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特集・コラム 2022年6月4日(土)19:00

【明田川進の「音物語」】第62回 楽しくか厳しくか、教える側の大きな違い

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昔僕が教えたことがあって今は声優として活躍している人に、「私たちが教わったときと今では、教え方がぜんぜん違いますね」と言われたことがあります。僕はずいぶん前から教える仕事をしていますが、たしかに教えるなかで変わっていったところがあったのかもしれません。

僕は、声優プロダクションから依頼をうけて教える仕事をはじめました。当時はまだジュニアというランクも存在しておらず、養成所で基礎を勉強してきた人を対象にしたものでした。実際にスタジオで本番をやるスタイルで緊張感をもたせながら芝居することを体験してもらうかたちで、今もこのスタイルで続けています。コロナになってからは、残念ながらお休みが続いていますけれど。

東映アニメーション研究所(※東映アニメーションによる人材育成機関。2011年に閉所)がお茶の水にあった頃、声優科で教えていたこともあります。そこでは、声の勉強が初めてという人を対象に、高校生など幅広くいろいろな人がきていましたから、最初の頃はとにかく声を出してもらい、芝居の実感がわかなくても声を出すことで楽しくなることが分かってもらえればというところから教えていました。その後、卒業生のなかから優秀な人たちが各プロダクションのオーディションをうけて徐々にプロになっていくのを見て、僕自身の教え方も各人それぞれの個性を上手くひきだせるような指導方法に変わっていったように思います。

すでに基礎を勉強してきた人と、まったく初めての素人の人相手とでは、教える側の意識に大きな違いがあります。そのひとつは、教えていくなかでクラスのなかに差ができたときにどう対応するかということです。初めての人が対象の場合、やっぱり学校ですから、差ができたときに上の人ばかりを対象にしていたら下の人たちがついてこられなくなります。そうなると、どうしても全体の中間あたりを対象に教えていかなくてはなりません。まずは芝居の喜びのようなものを感じてもらい、全体としてある程度楽しくできればと思いながら授業していたところがありました。

一方、基礎をある程度学んできたジュニアの人にはプロの高い水準を目標に、その人個人にあった教え方をしていきます。芝居の本当の面白さを知ってもらうため、また早めに自分自身の能力みたいなことを本人も分かったほうがいいのではないかという観点で、厳しい指摘もあえて言うようにしています。そのなかで、「あなたは向いていないから、辞めたほうがいいかもしれないですよ」とまで言ったことがありました。それぐらい、新人とはいえプロと素人の人相手とでは歴然とした違いがあります。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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