンダム」が好きだったんですよね(笑)。それで「いや、『ガンダム』は全話見たことないですね」と言ったら、「『ガンダム』を見てないなんて、おかしいよ。見ろ!」って、貸してくれたんです。

――「ファーストガンダム」のテレビシリーズを。

平尾:そうです、そうです。で、全部見終わってから「今さん、見ました!」とお返したら、「おう、どうだった。誰に感情移入した?」と言われて。

――(笑)

平尾:それで「ハヤトです!」って答えたら、「なんでだよっ」みたいな話になって(笑)。「お前、普通はアムロだろう。お前みたいな若者は、だいたい自分がアムロだと勘違いするんだよ」みたいな話をされ、「ハヤトみたいな一般人に、なぜお前は感情移入するんだ」と言われて、いやあ……そんなこと言われてもアムロは天才だしなあ、と思ったことがあったり……。
 その後、「じゃあ次は『ゴッドファーザー』を見ろ。見たあとに、なんでもいいから感想を言え」と言われて見たときに、あの映画はたしか最初マーロン・ブランドが演じたドン・ビトー・コルレオーネが最初、暗い照明のなかから現れて、最後はすごく明るいお花畑のようなところで、娘を追いかけながら倒れて死んじゃうんですけど、そこがすごく印象に残ったんですよね。そうした照明の使い方みたいなものがとてもよかった、というような話を今さんにしたんです。そうしたら思ったよりまともな感想だったのが意外だったみたいで、今さんはちょっと戸惑いながら、「お、おう。そう……演出っていうのはそう見るんだ」と返してくださったこともありました(笑)

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千年女優

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