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特集・コラム 2020年3月12日(木)19:00

【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第15回 「劇場版SHIROBAKO」宮森あおい

(C)2020 劇場版「 SHIROBAKO 」製作委員会

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※編集部注:本作鑑賞後に読むことをお勧めします

テレビシリーズ「SHIROBAKO」の重要なポイントは、主人公を新人の制作進行に設定したところにある。
 アニメ制作を題材にした物語の場合、どうしてもアニメーターなどクリエイターが中心になりがちだ。それは創作という行為の不思議な魅力を描き出そうとするなら自然ななりゆきといえる。けれど「SHIROBAKO」はそれを選ばなかった。
 それは「SHIROBAKO」が「創作の不思議」ではなく、「集団でのものづくり」に焦点を当てたお仕事ものだったからだ。そして「集団制作」がうまく回るには各セクションを繋ぐ制作がとても重要だ。また制作を主人公にすると、アニメ制作の全行程を俯瞰することもできるので、視聴者に対してさまざまなスタッフがそれぞれの立場で関わっていることを描きやすい。つまり「集団制作」という主題に対して、一番深堀りしやすいポジションにいるのが制作なのだ。だからこそ、新人制作の宮森あおいは、主人公という立ち位置を背負うことになったのだ。
 では「劇場版SHIROBAKO」はどうだったのか。「劇場版SHIROBAKO」はテレビシリーズで描いた「集団制作」の主題は後景に退き、新たに「仕事を続けていくために必要なこと」にフォーカスが当てられている。その物語においてラインプロデューサーとなった宮森あおいはいかに主人公として振る舞ったか。
 主人公の条件のひとつに「引き金を引ける人物である」というものがある。イチかバチかの瞬間、臆することなく、的めがけて引き金を引くことができるか。その決断をできる人間だけが物語のセンターに立つ資格がある。そして宮森は劇場版できっちり引き金を――しかも2回も――引いてみせるのである。
 「劇場版SHIROBAKO」は、テレビシリーズのラストから4年が経過している。宮森が働く武蔵野アニメーションは、テレビシリーズの後、ある事件をきっかけに仕事がうまくまわらなくなってしまっていた。そこに持ち込まれた劇場版の企画。別の会社で進んでいた企画がまったく進んでおらず、なんとか公開に間に合わせるため武蔵野アニメーションにその話がやってきたのだ。もちろん納期までの時間は短い。普通に考えれば、作中でも「敗戦処理」と呼ばれている通り“しょっぱい仕事”でもある。
 だが宮森は、この企画を引き受ける。宮森はきっちり引き金を引いたのだ。それは勝算があるという計算をしっかりしたというよりは、彼女が自分の初期衝動(=アニメーションを作りたい)を信じた結果だった。この決断があるからこそ、宮森は本作の主人公たり得たのだ。
 そして本作で宮森は、もう一度“引き金”を引く。最初の“引き金”が宮森の初期衝動に由来する個人的な決断だったとするなら、二度目の“引き金”は、作品の完成に責任を持つラインプロデューサーという立場での決断だった。この瞬間、宮森は真にプロデューサーになったのだ。
 「劇場版SHIROBAKO」における宮森は、このようなかたちで主人公たり得ているのである。

藤津 亮太

藤津亮太の「新・主人公の条件」

[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ)
1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

作品情報

劇場版 SHIROBAKO

劇場版 SHIROBAKO 23

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