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特集・コラム 2023年3月18日(土)19:00

【明田川進の「音物語」】第70回 コロナ禍で失われつつあるベテランから新人への継承

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「銀河英雄伝説」4Kリマスターのために弊社でダビングをし直したとき、録ったセリフをもう一回全部聴き直してOKテイクを抜き出すという作業を、うちのミキサーが大変な時間をかけて行いました。そのときミキサーが、「今(のアフレコ)と緊張感がぜんぜん違う」と話していました。昔はフィルムで録っていましたから、誰かが途中でNGを出してしまうとフィルムを掛けかえてもう一回みんなで頭から録り直さなければいけなかったんですよね。ベテランの人でもたまに途中でトチってしまうときがあって、思わず「ちくしょう!」と漏らしているのも残っていて、「そういう緊張感があるのが良かったし、勉強にもなりました」と。実際、「銀英伝」の収録はテイクが多くなく、短い収録時間できちっと録れていました。

デジタルになった今は、間違っても「ごめんなさい」と言ってすぐ止めて、直前から録り直すことができます。そのこと自体は良い部分もあると思いますが、僕からすると安易に見えてしまうときもあって、今は緊張感のある現場が減ってきているように感じられます。
 以前行った岩田光央さんとの対談で、ベテランが若手に苦言を呈することの難しさが話題になりましたが(https://anime.eiga.com/news/column/aketagawa_oto/110239/ )、今はそういうことが言える人はだいぶ少なくなりました。そもそもベテランの人が収録に参加したとき、どうぞとメインに座らせるのではなく、ベテランの人が端っこのほうに座って、ホンを読みながら自分の出番を待つなんてことのほうが今は多いんじゃないかと思います。

コロナ禍になってもうすぐまる3年が経ちます(※本取材は2022年12月に実施)。そもそもベテランと新人が一緒になる機会がなくなっていて、新人がベテランの芝居を脇で見られなくなりました。3人のシーンでマイクが3つあったらブースには3人しか入れなくて、他の共演者は芝居を見られないわけです。完成した映像で最終的な芝居は見られますが、その人がやっている芝居を後ろで見ながら勉強するという、これまで新人がずっとできていたことがコロナ禍以降はできなくなってしまいました。
 役者の皆さんのあいだでも、みんなと掛け合いをしたいからコロナ前の状況にもどってほしいという人と、自分のセリフだけを言えばいい今の録り方のままで構わないという人に分かれているようです。大半の人が前者だと思いますが、ベテランのなかにも今の録り方を是とする人もいて、今の状況を考えるとその気持ちも分からないではないんですよね。

これまでも何度かお話していますが、バイプレイヤーが若い人からでなくなってきている状況があって、ベテランと若手の中間の層が非常に薄くなっている実感が僕にはあります。声に特徴があって、こういう役ならこの人だよねという役者が、あとの世代の人からなかなか生まれてきていません。そのため、ベテランの人が起用されているということが往々にしてあるように思います。
 最近になって、僕が初期に教えていた子たちがようやく主役をやるようになってきました。それぐらい役者が花開くのには時間がかかるもので、本来芝居というものはそういうものだと思います。今、作品はどんどん増えていますが、コロナ禍の状況で勉強する機会が大きく失われている新人たちがこれから育っていくと、どんなベテランになっていくのかちょっと心配になることがあります。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

作品情報

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