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インタビュー 2020年8月24日(月)12:00

今敏監督をしのんで 平尾隆之監督が今監督に教わったこと (4)

――泊まりこみでお仕事されていたんですね。逆の言い方をすると、それ以外のときはちゃんと家に帰られていた。

平尾:午後3~4時ぐらいにスタジオに入って終電前に帰る。これをきっちり守られている方でした。スタジオで働いているときは世間話をすることはほとんどなく黙々と作業をして、帰る間際にみんなと飲みながらちょっと歓談して帰る。そういう生活を繰り返されていましたが、「妄想代理人」の最終回の作業をしているときだけはスタジオに泊まって、僕も撮出しの下準備などをしていました。そのとき初めて髪をおろした今さんを見て、「髪を下ろした今さんを初めて見た!」と思ったのをよく覚えています(笑)

――最近うけられたインタビュー(※編注)で、「妄想代理人」のときに今監督から「お前は監督になりたいのか、演出になりたいのか、作家になりたいのか」と言われたことがあると話されてましたよね。どういう流れで、そう言われることになったのでしょうか。

編注:「アキバ総研」掲載のインタビュー(https://akiba-souken.com/article/45656/ )。

平尾:あれはたしか最終回の作業が終わって、みんなで白箱を一緒に見たあと飲んだときにでた話だったと思います。僕が「次は何をやるんですか」と今さんに聞いたら原作ものをやるんだという話をされて、おそらくその当時から「パプリカ」をやろうと思っていたんでしょうね。で、「え、原作ものですか。オリジナルやらないんですか」っていう話をしたら――これは余談なんですけど、そのとき今さんは「俺が原作ものをやったら、みんなどう思うと思う?」と言って、「みんなは今、今敏は『東京ゴッドファーザーズ』が売れなかったからテレビに転んだと思っているだろう」という話をはじめて(笑)

――(笑)

平尾:で、「妄想代理人」の次に原作ものをやったら、「ついに今敏はアイデアが枯渇したか」と思うだろう。だけどそれが面白くて、その次にオリジナルをやるとなったら、「今敏の次のオリジナルはいったいどんな話だろう」となる。監督はそうやって人の興味を引っ張っていき続けなければいけないんだ、みたいな話をされているとき、「でも、やっぱり今さんはオリジナルをつくりたいんですよね」というようなことを言ったら、「そもそもお前は演出になって何をやろうとしているの?」みたいな話をされたんですよ。当時の僕は、20歳ぐらいでアニメ業界に入って3、4年かかってやっと演出になれたところだったんですけど、演出になること自体が目的になってしまっていて、演出や監督になって何をしようっていうことを見失っていたんですよね。とりあえず演出にはなったけど、一体自分は何をしたかったんだろうと。

――そういうことって往々にしてありますよね。

平尾:僕がそんな状態であることを今さんは見抜いていて、「今決めなくてもいいけれど、どこかで絶対決めなきゃだめだよ」と言ってくれたんです。演出っていうのは、すでにあるものをどうやって美味しい料理にするかを考える人。監督っていうのはオーナーにお店を任されたような役割で、作家というのはその人がつくったものをみんなに見たいと思ってもらえて、それで飯を食うということだと思うから、自分がどうなりたいか、どこかで決めないとねと。今さん自身もアニメ業界で今後自分はどうしていくべきかということをずっと考えられてきて、どこかで自分は作家であると課したときがあったんじゃないかと思います。

■今監督から教わったのは、生き方と考え方

――「妄想代理人」以降の話も少し聞かせてください。平尾監督はマッドハウスをでられて、ufotableで「フタコイ オルタナティブ」(05)「(がくえんゆーとぴあ)まなびストレート!」(07)に参加されますが、その後、今監督とお話される機会はあったんでしょうか。

平尾:マッドハウスをでてからも、自分がメインの作品が終わるたび今さんに会いにいっていました。「こういう作品をつくりました」と報告にいって、ご飯とお酒をおごってもらい、そこでお説教もされる(笑)っていうことを長く続けていて。
 マッドハウスを辞めるときも今さんに挨拶しにいきました。それまでは怒られてばかりでしたが、そのときはいろいろ話をしてくれて「まあ頑張れ」と優しい言葉をかけてくださって。あとあと聞いたら、「辞めるときに挨拶にきたのはお前ぐらいだよ」って言われましたけど(笑)。その後も、そんなふうに会いにくる若いやつは僕ぐらいだったらしく。

――別のスタジオで演出家として一本立ちした平尾監督が訪ねてきて、今監督はうれしかったのでしょうね。卒業生が担任の先生に会いにくるじゃないですけど。

平尾:(笑)

――監督同士になってから、話す内容も変わっていったんじゃないですか。

平尾:関係性は変わらなかったですよ。ただまあ、僕が外にでて演出や監督になってからは、自分のやりたいようにやればいいし、作品のことについてはあまり言わないみたいなスタンスにはなって、叱られるより褒めてくれることのほうが多くなりました。明確に口にはされませんでしたが「劇場版 空の境界」(※平尾監督が手がけた第五章「矛盾螺旋」は08年8月公開)とかは見てくださったらしくて、「頑張ってたよ」みたいなことは言ってくれて。そこから僕の人間的な部分について、お説教がはじまるんですけど(笑)。
 僕は、自分の作品がひとつ終わるたびに「こういうことができなかった」「ここはどうすればよかったんだろうか」と反省点を洗い出すことにしているのですが、今さんには何も話していなくても思っていることを全部当てられちゃうんですよね。「お前、こういうことで今悩んでいるんだろう。そういうのは考えるだけ無駄なんだよ」みたいなことを言われて(笑)。でも、ちょっとだけヒントをくれることもあって、そうすると、そのときはピンとこなくても、次の作品をやっているときに今さんの話を思い出すんです。「あ、このことを言っていたんだ」「ここでつまづくっていうことも言ってたなあ」とか、けっこう一致することがあって、なんでそんなに僕のことが分かるんだろうとよく思っていました。

