2018年5月23日(水)19:00
【明田川進の「音物語」】第5回 “銀河声優伝説”と呼ばれたOVA「銀河英雄伝説」のキャスティング
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※本コラムでは、「銀河英雄伝説」終盤の展開について触れています。
「銀河英雄伝説」の新しいテレビシリーズ(※「銀河英雄伝説 Die Neue These」)がはじまりましたね。たまたま深夜にテレビをつけていて、「銀英伝」の新しいシリーズがはじまったのに気付きました。僕は前のOVAシリーズと劇場アニメの音響監督をやっていたので、そのときに演じてもらった役者さんが別のキャラクターを演じているのに「おお」と驚きましたが、今の若い人にはそんなことは関係なしに、これはこれで人気がでるのだろうなと思いました。今回は、OVA版「銀河英雄伝説」のキャスティングについて、お話しします。
OVA版のキャストを決めるさい、プロデューサーの田原(正聖。現・正利)氏から、ダブルキャストはなしで、「このキャラクターはこの声優さん」とのかたちでいきたいという話がまずありました。そのうえで、オーディションをしたり、サンプル音声からキャラクターにあっている人をこちらがピックアップしたりして、田原氏と総監督の石黒(昇)監督がいる検討会で絞りこむことが多かったです。メインのヤン(※富山敬)とラインハルト(※堀川りょう)は、はじめからスムーズに決まったと記憶しています。
もともと僕は、「銀河英雄伝説」の原作を全て読んでいたわけではなく、あんなにもキャラクターがたくさん出て、どんどん殺されたり新しい人がでてきたりする長い物語だとは思っていなかったんですよ。なので、キャスティングの候補だしも、最初の頃はわりと豪華にだしていたんです。そうしたら、あとのほうになって、「このキャラクターは、すでにキャスティングしたあの人にお願いしておけば……」となり、さらに何期も続けていくなかで、声優さんの中で、これだと思う人がいなくなってもいきました。なにしろ、当時の男性声優の方は、新人をのぞいて、ほとんど出演されたんじゃないかというぐらいのキャラクター数ですからね。当時、“銀河声優伝説”と言われていたぐらいです。
そんななか、劇団出身の人に声をかけるようになっていきました。劇団からキャリアをはじめて、外画系で主役をやっている人がわりと多くて、当時はまだそうした人たちがアニメにはあまり入っていなかった時期だったんです。また、「銀英伝」の魅力のひとつは会話劇じゃないですか。キャラクター同士がきちっと会話をしていないと、お話がなりたたないですから、芝居をやっている人はうってつけではないかとも考えました。テープオーディションをするとき、「銀河英雄伝説」では、「●●事務所の●●です」という前置きを入れずに、セリフだけを入れたものを田原氏や石黒監督に聴いてもらっていたのですが、そうすると劇団出身の人のほうがいいと言われることが多かったです。ちゃんと芝居をしているのが、すぐ分かるのでしょうね。すべてというわけではありませんが、当時、声優専門のプロダクションに所属しているなかには、滑舌はしっかりしていて声もいいけれど、なかなか会話がうまくいかない人も多かったんです。アニメは、短い尺のなかでポンポンポンと短いセリフを言うケースが多いため、それだけで育っていると相手とじっくり会話をする機会がありませんから、仕方ない部分もあるのですけれど。芝居の人たちは、普段から相手役がいて、相手がこうくるんだったらこう返すという絡みをずっと勉強してきている人たちですからね。
ただ、声や芝居がいいからと選んだ劇団の人のなかには、アニメーションの絵にあわせるのが苦手だという人もでてきました。今ならば、多少のズレは「Pro Tools」(※音響業界標準のソフトウェア)を使えば簡単に調整できるのですが、当時はテープで編集していたので、絵にあわせて声を長くするなんてことは基本的に難しい。セリフの間(ま)を伸ばしたりして、どうにかこうにかやっていました。また、プロデューサーの田原氏は、原作に対するこだわりが非常にある方で、原作のセリフの言い回しをアニメ用に脚色はせず、「原作のとおりに言う」スタイルを徹底していました。そうすると、編集した映像にセリフがどうしても入らないことがあって、何回かはセリフにあわせて絵のほうを直してもらうこともありました。
劇団出身で印象的だった人のひとりに、津嘉山正種さんがいます。津嘉山さんが演じるアイゼナッハは「沈黙提督」という二つ名があって、セリフはたったひとつ「チェックメイト」だけ。そのセリフを録って「お疲れ様でした」と言ったら、「え、これだけでいいの?」と驚かれました。舞台では主役をやっている方に、ひとことだけのためにでていただくなんてと恐縮しましたが、それだけの価値があったと思います。石塚運昇さんには、ヨブ・トリューニヒトをやってもらいました。石塚さんは劇団シェイクスピアシアターでずっとやられてきた方で、トリューニヒトの演説は、シェイクスピアの語りにピッタリだと思ったんです。青年座(※現・アプトプロ)の土師孝也さん(※エルネスト・メックリンガー役)、のちに私の会社で音響をやった「ヒートガイジェイ」のジェイ役も印象的だった文学座(※現・フクダ&Co.)の菅生隆之さん(※ファン・チューリン役)も思い出深いです。劇団方面でも人がいなくなってきたら、今度は役者さんに声をかけていきました。風間杜夫さん(※ブルース・アッシュビー役)は、映画「蒲田行進曲」で彼が演じた銀四郎の言い回しがキャラクターにピッタリだと思い、お話をしたらでていただけることになりました。
長いシリーズのなかで唯一皆勤賞だったのは、ナレーションの屋良有作さんで、屋良さんには、キャラクターも何人かやっていただいています(※OVA版1話、エルラッハなど)。最初にお話ししたとおり、本来は役をダブってやるのはよしとしないのですが、他の演者さんも何人かダブってやっていただいている方がいます。
ヤン・ウェンリー役の富山敬さんが亡くなられて、代わりの方を見つけるまでのことも思い出深いです。ヤン・ウェンリーが第3部で亡くなったのと同時期に富山さんが亡くなられて、原作ではその後も回想としてでてくるわけですから、どうしようかと、みんなでいろいろ考えました。最初はすべてユリアンの回想にして、ユリアンがナレーションで語るスタイルも考えましたが、それではすべてを表現できないからと新しい人を探すためにオーディションをやったのですが、何回やっても合う人が見つからない。そんななか、マンガ版を描いた道原かつみさんのキャラクターで短編の映画(※「銀河英雄伝説外伝 黄金の翼」)をつくることになって、そのときは文学座の原(康義)さんにやっていただいたこともありました。その後も、なかなか決まらなくて困っていたときに、郷田ほづみさんの名前をだしたら、「オーディションをやってみたい」との話になり、たまたま「銀河英雄伝説」のダビングをしていたアオイスタジオの側にきているとの話があって連絡をしたら来ていただけることになり、それがきっかけで、ほづみさんにやってもらうことになりました。その後、一般の方に作品を見てもらって、ほづみさんがヤンをやることにOKという反応をいただけたときには、本当にホッとしました。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
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