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特集・コラム 2018年9月12日(水)19:00

【明田川進の「音物語」】第12回 音響監督の適性と、本番への強さが問われるオーディションの怖さ

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前回は、声優事務所に入所したジュニアにどんなことを教えているかを紹介しました。今回は音響監督を目指している人にむけて、僕の会社ではどんなことをやっているかを少しお話したいと思います。

といっても、マジックカプセルでは最初から「あなたは音響監督に向いているから」と採るわけではなく、まずは制作として働いてもらっています。そのなかでプロデューサー方面の仕事が向いているとなったら、そちらの方向に進んでもらい、「ディレクションの部分で、面白いものをもっている」となったら、音響のディレクションをやってみなさいというふうになります。その場合も、すぐにテレビアニメをやるのではなく、ゲームやパチンコのセリフ録りをしたり、音響監督の助手としてついたりすることで、経験をつみながら目指していきます。そんなふうに大体2通りの進路があって、アニメ会社に制作進行で入った人が、アニメーションプロデューサーになる人と、演出や監督になっていく人に分かれるのに近いイメージです。音響監督という仕事は特殊で、本人がいくら希望しても、こちらサイドから見て「おそらく向いていないだろう」と思う人もいます。それを見極めるために、最初はアニメーションの音の制作とはどういうものか仕事をしながら把握してもらい、こちらも適性を判断するというかたちです。

今は音響監督を目指す人向けの専門学校がたくさんありますが、そうしたところから採ってウチで残っている人はあまりいません。当人に学習能力があるかどうかのほうが、何より大事だと僕は思っています。変に頭でっかちな人よりも、何も知らなくても日々の仕事のなかでどんどん勉強していこうとの意識をもっている人のほうが長続きして、1本立ちできる可能性が高いです。ただ、スタジオのミキサーなど録音に関わるスタッフは、どうしても今の時代、「Pro Tools」が分からないといけませんから、ウチの新人でも技術職は専門学校で学んできた人たちが多いです。

音響監督は本番への強さも必要になります。大昔の話ですが、音響監督をやりたいと入ってきた人に、まずはやらせてみようとスタジオで役者さんへのディレクションをやってもらったら、真っ白になって何もできなくなった人がいました。現場にたっても、そう簡単にはディレクションはできなくて、監督がこの作品をどう思ってつくろうとしているのかを自分で消化しないとやっていけません。そのためには台本を読んで、どんな音が求められているのかを理解できる学習能力がないと、なかなか務まらないんですよね。「音響監督になる方法」みたいなことが言えればいいのですが、ここまでお話ししてきたように、本人が希望しているからできるかというと、ちょっと違うところがあります。

本番への強さの大事さは、役者も同じです。前回のジュニア向け勉強会の話に戻りますが、勉強会の最後には、本番のアフレコとまったく同じスタイルで収録を行います。そこで、いざ実際に録音するとなったときに、上手くできずに泣き出してしまう子が何人もいました。これまで上手くできていたのが急にできなくなって、自分への怒りもふくめて泣いてしまうのでしょう。一方、それまで上手くできなかったけれど、最後の本番ではきちっとできる子もいます。だから、オーディションとは本当に怖いなと思うのは、普段いい演技をしている子が受かるのではなく、現場でポンと一発出せるかどうかが勝負の分かれ目なんです。これは、いくら僕たちが勉強会でサポートしても、最終的にやるのは本人ですから、本番でいかに求められるキャラクターの芝居を表現できるかが肝になります。

勉強会で見どころのある人は、ウチの制作の連中に「今度の新ジュニアで、こんな子がいるよ」と情報を流して、いろいろなオーディションにでてもらうことも多いです。勉強会を主宰している声優事務所のマネージャーも勉強会のときに見にきて、目に留まった子はピックアップされていきます。その声優事務所で新ジュニア向けの勉強会をやった1年目には今も活躍中の2人の声優がいて、そのうちの1人には、僕が音響監督をやっている作品のレギュラーのオーディションにでてもらい、最終的に主役に抜てきされました。その声優はこちらがダメだしをすると、そのたびに自分なりに考えて違うものをだそうという意識があって、それが正しいかどうかは別として、学習能力があることが分かったので、新番組のオーディションにでてみないかと誘ったんです。

ジュニアのうちから1回でも本番の仕事をやった人は、勉強会での伸びが全然違います。実際の仕事では、ベテランの人たちがいるなかでやるわけですから、そのなかで自分が演じられたとの意識をもてますし、学習能力がある人は、そこから格段に伸びていきます。逆に、勉強会だからと「ただやっているだけ」だと伸びません。だから、本気でやらないとピックアップされないよと話しています。ジュニアは3年目までありますが、1年目、2年目とふるいにかけられていき、最終的に準所属として残る人はほんのわずかという厳しい世界です。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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