――さり気なく、いろいろとアドバイスしてくださったんですね。

平尾:今さんに言われたことは僕のなかにずっと残っていますし、今でも何か迷ったとき、指針のように思い出すことがよくあります。亡くなったあと、今さんが夢のなかにでてきたこともあります。ある作品で本当に大変な思いをして全然寝られなくて、やっと家に帰って寝たら今さんがでてきて「答えはでたか」と聞かれてふっと目が覚めて(笑)。そのことは強烈に印象に残っていて、そのあと今さんのメッセージがどういう意味だったのか自分なりに分析して納得したんですけどね。

――ここまでお話をうかがってきて、今監督からは演出的なことよりも、監督としてのたたずまいのようなものを学ばれてきたのかなと思いました。

平尾:生き方と考え方ですかね。今さんからは技術的なことももちろん教えてもらいましたが、それよりずっと印象に残っているのは、映画に対する考え方や、人としての生き方、そういうもののほうが大きいですね。社会にでてからの先生というか大人というか、そういう人に出会えたという。
 ……他にもいろいろ思い出しますね。結婚パーティーにもきてくれたんですよ。僕が結婚したときにufotableでサプライズパーティーをやってくれて、二次会をカフェ(ufotableCafe TOKYO)でやったんですけど、そこにきてくれて二重のサプライズでした(笑)。挨拶もしてくれて、くわしい内容は覚えてないですけど、今日お話したようなマッドハウス時代の僕の恥ずかしい話を今さん流の言い回しでしながら、そのときがいちばん褒めてくれました。

「映画大好きポンポさん」第1弾キービジュアル

「映画大好きポンポさん」第1弾キービジュアル

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

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――今日はいろいろお話してくださってありがとうございました。最後に、平尾監督が制作中の「映画大好きポンポさん」の話を少し聞かせてください。制作状況はどんな感じでしょうか。

平尾:コンテは全部あがっていて、作画もそろそろ大詰めにさしかかり、動画や仕上げもあがってきて、これから本格的に撮影もはじまっていくかなという状況です(編注:取材を行った7月上旬時点)。

――山登りでいうと、ベースキャンプをつくって、これから山頂へみたいな感じでしょうか。

平尾:ちょうど山の中腹ぐらいまできて、ここからものすごい傾斜のあるところを一気に登らなければいけないって感じで、僕の気持ちとしてはけっこうしんどいところです(苦笑)。ただ今回は「ポンポさん」という作品や原作を好きで面白いと思って集まってくれたスタッフが本当に多いんですよ(※編注)。制作の初期からそうした人たちが少しずつ現れて今の状況になってくれているので、まわりに励まされながらつくっています。

編注:「映画大好きポンポさん」の原作漫画はpixivコミックで読むことができる(https://comic.pixiv.net/works/3728 )。また、MFCジーンピクシブシリーズより単行本第1~2巻が好評発売中。

――「映画大好き」というタイトルだけあって、平尾監督の映画への思いも詰まっている感じでしょうか。

平尾:そうですねえ。僕自身これまで映画やアニメーションに救われてきた部分があったので、そういった作品に自分なりに恩返しがしたいというか、昔の自分のように悩んでいたり、夢をおいかけていたりする若い人たちに向けた応援歌のような映画になるとうれしいなと。ちょっとおこがましい言い方かもしれないですけど「映画で救われることもある」っていう、そんな作品になればいいなと思っています。

――制作中のミニムービーを公式ツイッター(https://twitter.com/pomposan )で紹介していて、PVではなく数秒のGIFで少しずつ出していくのは面白くていいなと思いました。

平尾:宣伝や製作委員会の方たちも「ポンポさん」のことが大好きで、どうやったらこの作品をより多くの人に見てもらえるのだろうと考えてくださっていてありがたく思っています。「ポンポさん」の原作は本当に面白いんですけど、アニメ映画としてはなかなか企画がとおりにくいタイプの作品でもあると思うんですよね。それでもやろうと手をあげてくださった方々ばかりなんです。
 ミニムービーをアップしたツイートをきっかけに「ポンポさん」がアニメ化されることを初めて知った方が多かったのも意外でした。1年ぐらい前にアニメ化を発表していても知らない人はまだまだいて、そのこと自体はなかなか難しいことだなと思いましたが、少しずつ映像をだして知ってもらえるのはとても有効な宣伝だと思いました。

――原作漫画を読んだ人は「映画大好きポンポさん」を何分の映画にするのかも気になっていると思います。制作中の段階で尺のことを言うのもなんですけれど。

平尾:90分のことですね(笑)。ポンポさんの名言のひとつでもありますし、これはもう公開の折にぜひ見て確認していただきたいと思っています。そういえば映画の尺のことについても、今さんから言われたことがあったんですよ。「現代のお客に100分以上の映画は優しくない」という話をよくされていて。

――たしかに今監督の劇場作品は、どれも100分以内ですね。

平尾:「120分あると、お話の構成的に何かしらのダレ場をつくらなければいけない」と言われていて、ダレ場的なものをお客さんに強いたくないし、今さん自身も入れたくない。そこに予算のことなんかも考えると100分以内の尺がちょうどいいバランスだったんでしょうね。そういった言葉もよく覚えていて、尺の感覚も今さんからの影響が大きいかもしれないです。

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